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お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

怪談 化猫寺 13

2019年10月10日 | 怪談 化猫寺(全18話完結)
 仁吉は坊様と共に戻って来た。村はずれの一里塚の前で、兵太とおみよが所在無げに立っていた。
「あ、仁吉さん!」
 おみよが通りを曲がって姿を見せた仁吉に駈け出した。兵太も後を追う。二人は仁吉の前に立った。
「仁吉! 帰って来たんか! 良かった!」
「うんと心配してたんよ……」
 兵太は笑顔になり、おみよは涙ぐんでいる。
 その時、仁吉の後から、ぬっと大柄な坊様が現われた。兵太は一歩下がり、おみよは小さく悲鳴を上げた。
「これこれ、そう恐れるでない」坊様は笑顔で言う。「わしは熊ではないぞう。わしは仁吉の連れじゃよ」
「……連れ?」兵太は不思議そうな顔で仁吉を見る。「どう言うことだ?」
「途中で会ったんだ。色々話をした。そしたら、一緒に来てくれるって言って……」
「仁吉の代わりにわしが仁吉の親御さんに謝ってやろうと思うてな」
「でも、仁吉さんはなんも悪い事はしとらんのよ?」おみよも不思議そうな顔をする。「なんもしてくれんかった大人が悪いんよ」
「まあ、そう大人を責めるものではないぞ」坊様は笑顔のままで言う。「大人には大人の色々があるんじゃよ」
「でも!」兵太は口を尖らせる。「朝の様子はひどかった! オレたちが松次を見つけたのに、大人は手も貸さなかったんだからな!」
「そうか、そうか」坊様は大きくうなずいた。「お前さん方は立派じゃのう」
「まあ、それほどでもないけど……」兵太は褒められて照れくさそうにした。普段誉められていないので、多少戸惑ってもいるようだ。「……で、お坊様は仁吉の代わりに謝りに来ただけかい?」
「ふむ、実はな、松次の事が気になってな」坊様は兵太を見ながら言う。「ひょっとしたら治してやれるかもしれん」
「本当か! 松次は、松次の父ちゃんに連れて行かれて、松次の家にいるんだ!」
「でも、お坊様は仁吉さんの代わりに謝りに来たんでしょ?」
「何言ってんだよ、おみよ! 仁吉の親なんかより、松次が先だ! なあ、仁吉!」
 兵太は言うと仁吉を見た。仁吉は大きくうなずいた。兵太は坊様を見上げた。
「じゃあ、オレたちが案内するよ!」
 兵太は言うと駈け出した。その後に仁吉とおみよが続く。坊様は錫杖を突き突き、三人の後を追った。

 三人は松次の家の前に立っていた。坊様はしばらくして、ふうふうと息を切らしながら辿り着いた。
「……いやはや、子供と言うのは、元気の塊じゃのう……」坊様は息を切らしながら笑った。「……それで、ここが松次の家かな?」
 三人は黙ってうなずいた。坊様は松次の家の戸を激しく叩いた。
「ご免! わしは仁吉から話を聞いて参った旅の坊主じゃ。ちょいと松次をみせてくれい!」
 しばらくすると、がたごとと松次の家の戸が揺れながら開いた。中から、困惑し疲れ切った顔の女が出て来た。
「あ、松次の母ちゃん……」
 仁吉はつぶやいた。
 いつもは快活で伝法肌の松次の母親は、まるで別人のようになっている。
「どちら様で……」虚ろな眼差しで松次の母親は坊様に言う。「それに、松次はまだ死んではおりませぬ……」
「わかっとるよ」坊様は言うと、松次の母親の肩にそっと手を置いた。「嘆くのはわかるがの、嘆き切ってはいかん。とにかく、松次をみせなさい」
「お前さん、どこの坊様だ?」奥から松次の父親が、母親同様の表情で姿を見せた。「……松次はもうおしまいだ。朝からずっとあのまんまだよ……」
「これこれ、二親そろってそんな及び腰でどうするんじゃ。そんな事では、松次は治らんぞ」
「……治るんで?」父親の目に希望が宿ったように光る。母親もそわそわとしだす。「お坊様、治せるんで?」
「原因さえ取り除けば、治るものだ。そのためには、原因を見極めねばならん。さ、中へ通してくれい」
 戸の前から松次の親は身をどけた。坊様は錫杖を持った右腕をずんと突き出し、そのままの姿で敷居を跨いだ。


つづく



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