「うわぁぁぁぁっ!」
さとみは悲鳴を上げる。さゆりに手首をつかまれたまま浮き上がり、そのまま麗子の持つ封印の筒へと吸い込まれそうになったいるからだ。
「あはは、良いじゃないのよ。仲良くしましょうよ」さゆりは笑う。「わたし、さとみを他人とは思えないわ」
「思いっ切り他人よう!」さとみは怒る。「わたしがいなくっても、影と一緒じゃないのよう!」
「イヤだ! こんなおっかないヤツと一緒なんてさ!」
「何言ってのよ! そのお蔭でこうやっていられたんじゃない!」
「別に、わたしが頼んだわけじゃないし」
「そんな事言ってるくせに、力を使おうってしているじゃないのよう!」
「言ったじゃない、あるものは使うし、手放したくないのよ!」
「もう、知らないっ!」
さらに吸い込む力が強くなる。……もう、ダメだわ! さとみは覚悟した。……ああ、あと一回だけ「さざなみ」のメロンパンスペシャルが食べたかったなぁ…… さとみは両手でやっと持てるくらい特大の甘い香りのするメロンパンスペシャルを脳裏に思い描いた。
と、両足をがっしりとつかまれた感触があった。さとみは足元を見る。みつがさとみの両膝をしっかりと抱え込んでいた。
「みつさん!」さとみが驚く。「ダメよ! そんな事していたら、みつさんも一緒に……」
「さとみ殿!」みつは言うと歯を食いしばり、腰を落とす。「絶対に吸い込ませはしませんぞ!」
「みつ様!」冨美代は叫ぶと、背後からみつの腰に抱きついて、腰を落とす。「わたくしも、お手伝いいたします!」
「わたしも!」虎之助は言うと、冨美代の腹に腕を巻き付けて腰を落とす。「冨美代さん、わたし、心は女だから、心配しないでね!」
「あっしも加勢しやすぜ!」豆蔵が虎之助の腰に手を回して腰を落とす。「虎之助さん、竜二さんじゃねぇが、勘弁しておくんなさいよ」
「まあ、豆蔵さんの腕って、逞しいわ……」
「馬鹿な事言ってんじゃねぇですぜ!」豆蔵が声を荒げる。「力が抜けちまうじゃねぇですか!」
三人の祖母たちは、さとみの手首をつかむさゆりの手を放させようと、さゆりの手を叩いたり、さゆりの手首をつかんで引っ張ったりしていた。
「あはは! 無駄無駄無駄ぁ!」さゆりが笑う。その声に影の低く押し殺した声も交じっていた。「何があったって放しゃしないよ! お前らもまとめて一緒に封印だ!」
さゆりは言うと、からだの力を抜いた。さゆりのからだがさらに浮く。そして、吸い込まれる力が増して行った。
さとみを押さえているみつたちも、足元に力が入らなくなってきた。自分たちも浮き上がりつつあったのだ。綱引きのように、腰をうんと低く落とし踏ん張っている。しかし、時間の問題にも見えた。麗子とアイにはこの様子は見えていない。逆に、なかなか吸い込まれないさゆりにいらいらしていた。
「麗子! もっと集中するんだ! お前ならきっとやれる! わたしが付いているんだからな!」
アイの言葉に麗子はうなずき、「吸い込まれろ、吸い込まれろ」と繰り返しつぶやいている。
「朱音! しのぶ! 良い感じだぞ! もっと声を張り上げろ!」
アイの発破に、朱音としのぶはさらに声を張り上げた。
吸い込む力がさらに強まった。みつたちの腕が震えはじめ、限界の近い事を示している。三人の祖母たちのさゆりへの攻めも埒が明かない。……最早これまで。誰もがそう思った。
「さゆり!」さとみはさゆりに声をかけた。「ちょっと!」
「何よ! 諦めたの?」さゆりは言うと、さとみの顔を見た。「お友達や婆さんたちの力も弱まってきているし。そろそろ覚悟のしどころね。さあ、一緒に行きましょう」
「さゆり……」
