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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 57

2009年01月21日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
 コーイチは会場の真ん中に出来た人垣へと向かった。
「ねえ、コーイチさん」逸子が後からついて来て声をかける。「一体何がどうなっているの? やっぱり仕事上にトラブルなの?」
「まあ、『鞍馬の六郎』さんは確かに困った人で、居て欲しくはない人だけど・・・」コーイチは立ち止まり、逸子に振り返る。「でも、それ以上に困るのは芳川さんの方なんだ・・・」
「洋子ちゃんが何かしちゃったの?」
「そうなんだ。下手をしたら取り返しがつかないかも・・・」
 成り行きをしんとして見つめている人垣は、幾層にもなっていた。中がどんな状況下は全く見えないが、口汚く罵る男の怒鳴り声が聞こえている。洋子の声は聞こえてこなかった。
「こりゃ、困ったな・・・」コーイチは何度も飛び上がって中を覗き込もうとした。「ダメだ、見えないや・・」
 飛び上がるのをあきらめたコーイチは人垣を割って入ろうとしたが、これも全く通じなかった。手を差し込む隙間さえなかったのだ。・・・この妨害には、何か意図的なものを感じるぞ。コーイチは思った。
「コーイチさん、わたしに任せて!」
 逸子が言った。コーイチは逸子に振り返った。
 逸子は、大きく息を吐きながら両の手の平を人垣に向けて伸ばした。次いで、大きく息を吸い込みながら肘を曲げ、手を胸元まで寄せた。そのまましばらく瞑目する。赤いオーラが逸子の両の手の平から静かに立ち昇り始めた。不意にかっと目を見開くと、同時に手の平を人垣に向けたまま両腕を激しく突き出す。立ち昇った赤いオーラが手の平から放たれた。放たれたオーラが勢い良く通り過ぎた所に立っていた人たちは左右に大きくずらされ、一本の通路が出来上がった。
「行きましょう!」
 逸子は言うと先へ進んだ。我に返ったコーイチが後に続く。・・・「真風会館空手」と言うのは、奥が深いんだ。コーイチは妙に感心していた。
 人垣の中央には、赤いフレームのメガネが鼻先までずり下がり、蝶ネクタイが斜めになり、ぴちぴちだったスーツの背中が裂けて右袖も肩から無く、左足の赤いハイソックスが足首までずり落ち、肩ではあはあ荒い息を繰り返している鞍馬の六郎が立っていた。
 そして、少し距離を置いて向かい合う位置に洋子が立っていた。緊張しているのか、きっと唇を結んだ顔が青ざめている。
「お前・・・」鞍馬の六郎はぶるぶる震える指で洋子を指した。「お前が何をしたのか、俺は知っているんだ! 勝手な事をしやがって! 詫びに、その消しゴムをよこせ!」
「・・・」洋子はじっと鞍馬の六郎を見つめている。「・・・その事、誰に聞いたの?」
「誰だって良いだろうが! それに俺はここから消えて別の所に行っちまうんだからな!」
 ・・・あの壁抜けピンクおじいさんだ! 奪うものって、やはりあの消しゴムだったんだ! 多少荒っぽい手段って、この事なんだ! コーイチは思った。
「よこせ、その消しゴムを! そうすれば、俺はあっちの世界で乱舞できるんだ! さあ!」
 鞍馬の六郎は手を差し伸ばしたまま、洋子ににじり寄る。洋子は手にしたケースを胸元でさらに握り締めて見せ、渡す気のない事を示した。
「こいつめ!」
 じれた鞍馬の六郎が洋子に飛び掛った。
「洋子ちゃん、危ない!」
 逸子が叫んで、洋子の前に飛び出した。
 鞍馬の六郎と逸子とがぶつかった。
 その時、目映い光が二人を包み込んだ。

       つづく

いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ

(新曲、心に残りません。本当に歌いたい曲じゃないんでしょうね。気の毒です)



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