★ プッチーニ作曲「ラ・ボエーム」、セラフィン指揮(1959年アナログ録音)アナログディスクとCD
色々なサイトで「優秀録音」の推薦盤が紹介されています。その何をもって優秀とするのか、という事が即ち推薦者の音に対するセンスを表していると思います。まぁ、低音が凄いとか、アタック音がシャープであるとか、そういった類が多いですね。私は、その手のものは早く卒業するべし、という立場ですが・・・自分は棚に上げています(笑)
さて、私のスピーカー技術者としての音決めのセンスがどの様な物か、胸を張って紹介出来る音源を一つだけ出せ、と言われたらコレを提示します。写真↑のセラフィン指揮のラ・ボエームです。1959年の録音です。古いですよね。ステレオ録音初期のものです。音楽表現の再現力が重要なので、演奏も録音もどちらもきちんとしていなければなりません。このセラフィン盤はその基準にかなっていると思います。但し本日は録音に特化してお話ししたいと思います。
この録音、実際のオペラコンサートと同じ配置、即ち舞台手前にオーケストラボックスが展開し、奥の舞台上のあちらやこちらに歌手が立って歌います。年代からしてマイク2~3本のワンポイントマイク録音と推察されます。従って、客席から歌手迄の距離がかなり遠く、ヴォーカルの音像がひどく奥まってしまうので、ショボイ音に聞こえる場合が多いと思います。この様な状態ですと、音量をどんなに大きくしてもリアリティが出ません。この様な録音物は悪い評判の立つリスクが高いと思われます。なので今時の録音物はコンサート・アリア形式の様な、舞台上にオケがいて、手前で歌手が歌う配置の物が多い様です。しかし、本来の立体音響(ステレオフォニック)とは、正にこのセラフィン盤の様な「超オフマイク」な録音であると考えます。
現代において「オンマイク」な録音が主流になっているのは、(超高級品を含む)スピーカーシステム全般の解像度の低さに起因していると考えています。本来は、必要な解像度が確保されていれば、オフマイクな録音において、正に生の音場と音像が再現されるはずです。昔のブラウン管TVの時代は、画像の解像度が酷く低かったので、否応なしに「アップ」の画像が多くなりましたが、オンマイク録音が多いのも同じ意味だと思います。
さて、このセラフィン盤ですが、超高解像度のDSS振動板スピーカーで聴きますと、舞台の奥にいる歌手であっても、生々しい血の通った実在感が出ます。無理に音量を大きくする必要もありません。舞台のあちらやこちらで歌手が歌合戦を繰り広げ、手前のオーケストラ伴奏がゆったりと盛り上げるリッチな音の饗宴の陶酔感・・・私はオペラファンと言うほどではありませんが、しかし本物の味わいに近い再生音で愉しめれば、やはり病みつきになるのは分かる気がします。
「解像度の低いスピーカーをオンマイク録音で鳴らす」という無意識の選択をしているのが現代のオーディオの良くない側面であり、音に魅力感の無いスピーカーが多勢になっている原因と考えております。私は以前からスピーカーデモの際には、実在感の再現力を聴いていただく様にしており、セラフィン盤の様に、「今風の優秀録音」ではない古い音源を多く使用しています。しかし、お客様からはしばしば感心された様子で「これはハイレゾ音源なのですか」とご質問を頂きます。いいえ「ローレゾ」なんですが・・・いい音って何なのか、考え直すべきではないでしょうか。
今風の優秀録音も再生装置も、音として何が大切なのか、スペックばかりで語っていると、本来の音楽の感動や醍醐味が失われてしまう事になります。この辺り、私はブレずに訴求して参りたいと思っております。