さとみはつぶやく。と、突然、さとみは両の黒目を寄せ、舌をべえと突き出して、上下に忙しなく動かし始め、「んべろべろべろべろべえぇぇぇ!」と言う、わけの分からない言葉を発した。
「ぷっ! あはははは!」
さとみの思い切りの変顔をいきなり見せつけられたさゆりは笑い出した。と同時に、さとみの手首をつかんでいたさゆりの手の力が抜け、さゆりの手がさとみから放れた。
あっと言う間だった。さゆりは筒に向かって吸い込まれて行った。さゆりはさとみに方に顔を向けていた。その顔は、しまったと言う後悔の表情では無く、最高に面白い物を見たと言う表情だった。
さゆりを勢い良く吸い込んだ筒は、その衝撃を麗子とアイにも伝え、二人は押されたように仰向けに倒れた。
百合恵が素早く立ち上がる。不意に、からだのしびれが消えたのだ。やはりさゆりの呪を受けていたようた。さゆりが筒に吸い込まれた事で、それが解けたのだ。
「麗子ちゃん! 蓋をして!」
百合恵の声に、麗子は右手を見る。蓋が無い。仰向けに倒れた際に放してしまったようだ。
アイは打ちどころが悪かったのか、呻いていて動けない。朱音としのぶはまだ唱え続けている。百合恵が周囲を見回す。
「麗子さん! 筒をこちらへ!」
声がした。麗子は声の方を見ると、片岡が立っていた。片岡も呪が解けたのだ。片岡は右手に筒の蓋を持っていた。麗子は左手を差し出している片岡に向かって筒を放った。片岡は筒をつかむと、蓋を閉めた。イヤな空気が消えた。
「朱音さん、しのぶさん、もう『般若心経』は結構ですよ。すべて終わりました」
片岡は穏やかな声で言う。二人の声が止んだ。二人は目を開け、互いを見る。途端にわあわあと泣き出した。
つづく
次回で最終回です!
さとみは悲鳴を上げる。さゆりに手首をつかまれたまま浮き上がり、そのまま麗子の持つ封印の筒へと吸い込まれそうになったいるからだ。
「あはは、良いじゃないのよ。仲良くしましょうよ」さゆりは笑う。「わたし、さとみを他人とは思えないわ」
「思いっ切り他人よう!」さとみは怒る。「わたしがいなくっても、影と一緒じゃないのよう!」
「イヤだ! こんなおっかないヤツと一緒なんてさ!」
「何言ってのよ! そのお蔭でこうやっていられたんじゃない!」
「別に、わたしが頼んだわけじゃないし」
「そんな事言ってるくせに、力を使おうってしているじゃないのよう!」
「言ったじゃない、あるものは使うし、手放したくないのよ!」
「もう、知らないっ!」
さらに吸い込む力が強くなる。……もう、ダメだわ! さとみは覚悟した。……ああ、あと一回だけ「さざなみ」のメロンパンスペシャルが食べたかったなぁ…… さとみは両手でやっと持てるくらい特大の甘い香りのするメロンパンスペシャルを脳裏に思い描いた。
と、両足をがっしりとつかまれた感触があった。さとみは足元を見る。みつがさとみの両膝をしっかりと抱え込んでいた。
「みつさん!」さとみが驚く。「ダメよ! そんな事していたら、みつさんも一緒に……」
「さとみ殿!」みつは言うと歯を食いしばり、腰を落とす。「絶対に吸い込ませはしませんぞ!」
「みつ様!」冨美代は叫ぶと、背後からみつの腰に抱きついて、腰を落とす。「わたくしも、お手伝いいたします!」
「わたしも!」虎之助は言うと、冨美代の腹に腕を巻き付けて腰を落とす。「冨美代さん、わたし、心は女だから、心配しないでね!」
「あっしも加勢しやすぜ!」豆蔵が虎之助の腰に手を回して腰を落とす。「虎之助さん、竜二さんじゃねぇが、勘弁しておくんなさいよ」
「まあ、豆蔵さんの腕って、逞しいわ……」
