機体番号を打ち込んだ装置はぴこぴこと電子音を立て始めた。ナナはそれを見ている。装置表面に八桁ほどのデジタル表示の数字がくるくると回転するように入れ替わっている。やがてぴいぴいぴいと電子音を立てながら、決まった数字を明滅させている。
「さあ、これでアツコの居場所が分かったわ!」ナナは得意気に言う。「さすがケーイチさんね!」
「そうね、お兄様はやっぱり天才ね!」アツコも何故か得意気だ。「「その弟なんだから、コーイチさんは最高よ!」
「お姉様、その理屈はよく分かんないけど、何故か納得!」
ナナと逸子はきゃあきゃあ言いながら手を取り合って跳ね回っている。
「ほら、そんな遊んでいないで、アツコの所へ向かおうよ」
少々むっとしたタケルが言うと、自分のタイムマシンを取り出して作動させた。ナナはタケルに装置の数字を見せた。それは座標を表わすようで、タケルは一つ一つ丁寧に打ち込んだ。しばらくすると光が生じた。
「さあて…… アツコと御対面ね……」
逸子は指をぼきぼきぱきぱきと鳴らし、光の中へ入って行った。続いてタケルが入る。そしてナナが入ろうとして、タロウに振り返った。
「あなたも来るんでしょ?」
「いや、ボクは……」
「アツコに色々と言いたいんじゃない?」
「いや、もうアツコはどうでも良いんで……」
「じゃあ、お姉様を守る役をやってよ」
「でも、ボクは軟弱者だし……」
「あなた、頭が良いんでしょ? 何かの役に立つかもしれないじゃない?」
「いえ、何の役にも立ちませんよ……」
「ごちゃごちゃ言わないの!」
ナナは言うと、タロウの腕をつかんで光の中に入った。
しばらくして光はすうっと消えた。
残されたアツコの三人の部下は顔を見合わせる。その中の一人があごをさすりながら話し出した。
「おい、オレの記憶違いでなければ、アツコのタイムマシンの機体番号は『1236-598-772』ではなくて『1236-598-771』のはずだが……」
「なんだって!」別の一人が驚く。「タロウが覚え間違いをしたのか?」
「そんなはずはない」三人目が言う。「タロウは『ブラックタイマー』全員の誕生日や、ファンの女性のスリーサイズを覚えていたのだぞ。数字に関しては特殊すぎる能力を持っている」
「そんなタロウがなぜ間違うんだ? ……ひょっとしてオレが覚え間違いをしていたのかもしれん」
「いや、今思い出したんだが、『1236-598-771』だった。いつだったか、タイムマシンの汚れを落とすように頼まれたことがあって、その際に機体番号を見たんだ。末尾三桁をオレのと足すと『1500』になるなと思った」
二人目は言いながら自分のタイムマシンを取り出した。末尾三桁は「729」だった。
「だとすると、タロウが間違ったのだな……」三人目が腕組みをして考え込む。「でも、タロウが間違うとは思われんが……」
「そう言えば、タロウは一緒に行くのをためらっていたな。あれだけ目立ちたい男であるのに」
「確かにな…… 行くのをためらっていたのではなく、行きたくなかったんじゃないのか?」
「そうか、間違った数字をわざと教えたのだから、行きたくなかったのだな」
「うん、その可能性は大いにあるな」
「あの連中に色々とされたので、腹が立ったのだろう」
「そうだな。タロウは性格が屈折しているからな。アツコも心配はしていた」
「……となれば、タイムマシンの着く先はエデンの園ではないと言う事になるか……」
「そうなると、タロウはどうなってしまうのだろうな? あの逸子と言う女、怒らせると大変だぞ……」
三人は吹き飛んだ天井を見た。雲一つない真っ青な空をトンビがぴいひゃららと鳴きながら輪を描いている姿が見えた。
「……ところで、『1236-598-772』って、誰のタイムマシンなんだ……?」
三人は腕組みしながら考え込んだが、誰もわからなかった。
つづく
「さあ、これでアツコの居場所が分かったわ!」ナナは得意気に言う。「さすがケーイチさんね!」
「そうね、お兄様はやっぱり天才ね!」アツコも何故か得意気だ。「「その弟なんだから、コーイチさんは最高よ!」
「お姉様、その理屈はよく分かんないけど、何故か納得!」
ナナと逸子はきゃあきゃあ言いながら手を取り合って跳ね回っている。
「ほら、そんな遊んでいないで、アツコの所へ向かおうよ」
少々むっとしたタケルが言うと、自分のタイムマシンを取り出して作動させた。ナナはタケルに装置の数字を見せた。それは座標を表わすようで、タケルは一つ一つ丁寧に打ち込んだ。しばらくすると光が生じた。
「さあて…… アツコと御対面ね……」
逸子は指をぼきぼきぱきぱきと鳴らし、光の中へ入って行った。続いてタケルが入る。そしてナナが入ろうとして、タロウに振り返った。
「あなたも来るんでしょ?」
「いや、ボクは……」
「アツコに色々と言いたいんじゃない?」
「いや、もうアツコはどうでも良いんで……」
「じゃあ、お姉様を守る役をやってよ」
「でも、ボクは軟弱者だし……」
「あなた、頭が良いんでしょ? 何かの役に立つかもしれないじゃない?」
「いえ、何の役にも立ちませんよ……」
「ごちゃごちゃ言わないの!」
ナナは言うと、タロウの腕をつかんで光の中に入った。
しばらくして光はすうっと消えた。
残されたアツコの三人の部下は顔を見合わせる。その中の一人があごをさすりながら話し出した。
「おい、オレの記憶違いでなければ、アツコのタイムマシンの機体番号は『1236-598-772』ではなくて『1236-598-771』のはずだが……」
「なんだって!」別の一人が驚く。「タロウが覚え間違いをしたのか?」
「そんなはずはない」三人目が言う。「タロウは『ブラックタイマー』全員の誕生日や、ファンの女性のスリーサイズを覚えていたのだぞ。数字に関しては特殊すぎる能力を持っている」
「そんなタロウがなぜ間違うんだ? ……ひょっとしてオレが覚え間違いをしていたのかもしれん」
「いや、今思い出したんだが、『1236-598-771』だった。いつだったか、タイムマシンの汚れを落とすように頼まれたことがあって、その際に機体番号を見たんだ。末尾三桁をオレのと足すと『1500』になるなと思った」
二人目は言いながら自分のタイムマシンを取り出した。末尾三桁は「729」だった。
「だとすると、タロウが間違ったのだな……」三人目が腕組みをして考え込む。「でも、タロウが間違うとは思われんが……」
「そう言えば、タロウは一緒に行くのをためらっていたな。あれだけ目立ちたい男であるのに」
「確かにな…… 行くのをためらっていたのではなく、行きたくなかったんじゃないのか?」
「そうか、間違った数字をわざと教えたのだから、行きたくなかったのだな」
「うん、その可能性は大いにあるな」
「あの連中に色々とされたので、腹が立ったのだろう」
「そうだな。タロウは性格が屈折しているからな。アツコも心配はしていた」
「……となれば、タイムマシンの着く先はエデンの園ではないと言う事になるか……」
「そうなると、タロウはどうなってしまうのだろうな? あの逸子と言う女、怒らせると大変だぞ……」
三人は吹き飛んだ天井を見た。雲一つない真っ青な空をトンビがぴいひゃららと鳴きながら輪を描いている姿が見えた。
「……ところで、『1236-598-772』って、誰のタイムマシンなんだ……?」
三人は腕組みしながら考え込んだが、誰もわからなかった。
つづく
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