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怪談 化猫寺 12

2019年10月09日 | 怪談 化猫寺(全18話完結)
 仁吉は話した。
 寺に立派なお住職がいた事、亡くなられてから寺が荒れてしまった事、昔の恐ろしい出来事、猫が増えた事、松次が寺の猫たちに連れ去られ、今朝、猫みたいになって見つかった事……
 坊様は黙って仁吉の話を聞いていた。話し終わると、仁吉は急に泣き出した。
「どうした? いきなり怖くなったのか?」
 坊様の問いかけに、仁吉は首を左右に振る。
「そうじゃない! 今朝の大人たちだ! 何もしてくれなかったのに、叱ってばかりだった!」仁吉は両の拳を強く握った。「それがとても悔しい! それに、大人たちが死んだ人を寺に放り込むなんてしなけりゃ、松次だって、あんな風にはならなかったはずだ!」
「そうか、そうか」坊様は仁吉の肩を優しく叩いた。「怖くはなくて、悔しいか……」
 坊様は立ち上がった。仁吉は泣きながら坊様を見上げる。
「お前さん、見所があるぞ」坊様は言うと、からからと笑った。「その寺へ案内してくれんか。いや、その前に松次の所じゃ」
「いやだ! オレはもうあんな所には帰らない!」仁吉も立ち上がった。「あんな、どうしようもない所には、二度と帰らない!」
「ほう……」坊様はおどけた声を出す。「じゃあ、お前さん、これからどうするんだい?」
「わからん! ……わからんけど…… 帰りたくない……」
「子供一人では、今日と言う日すら生きてはおれんぞ」坊様はからだを曲げて、仁吉の顔を覗き込む。「わんわん泣いていて、ごめんなさいと繰り返している子供がいて、そこで話を聞いて、十分に後悔しているんで連れ帰ったって事にしないかのう? どうだ?」
「でもオレ、わんわん泣いて、ごめんなさいなんて絶対言わないぞ!」
「その方が、角が立つまいて」
「でも、それは嘘だ。坊様が嘘をついても良いのか?」
「嘘も方便と言う教えがあるのじゃ」
「嘘つくと閻魔様に舌抜かれるって聞いてるぞ」
「そうか。そこまで言うなら、好きにせえ」坊様は言うと、真顔になった。「……お前さんの肩の所に、何やら見えるのう…… 何やら白いものじゃのう…… どうやら、猫のようじゃが…… ま、良いか。じゃあな。憑かれぬように気を張る事じゃ」
「ま、待って!」立ち去りかけた坊様の衣に仁吉はしがみついた。「……本当に、白い猫が居るのか?」
「お前さんには見えんかもしれんが、わしには見えるぞ…… じっと、お前さんの顔を見ているな。気に入られたんじゃないかのう」
「そんなの、嫌だ!」仁吉はさらに強く坊様の衣を握りしめた。「……やっぱり坊様と一緒に帰る……」
「そうか、そうするか」坊様は笑った。「聞き分けの良い子じゃ。……おや、白い猫は見えなくなったぞい」
 仁吉は坊様と並んで歩き出した。しばらく歩いていると、見覚えのある場所に出た。ここからなら、家までの道を迷う事は無い。
「……本当に猫が見えたのかい?」
 歩きながら、仁吉は恐る恐る坊様に言う。
「坊様は、嘘はいかんのじゃろう?」
 坊様は仁吉を見下ろしながら、にやりと笑って答える。
「でも、嘘も方便って言ったぞ……」
「じゃあ、帰るのを止めるか?」
 坊様の足が止まった。
「いや、一緒に帰る!」
 仁吉は坊様の衣をまた握りしめた。


つづく


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