薩摩反骨2・振動板の構造改革-①分割振動の不都合な真実

2022年10月28日 | 薩摩反骨(スピーカー維新)

反骨精神! 長い物に巻かれるな(そのうち踏まれちゃうゾ!)

 

 

◆ 振動板の構造改革-①分割振動の不都合な真実

※ 今回は4回シリーズです

 

※ DSS振動板 10cm口径の試作例

 

<はじめに>

 音の基礎体力(詳しくは → こちらから)を徹底的に高める音作りのために、当社では独自のスピーカーユニットの開発を始めました。前回ご紹介済みの通り、スピーカー特有の二律背反問題により、「柔らかい」と「クリアー」の高度な両立は不可能であり、その根本原因は振動板の波打ち現象(分割振動)にあります。「波を打つ」という事は、瞬時に応答が出来ない、尚且つ応答が止められないという事であり、複雑な音楽信号の再現が出来ない事を意味します。分割振動に対しては、これまでも様々な対策が講じられて来ましたが、いずれも共振のピークを分散する工夫(下記に改めて解説)であって、波打ち現象そのものを排除する事は出来ていません。分割振動の本質排除というものは、従来の常識から見れば狂気の沙汰と言って良いほど困難なチャレンジですが、長年の苦労もあって徐々にモノになって来ました。それがDSS振動板ユニットなのです。

 ところで、従来のダイナミック型(コーン、ドーム)スピーカーの心臓部である振動板の技術の泥臭く奥深い部分については、多くのオーディオマニアにとってブラックボックスとなっています。振動板には複雑な問題があって、特に「周波数特性がフラット=善」という単純な考えで扱っても良い結果が得られない事については、あまり理解が無いと思われます。そして、その帰結として、周波数特性には劣っても、音の生き生き感(クリアーな音)に優れたビンテージスピーカーに対して、特性優先の現代スピーカーにはそれが欠けているという不都合な真実が、スペック競争という大義名分のもとに覆い隠されてしまっている事に大きな問題を感じています。今回の「薩摩反骨2・振動板の構造改革」ではそうした問題についても併せて解き明かしてゆきたいと思います。

 

<分割振動とは>

 スピーカーユニットの振動板は、全体が一体となって、たわむことなく前後にピストン運動をする事で正確な音波を再生することが出来ます。ところが、この動きが振動板の隅々まで伝搬するのに一定の時間がかかりますので、実際には団扇の様に波打ちながら振動が伝搬する事になります。この現象は常に起こっていて、更に特定の音高で強まったり、弱まったりもします。分割振動は、音色に癖を生じさせたり、濁り音や歪み音を生じさせたりすることで音質を劣化させます。

 

 

 ところで分割振動には二種類があり、丸い振動板に波紋の様に広がる波打ち現象(=軸対称モード、写真↑左側)と外周に沿った方向に生じる波打ち現象(=釣鐘モード、写真↑右側)の二種類があります。釣鐘モードの分割振動は 、文字通り釣鐘がゴーンと鳴っている状態と同じ現象です。更により高い音高では、軸対称モードと釣鐘モードが複雑に混ざり合った波打ちも生じます。微細振動なので、直接目視する事は出来ませんが、複雑な楽音の振動によって振動板の表面は荒海の様に複雑にうねりながら音を出しているのです。

 更に、分割振動の中でも特に大きな問題として、波打ちの波長と振動板のサイズが整数比率になる音高(周波数)においては、波打ちが大きく増幅される「共振現象」が生じます。この共振現象は、特に音質を劣化させます。

補筆

 分割振動について、「共振周波数のみで起こるので、これを抑えれば分割振動が無くなる」という誤解をしておられる方が多いと思われます。ご注意ください、分割振動(波打ち現象)は、釣鐘モードの共振開始点(例えば300Hz程度)以上の全音域で常に起こっています。そして共振現象は、分割振動に含まれる一部の状態でしかありません。

 

<分割振動対策の現実>

 さて、それでは従来はどの様な分割振動対策を行ってきたのでしょうか。現実的な対応策としては、上記の「共振現象」が強くならない工夫が第一義に求められて来ました。そのためには、振動板の板厚や形状を部分的に変えて共振周波数を分散させたり、制振材(ねばねば材料)を塗布して共振エネルギーを熱に変えたりします。これが従来の分割振動対策であり、共振現象による周波数特性上の凹凸のみを問題にする対症療法的なものであり、波打ち現象そのものについては見て見ぬふりをしていた(せざるを得なかった)のが実情です。分割振動は、スピーカーユニットの歴史的かつ根源的な問題ですが、根治不可能な病と同様に、騙し騙し上手に付き合うしかなかったのがこれまでの現実です。

 

次回に続く

 

 株式会社 薩摩島津 ホームページ・リンク



最新の画像もっと見る