能率と応答の良さ (補筆改訂版)

2022年03月15日 | オーディオ談義

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 島津Model-1 の常識破りについて、ご紹介の続きです。従来の常識では、「能率の低いスピーカーは応答の悪い音がする」と理解されていますが、これを覆すという話題です。

 さて、高能率スピーカー=高応答 という常識には実は誤りがあります。この理論的解説をするには長い技術文章が必要ですので別の機会とさせていただきますが、簡単に結論を申し上げますと、

・ 能率そのものは、単なるゲイン(音量の大小)の違いでしかない。(※1)

・ 高能率スピーカーの応答感は、振動板の硬い共振音。

・ 低能率スピーカーの鈍い音は、振動板の鈍い共振音。

 即ち、振動板の共振音の音色を応答感と誤解して聴いている、という事なのです。高能率スピーカーの軽い振動板は薄い鉄板を叩く甲高いイメージ、低能率の重い振動板の場合は厚いゴム板を叩くボソッとしたイメージです。

 それでは、島津Model-1 についてはどうでしょうか。80dB/2.83Vmという「超」低能率であります。しかしDSS振動板は立体補強構造による超高剛性振動板であり、共振そのものをほとんど生じないのが特長です。その音質ですが、歪みの少ない柔らかい音でありながら「よく飛ぶ」音力があります。別の言い方では、音にリアルな実体感があります。しかも小音量で聴いていてもその様に鳴ります。これが本来の自然な生音の応答感なのです。

※ 応答感とは、キン!とかカン!といった耳を刺す音の事ではないという事にご留意ください。生音のシンバルやスネアドラムはその様な歪んだ音ではないのです。

 この生音の応答感について補足します。具体的にはストラディバリウスの音色の様に、遠くまで良く届く、美しく、太く、力のある音の事を指します。或いは、混声合唱のフォルテが、混濁せずに腹に響く様な高分解能で力のある音の事を指します。因みに、大型スピーカーを大音量で鳴らせばこの様な音が出せるというのは音量による誤魔化しです。小音量でもこの様な音の表情を出せるのが本当の実力です。

 

※1. 補筆改訂(2023/04/10)

 能率が高いと「同じ入力電流でもより大きく振動板が変位するので、立ち上がりがその分速い」という説明がしばしばあります。しかしこの説明は応答に関する理解が正しくありません。トラックに大馬力エンジンを積むのと小型車に小馬力エンジンを積むのとでは、加速力が同じになるという原理と同じで、能率が高い場合は、その分(音量ツマミを絞って)小さな電流を入力して、(能率の低いものと)同じ音量になる様に揃える必要があります。そうすると立ち上がりも(能率の低いものと)同じになる、という事です。尚、立下りは(上記の例では)ブレーキ能力ではなく、ギアをバックに入れてエンジンをふかす状態です。但しタイヤが逆回転して空転するのではなくて、減速させるトルクが生じるとお考え下さい。加えてギアをバックに入れるタイミングと車速がゼロになるタイミングにはズレがあります。学術用語では「90°の位相ずれ」現象になります。スピーカーでも入力電圧波形と振動板の位置の間には位相ずれがあります。

 また、上記とは別の性質として、能率は低音域の応答特性には関係があります。振動系を支えるバネ力による共振現象が影響します。しかしここでは敢えて細かい理屈は省略させていただきます。というのも、「低音の応答感」というものについては、別の理解が必要であると考えるからです。

 即ち、低音の基音成分そのものは応答周期の遅い波動であり、(スピーカーの応答特性には関係なく)遅く感じるのが当然です。では、そもそも低音の応答感とは何なのか。低音の応答感とは、その倍音成分である中低音域の応答感が作り出すものと言えます。

 即ち、ぼやけた低音(基音成分)にシャープな輪郭となる中低音(倍音成分)が組み合わさる事で、はじめて低音の応答感が作られる、という事です。下図に解説。

 

 

 例えば、腰の弱い振動板のスピーカーは低音の応答感やパンチ感が出にくくなりますが、これは中低音域がしっかりしない事に起因します。中低音域が腑抜けであると、輪郭(応答感)の無いぼやけた低音になってしまいます。ピッチも不明瞭に聴こえます。これが聴感上「低音が遅れて聴こえる」事の正体と考えます。

 実際に、密閉型スピーカーであっても、中低域が腑抜けたものは低音の応答感が出ませんし、この状態でバスレフ方式によって低音を増やすと、余計にボケて聴こえる、という事が起こります。或いは、高剛性振動板のウーファーで、且つ強くバスレフを効かせたスピーカーシステムのデモを行う度に、「バスレフ方式なのに応答が良く聴こえる事に驚いた」という感想をいただく経験にも、以上の説明が整合します。

 島津Model-1 の場合についても触れておきます。本機は能率が低く、且つ小音量再生を前提に低音域は多めのバランスにしていますので、低音域の応答特性には有利とはなりません。しかし、高剛性振動板により低音の応答感は優れています。下記にオーディオライターの井上千岳氏による 島津Model-1 の低音部に関するレポートを引用させていただきます。

「・・・低音弦やティンパニなどがにじまず、音程や音色がぼやけないことも大きな特色と言っていい・・・」『MJ無線と実験2022年11月号』より。

 



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