お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

探偵小説 「桜沢家の人々」 5

2007年12月29日 | 探偵小説(好評連載中)
「なによ、それ!」
 冴子が呆れた声を出した。
 ここは正部川の下宿のある通りだ。周りの草臥れた景観に合った、かなり年季の入った建物だった。下宿から少し離れたところに、ここに全くそぐわない高級外車が止まっていた。
 下宿の玄関先にはTシャツとジーンズ、素足にサンダル履きで手には文庫本を持った正部川がぽかんとした顔をして立っていた。その前に大きく胸元の開いた赤いワンピースにかなり踵の高い赤いハイヒールを履いている冴子が立っている。
「誕生パーティに出席するのに、なんて格好なのよ!」
「だって、オレ、余所行きの服持ってねーもん!」
 正部川は怒った顔をした。しかし、貧相な顔のため今一つ迫力が無い。
 冴子はそんな正部川を鼻で笑った。
「そんな顔したって、全っ然恐くないわよ! それに、行く事が決まって何日かあったって言うのに、準備が出来ていないなんて、何をしてたのよ!」
「何って・・・」
 正部川はまた迫力に欠けた恐い顔をして見せた。
「そりゃあ、冴子みたいにさ、家に巨大なクロークがあってさ、どんな服でも揃っていりゃあさ、全く心配なんかしやしないだろうさ!」
「そんな文句を言うんなら、あの時断ってくれれば良かったじゃない!」
 二人の声がだんだん大きくなって行く。
「先輩たちに囲まれて、全員から『行ーけ! 行ーけ!』って手拍子付きの大合唱をされたら、断れっこないじゃないか!」
「なによ、この根性なし!」
「なに言ってんだ! 誘ったのはそっちだろう! おじい様にウソはつきたくないとか何とか言って、僕の提案を無視したんじゃないか!」
「じゃあなあに? 私を嘘つきにしたいわけ?」
「それじゃ、僕は冴子の嘘つき回避のためだけに付き合わされるってのか!」
 二人は睨み合った。
「お嬢様・・・」
 低いドスの効いた声が響いた。
 二人は同時に声の方を見た。
 いかにもボディガード風な大男が二人、外車の前に立っていた。一人が一歩前へ出た。
「お戯れはそこまでになさって、そろそろ出発しませんと、先方様に間に合いませんが・・・」

    続く


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