「スキップして、時間をスキップ出来るなんて、わたしそんなこと、まだ信じられません。」
「無理もないことです。大多数の人々が、まだ信じていないことを、あなただけが信じるということは、なかなか困難をともなうことですからね。確かにスキップの際に生じる力というのは、ごく微弱なものです。そして、ほとんどの人はスキップを始めてもすぐにやめてしまいますね。なぜだと思いますか?」「はずかしいから?」
「そう。人が見ているからとかそんな理由でね。そんな短いスキップでは、時間の流れに影響を与えるなんてことは出来ません。だからこそ、ながらくの間、この現象に誰も気がつかなかったのだとも言えますね。飛行機を思い浮かべてもらえれば、わかりやすいかもしれません。飛行機が飛び立つ為には、長い助走距離が必要ですね。それと同じことで、スキップでも十分な助走距離をとってあげれば、時間の流れに変化を与えることが出来るのです。ところで、あなたがスキップをする時というのは、どんな気分の時ですか?あるいは、スキップをしている時の気分というのは。」
「え・・・っと。気分がはずんでるっていうか、ウキウキした気分?」
「そう、それです。飛行機が浮力を得ることによって飛ぶことが出来るように、スキップにおいては、その時にあなたが感じているウキウキとした気分が時間の流れに働き、通常の時間から切り離され浮かびあがる。そんなイメージをもってもらえればよいかと思います」
ちょっと、待って! 飛行機とスキップを無理矢理結びつけないでほしい。それは、どう結びつけようたって、どうにも結びつかない全然別のものだし、全然例えになんかなってない。ウキウキした気分で浮かびあがるだ? 結局のところ、それらを結びつけてるのはオヤジギャグレベルの話ではないか。
わたしも、大人たちの話すホントなのかウソなのかわからない怪しい話を、さんざん聞いてきたと思う。特に相手が堂々としてて、しかも大きな声だったりすると、まだ人生経験が豊富とはいえないわたしは、真偽の判断がつかずに困惑したものだ。でも、さすがのわたしにだって、こんなホラ話、到底受け入れられるわけがないよ。
「ウキウキした気分たって、だってそれは、あくまで気分の問題でしょ?」
「昔から、病は気からなんて言いますでしょう。もちろん、やる気があればなんでも出来るだなんて、そういう根性論を持ち出すつもりはありませんが、こころとからだは密接に結びつき、お互いに作用しあってはいるわけです。そして、こころは自身のからだのみならず、まわりの世界とも作用しあっているのです。それは、人々が意識するとしないとにかかわらずにです」
この男はいったい何者なんだ。あやしい宗教団体の勧誘? じゃなくて、誘拐目的なのだとでもしたら、自慢じゃないが、わたしの家なんて全然金持ちじゃない。
もし、わたしをさらって多額の身代金でも要求しようものなら、わたしの親とこの男の側双方で頭を抱えてしまうことだろう。
世の中には、そんなに苦労して探さなくたって、みずから金持ちをひけらかして、どうぞお金を盗みに来てくださいって言ってるような連中が、いくらでもいるんじゃないの?よりによって、わたしに目をつけるなんて。この男、完全に声をかける相手を間違えちゃいましたね。
それに、先生。わたし、なんだか眠くなってきました。こんなにも眠くなってしまうのは、わたしのせいですか、それとも先生の講義がつまらないせいですか?
「このへんで話はひとまず終わりにして、そろそろ実演とまいりますか。論より証拠、百聞は一見に如かずと申しますからね」
そう言うと、男はわたしの前を横切り、公園の端に向かって歩き出した。
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