アイは麗子の左手を握り、蓋の外れた筒をさゆりに向けた。
筒の中が金色に光り始め、それは筒の口まで溢れるように拡がって行く。筒を握る麗子の手に、振動が伝わってくる。
「アイ…… なんだかこの筒、震えていて、怖い……」
筒を握る麗子の手の力が弱まる。アイはその手を強く握った。
「麗子、怖がって手を放すんじゃねぇぞ」アイが麗子の耳元で言う。「お前が手を放したら、そこでおしまいになっちまうからな」
「どうして分かるのよう……」
「筒の蓋を開けられたのは麗子だけなんだから、お前が止めたらそこでおしまいだ」アイは言うと、さらに強く麗子の左手を握る。「わたしも一緒だから、怖がることなんてねぇよ」
「うん!」
麗子は力強くうなずく。
「……うっ」
さゆりがうめく。打ち出していた気が止まった。さとみはまださゆりの両手首をつかんでいる。
「何だぁ!」
さゆりは怒鳴ると、さとみの肩越しに目を凝らす。金色の光が真っ直ぐさゆりを捕らえていた。麗子とアイが持つ筒からの光だった。
「くそう!」さゆりにはそれが何の光りなのか、分かったようだ。「封印なんかされてたまるか!」
「え?」さとみは振り返った。金色の光が見えた。さとみには、力を与えてくれる温かな光に見えた。「わたしには、元気の素みたいだわ」
「ふざけんじゃないわ!」さゆりはさとみを睨む。「あれは諸悪の根源だわ! あれが元気の素だなんて、あんた、おかしいわよ!」
「何言ってんのよう! あんたなんか封印されちゃえばいいんだわ!」
突然、さゆりの髪が逆立った。逆立った髪はさとみの顔に覆いかぶさる。
「うわっ!」
さとみは声を上げると、思わずさゆりをつかんでいた手を放し、顔の前からさゆりの髪の毛を掃う。
と、さゆりがさとみの両手首をつかんできた。
「何よう! 放してよう!」さとみが腕を振って放そうとする。「痛いじゃないのよう!」
「放しちゃったら、あの筒に吸い込まれちまうんだよ!」
さゆりの髪の毛、着ている着物の袖口や裾が、背後から強い風を受けているかのようになびいている。その風が向かう先は麗子とアイの持つ筒の中の一点だ。
「良いじゃない。あなたを助けたかったけど、それを嫌がったんだから、仕方ないわ」
「分かったよ。改心する! いや、改心した!」さゆりは必死だ。「だから、あの筒の蓋を戻すように、あいつらに言ってくれよう!」
「言うには、わたしが生身に戻らなきゃダメよ」さとみは言う。「戻るには、その手を放してくれなくちゃ」
「そんな事して、間に合わなかったら、わたしは吸い込まれて封印されちゃうんだよ!」
「じゃあ、無理だわ。あなたが放してくれないんなら、わたしは動けないもの」
「何とかしなよ! お前は、あの影が邪魔者って思っているくらいの力があるんだろう?」
「そうかも知れないけど……」
「だろう? 何とかしてくれよう!」
吸い込む力が強くなる。朱音としのぶの『般若心経』の声がさらに大きくなった。アイに発破を掛けられているようだ。
「だったらさ、その影にお願いすりゃいいじゃない?」さとみは挑発的に言う。「もし現れたら、二人とも封印されちゃうんじゃないかしら? だから影は来ないんだわ。結局は臆病者なのよ!」
急にさゆりの頭ががくんと下を向いた。さとみの手首をつかむ力がより強くなった。
「臆病だと……」
押し殺したような声が、さゆりから洩れる。影がさゆりに憑いたようだ。さゆりは顔を上げた。目に憎悪があった。
「そうよ、臆病よ!」さとみは言う。「さゆりを使って自分はその後ろでこそこそしているんだからさ!」
碌で無しどもは倒したみつたちが、さとみの周りに集まって来た。三人の祖母たちも一緒だ。吸い込む力はさらに強くなっている。
「どう?」さとみは勝ち誇ったように言う。「あなたたちの力は弱まっているわ。みんなで一斉に攻めたら、おしまいよ!」
「お前、わざとオレを呼んだのか……」影の声が悔しそうに言う。「くそう、図ったな!」
「そうよ、わたし、今とっても頭が冴えているの」さとみが言う。「さあ、もう諦めて」
「やかましい!」影の声にさゆりの声が混じっている。影もさゆりもいらいらしているようだ。「……こうなったら」
さゆりは、さとみの手首をつかんだまま、ふわっと足を浮かせた。
「あっ!」さとみはバランスを崩し、自分のからだも浮き上がった。「何すんのよう!」
「お前も一緒に封印されろ!」
さゆりと影の声が言う。さゆりとさとみは、さらに浮き上がる。
つづく
