「その本が書かれたのが30年後で、会社が出来たのが50年後?」男は、静かに頷いた。
「それじゃ、あなたは未来から来たひとってことですよね」
「あなたには面倒な説明はいらないようですね」
もう、わたしは驚かなかった。男がなんて言うかなんて、だいたいは想像が出来た。きっと、この男は、自らそう思いこんでしまっているのか、誰かに信じ込まされてしまっているかに違いない。
それらは、男にとってはウソではなくて、あくまで本当のことなのだ。そして、彼の信じる真実は、語れば語るほどへんてこになっていくのだ。わたしは、もう少しだけ男の話につきあってみる気になっていた。からかわれるかわりに、からかってみたくなってきたのだ。
「その本には何が書いてあるんですか。スキップについて書かれてるんですよね」
「簡単にご説明いたします。タカラベ博士は、スキップすることによって発生するある力の存在に気づかれたのです。そして、その力が時間の流れに影響を与えていることもつきとめました。通常、時間というものは、なにもしていなくても、自然と一定の速度で進んでいきますね。過去から現在、現在から未来へというように。その速度をはやめることも出来なければ、未来から現在、現在から過去などというように遡ることは出来ないと、ながらく人々は信じ込んできました。それを博士の大発見がくつがえしたのです。ヒトがスキップと呼ばれる動作をする事によって生じる力、それが時間に作用すること、それをうまく操ることによって、ヒトは時間を自由に早送りしたり、巻き戻したりする事が出来るのです。まるで、あなたがビデオ映像をリモコンボタンでスキップするかのように」
「スキップで時間をスキップ?」結局、しょうもないオヤジギャグかよ。わたしは、思わず身震いした。わたしの時間はスキップするどころか停止してしまった。
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