「馬鹿な事言ってんじゃねぇですぜ!」豆蔵が声を荒げる。「力が抜けちまうじゃねぇですか!」
三人の祖母たちは、さとみの手首をつかむさゆりの手を放させようと、さゆりの手を叩いたり、さゆりの手首をつかんで引っ張ったりしていた。
「あはは! 無駄無駄無駄ぁ!」さゆりが笑う。その声に影の低く押し殺した声も交じっていた。「何があったって放しゃしないよ! お前らもまとめて一緒に封印だ!」
さゆりは言うと、からだの力を抜いた。さゆりのからだがさらに浮く。そして、吸い込まれる力が増して行った。
さとみを押さえているみつたちも、足元に力が入らなくなってきた。自分たちも浮き上がりつつあったのだ。綱引きのように、腰をうんと低く落とし踏ん張っている。しかし、時間の問題にも見えた。麗子とアイにはこの様子は見えていない。逆に、なかなか吸い込まれないさゆりにいらいらしていた。
「麗子! もっと集中するんだ! お前ならきっとやれる! わたしが付いているんだからな!」
アイの言葉に麗子はうなずき、「吸い込まれろ、吸い込まれろ」と繰り返しつぶやいている。
「朱音! しのぶ! 良い感じだぞ! もっと声を張り上げろ!」
アイの発破に、朱音としのぶはさらに声を張り上げた。
吸い込む力がさらに強まった。みつたちの腕が震えはじめ、限界の近い事を示している。三人の祖母たちのさゆりへの攻めも埒が明かない。……最早これまで。誰もがそう思った。
「さゆり!」さとみはさゆりに声をかけた。「ちょっと!」
「何よ! 諦めたの?」さゆりは言うと、さとみの顔を見た。「お友達や婆さんたちの力も弱まってきているし。そろそろ覚悟のしどころね。さあ、一緒に行きましょう」
「さゆり……」
さとみはつぶやく。と、突然、さとみは両の黒目を寄せ、舌をべえと突き出して、上下に忙しなく動かし始め、「んべろべろべろべろべえぇぇぇ!」と言う、わけの分からない言葉を発した。
「ぷっ! あはははは!」
さとみの思い切りの変顔をいきなり見せつけられたさゆりは笑い出した。と同時に、さとみの手首をつかんでいたさゆりの手の力が抜け、さゆりの手がさとみから放れた。
あっと言う間だった。さゆりは筒に向かって吸い込まれて行った。さゆりはさとみに方に顔を向けていた。その顔は、しまったと言う後悔の表情では無く、最高に面白い物を見たと言う表情だった。
さゆりを勢い良く吸い込んだ筒は、その衝撃を麗子とアイにも伝え、二人は押されたように仰向けに倒れた。
百合恵が素早く立ち上がる。不意に、からだのしびれが消えたのだ。やはりさゆりの呪を受けていたようた。さゆりが筒に吸い込まれた事で、それが解けたのだ。
「麗子ちゃん! 蓋をして!」
百合恵の声に、麗子は右手を見る。蓋が無い。仰向けに倒れた際に放してしまったようだ。
アイは打ちどころが悪かったのか、呻いていて動けない。朱音としのぶはまだ唱え続けている。百合恵が周囲を見回す。
「麗子さん! 筒をこちらへ!」
声がした。麗子は声の方を見ると、片岡が立っていた。片岡も呪が解けたのだ。片岡は右手に筒の蓋を持っていた。麗子は左手を差し出している片岡に向かって筒を放った。片岡は筒をつかむと、蓋を閉めた。イヤな空気が消えた。
「朱音さん、しのぶさん、もう『般若心経』は結構ですよ。すべて終わりました」
片岡は穏やかな声で言う。二人の声が止んだ。二人は目を開け、互いを見る。途端にわあわあと泣き出した。
つづく
次回で最終回です!
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