「あら、イヤだ!」
「まあ、どうしましょ!」
シャンとブロウは最後に書かれた岡島の名前を見て悲鳴を上げた。
「コーイチ君!この人の名前はイヤだって言ったじゃない!」
ブロウは言ったが、コーイチはすでに床の上で大の字になって、全身から湯気を立てていた。顔には大きな仕事をやり終えた後に浮かべる満足そうな笑みが湛えられていた。
「仕方ないわねぇ……」シャンは腕組みをして溜息をついた。「取り合えず、何色になるか見ておきましょう」
二人はスミ子を覗き込んだ。岡島の名前は紫色に縁取られた。ブロウはそれを見て驚いた顔になった。
「ねぇ、ブロウ。この色の意味って何?」
「紫……」ブロウがつぶやいた。「この色は『世界的著名人の色』よ……」
「じゃあ、あの人、有名人になっちゃうのぉ!」シャンが思い切りイヤそうな顔をした。「スミ子に文句言って、変えさせないと……」
「ダメよ、お姉様」ブロウは頭を左右に振った。「スミ子、一度決めた色はそう簡単には変えないわ。変えるにはまた何かで機嫌を取らないと……」
「面倒くさいわねぇ……」シャンはうんざりした顔をした。「ま、それよりも、次のページ、最後のページを見てみましょうよ」
「そうね」
ブロウがスミ子を手に取り、ページを繰った。
最後のページは白紙になっていた。
「スミ子……」ブロウがこわい顔でスミ子を見た。そして、低い静かな声で続けた。「さ、コーイチ君の名前を戻してちょうだい。さもないと……」
スミ子はからだを(ノート全体を)ぶるっと震わせた。しばらくすると、赤く縁取られたコーイチの名前が浮き上がって来た。
「なによ、赤いままじゃないの!」シャンがブロウの手からスミ子を取り上げ、ぶらぶらと振りながら言った。「あれだけ人の名前を書かせておいて、どう言うつもりなのよ!」
「スミ子!」ブロウがシャンの手からスミ子を取り上げ、さらに激しくぶらぶらと振った。「あなた、ペットノートのくせに良い度胸してるわね……」
ブロウが手を離すと、スミ子を床に落ちずに宙をふわふわと漂っていた。ブロウは目を細め、スミ子に向かって右手の人差し指を突きつける。
「コーイチ君を助ける気がないって事ね。と言う事は……」目が妖しく光り出す。「覚悟は良いって事ね……」
コーイチの名前の赤い縁取りが消え、コーイチが書き込んだ時の状態に戻った。
「やれば出来るんじゃない」ブロウは笑顔で言って、両手ですくい上げるようにスミ子を持ち上げた。「さ、今度は別の色で縁取りよ。何色にするのか、分かっているわよねぇ……」
目を細めたブロウの肩を、シャンがぽんぽんと叩いた。
「あのね」シャンが振り返ったブロウに呆れたように言った。「あなた、最初から、こうやってスミ子をおどかせば、良かったんじゃないの?」
「あっ、そうか! そう言われれば、そうよね!」ブロウは弾けた様に笑い始めた。「今の今まで、全く気付かなかったわ!」
「やれやれ……」シャンは床で動かないままのコーイチを見て、ため息をついた。「コーイチ君、災難だったわねぇ……」
つづく
「まあ、どうしましょ!」
シャンとブロウは最後に書かれた岡島の名前を見て悲鳴を上げた。
「コーイチ君!この人の名前はイヤだって言ったじゃない!」
ブロウは言ったが、コーイチはすでに床の上で大の字になって、全身から湯気を立てていた。顔には大きな仕事をやり終えた後に浮かべる満足そうな笑みが湛えられていた。
「仕方ないわねぇ……」シャンは腕組みをして溜息をついた。「取り合えず、何色になるか見ておきましょう」
二人はスミ子を覗き込んだ。岡島の名前は紫色に縁取られた。ブロウはそれを見て驚いた顔になった。
「ねぇ、ブロウ。この色の意味って何?」
「紫……」ブロウがつぶやいた。「この色は『世界的著名人の色』よ……」
「じゃあ、あの人、有名人になっちゃうのぉ!」シャンが思い切りイヤそうな顔をした。「スミ子に文句言って、変えさせないと……」
「ダメよ、お姉様」ブロウは頭を左右に振った。「スミ子、一度決めた色はそう簡単には変えないわ。変えるにはまた何かで機嫌を取らないと……」
「面倒くさいわねぇ……」シャンはうんざりした顔をした。「ま、それよりも、次のページ、最後のページを見てみましょうよ」
「そうね」
ブロウがスミ子を手に取り、ページを繰った。
最後のページは白紙になっていた。
「スミ子……」ブロウがこわい顔でスミ子を見た。そして、低い静かな声で続けた。「さ、コーイチ君の名前を戻してちょうだい。さもないと……」
スミ子はからだを(ノート全体を)ぶるっと震わせた。しばらくすると、赤く縁取られたコーイチの名前が浮き上がって来た。
「なによ、赤いままじゃないの!」シャンがブロウの手からスミ子を取り上げ、ぶらぶらと振りながら言った。「あれだけ人の名前を書かせておいて、どう言うつもりなのよ!」
「スミ子!」ブロウがシャンの手からスミ子を取り上げ、さらに激しくぶらぶらと振った。「あなた、ペットノートのくせに良い度胸してるわね……」
ブロウが手を離すと、スミ子を床に落ちずに宙をふわふわと漂っていた。ブロウは目を細め、スミ子に向かって右手の人差し指を突きつける。
「コーイチ君を助ける気がないって事ね。と言う事は……」目が妖しく光り出す。「覚悟は良いって事ね……」
コーイチの名前の赤い縁取りが消え、コーイチが書き込んだ時の状態に戻った。
「やれば出来るんじゃない」ブロウは笑顔で言って、両手ですくい上げるようにスミ子を持ち上げた。「さ、今度は別の色で縁取りよ。何色にするのか、分かっているわよねぇ……」
目を細めたブロウの肩を、シャンがぽんぽんと叩いた。
「あのね」シャンが振り返ったブロウに呆れたように言った。「あなた、最初から、こうやってスミ子をおどかせば、良かったんじゃないの?」
「あっ、そうか! そう言われれば、そうよね!」ブロウは弾けた様に笑い始めた。「今の今まで、全く気付かなかったわ!」
「やれやれ……」シャンは床で動かないままのコーイチを見て、ため息をついた。「コーイチ君、災難だったわねぇ……」
つづく
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