筒の中が金色に光り始め、それは筒の口まで溢れるように拡がって行く。筒を握る麗子の手に、振動が伝わってくる。
「アイ…… なんだかこの筒、震えていて、怖い……」
筒を握る麗子の手の力が弱まる。アイはその手を強く握った。
「麗子、怖がって手を放すんじゃねぇぞ」アイが麗子の耳元で言う。「お前が手を放したら、そこでおしまいになっちまうからな」
「どうして分かるのよう……」
「筒の蓋を開けられたのは麗子だけなんだから、お前が止めたらそこでおしまいだ」アイは言うと、さらに強く麗子の左手を握る。「わたしも一緒だから、怖がることなんてねぇよ」
「うん!」
麗子は力強くうなずく。
「……うっ」
さゆりがうめく。打ち出していた気が止まった。さとみはまださゆりの両手首をつかんでいる。
「何だぁ!」
さゆりは怒鳴ると、さとみの肩越しに目を凝らす。金色の光が真っ直ぐさゆりを捕らえていた。麗子とアイが持つ筒からの光だった。
「くそう!」さゆりにはそれが何の光りなのか、分かったようだ。「封印なんかされてたまるか!」
「え?」さとみは振り返った。金色の光が見えた。さとみには、力を与えてくれる温かな光に見えた。「わたしには、元気の素みたいだわ」
「ふざけんじゃないわ!」さゆりはさとみを睨む。「あれは諸悪の根源だわ! あれが元気の素だなんて、あんた、おかしいわよ!」
「何言ってんのよう! あんたなんか封印されちゃえばいいんだわ!」
突然、さゆりの髪が逆立った。逆立った髪はさとみの顔に覆いかぶさる。
「うわっ!」
さとみは声を上げると、思わずさゆりをつかんでいた手を放し、顔の前からさゆりの髪の毛を掃う。
と、さゆりがさとみの両手首をつかんできた。
「何よう! 放してよう!」さとみが腕を振って放そうとする。「痛いじゃないのよう!」
「放しちゃったら、あの筒に吸い込まれちまうんだよ!」
さゆりの髪の毛、着ている着物の袖口や裾が、背後から強い風を受けているかのようになびいている。その風が向かう先は麗子とアイの持つ筒の中の一点だ。
「良いじゃない。あなたを助けたかったけど、それを嫌がったんだから、仕方ないわ」
「分かったよ。改心する! いや、改心した!」さゆりは必死だ。「だから、あの筒の蓋を戻すように、あいつらに言ってくれよう!」
「言うには、わたしが生身に戻らなきゃダメよ」さとみは言う。「戻るには、その手を放してくれなくちゃ」
「そんな事して、間に合わなかったら、わたしは吸い込まれて封印されちゃうんだよ!」
「じゃあ、無理だわ。あなたが放してくれないんなら、わたしは動けないもの」
「何とかしなよ! お前は、あの影が邪魔者って思っているくらいの力があるんだろう?」
「そうかも知れないけど……」
「だろう? 何とかしてくれよう!」
吸い込む力が強くなる。朱音としのぶの『般若心経』の声がさらに大きくなった。アイに発破を掛けられているようだ。
「だったらさ、その影にお願いすりゃいいじゃない?」さとみは挑発的に言う。「もし現れたら、二人とも封印されちゃうんじゃないかしら? だから影は来ないんだわ。結局は臆病者なのよ!」
急にさゆりの頭ががくんと下を向いた。さとみの手首をつかむ力がより強くなった。
「臆病だと……」
押し殺したような声が、さゆりから洩れる。影がさゆりに憑いたようだ。さゆりは顔を上げた。目に憎悪があった。
「そうよ、臆病よ!」さとみは言う。「さゆりを使って自分はその後ろでこそこそしているんだからさ!」
碌で無しどもは倒したみつたちが、さとみの周りに集まって来た。三人の祖母たちも一緒だ。吸い込む力はさらに強くなっている。
「どう?」さとみは勝ち誇ったように言う。「あなたたちの力は弱まっているわ。みんなで一斉に攻めたら、おしまいよ!」
「お前、わざとオレを呼んだのか……」影の声が悔しそうに言う。「くそう、図ったな!」
「そうよ、わたし、今とっても頭が冴えているの」さとみが言う。「さあ、もう諦めて」
「やかましい!」影の声にさゆりの声が混じっている。影もさゆりもいらいらしているようだ。「……こうなったら」
さゆりは、さとみの手首をつかんだまま、ふわっと足を浮かせた。
「あっ!」さとみはバランスを崩し、自分のからだも浮き上がった。「何すんのよう!」
「お前も一緒に封印されろ!」
さゆりと影の声が言う。さゆりとさとみは、さらに浮き上がる。
つづく
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