「あら、建一君」百合江は優しく笑む。「何かご用かしら?」
「あの…… ぼく……」建一は言い淀んでいたが、心を決めたらしく、顔を上げて百合江をまっすぐに見た。「ぼく、百合江さんが好きになりました!」
「はあ?」
さすがの百合江も、この告白には目をまん丸にし、口があんぐりと開き、煙草がぽとりと落ちた。
「こんなに綺麗で、強くって、優しくって…… もう最高です!」建一は百合江の様子にかまわず続ける。「それに、うまく言えないけど、大人の女性で、何か危険な感じが刺激的で…… ぼく、もう、めろめろです!」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと…… あのね、建一君」百合江は迫って来る建一に笑顔を向けながら、じりじりと後退する。額にあせりの汗が伝う。「落ちついて。ね? それに、こんなおばさんを好きだなんて、勘違いをしているのよ」
「年齢なんて、ぼくは全く気にしません!」
「でも、ほら、建一君には、かわいいかわいいさとみちゃんがいるじゃない」
「そうなんですけど…… ぼく、さとみちゃん以上に百合江さんが好きになっちゃったんです!」
「わあああ! 須藤君! 何てこと言うのよう!」一通り泣き終わったさとみが、建一の様子を見て飛び込んできた。「ひどいじゃない! 仲良し下校の初日なのにい!」
「……」建一はさとみに頭を下げた。「ごめんなさい! ……でも、この気持ち、どうしようもないんだ!」
「アイ! 何とかしてよう!」さとみはアイに言う。しかし、アイは麗子と何やらひそひそ話をしていて、さとみに気づかない。二人でくすくす笑ったり、恥ずかしそうに顔を赤らめたりしている。「もう! アイも麗子も何なのよう! 二人だけの世界を作っちゃって! アイも麗子ももう知らない!」
「さとみちゃん、そうカリカリしないで。建一君は、ちょっと舞い上がっているだけよ」百合江はぶんむくれているさとみに優しく言う。「明日になれば、元に戻っているわよ」
「いいえ! ぼくはこれからずっと、百合江さん一筋です!」
「でもね、わたし本当は男の人って苦手なのよ。だから、無理なのよ」
「じゃあ、ぼくが変えてあげます! それでもダメだったら、ぼくは女になります!」
「その一途さは、嬉しいような、困ったような……」
「もう! 二人とも、知らない!」さとみは二人のやり取りを見て、さらにぶんむくれて、そっぽを向いた。「あれぇ?」
さとみが向いた先に見えたのは、豆蔵とみつと竜二だった。さとみは思わず霊体を抜け出させた。
「わぁー! みんな、戻って来てくれたんだぁ!」さとみは三人に駆け寄った。「百合江さんが、みんな、どこかに行っちゃったって言ったから、悲しかったのよう!」
言い終わると、さとみはぼろぼろと涙を流した。
「……さとみちゃん、オレたちが見えるのかい……」竜二がおそるおそる声をかける。さとみは知らん顔で泣いている。「……この知らん顔の感じは、いつものさとみちゃんだよう!」
「嬢様……」
「さとみ殿……」
豆蔵とみつの声に、うんうんと泣きながらうなずくさとみだった。それを見て、竜二はおいおいと泣き出し、豆蔵は目頭を押さえ、みつはぎゅっと拳を握って下を向き肩を震わせる。
「やれやれ…… 一件落着ね。良かったわ……」
百合江は、さとみたちの様子に、ほっとしたように笑んだ。しかし、目の前には、若く熱血で一途な建一が、瞳をハートの形にして迫っていた。
「建一君。落ち着いて、ね?」
「ぼくは落ち着いています! 落ち着いた上で、百合江さんが好きなんです!」
「建一君。恋とあこがれとは違うのよ」
「そんな言い訳なんかしないで、ぼくを受け取めて下さい!」
「……あっ、そうだ! わたし、急用を思い出しちゃった。と言うわけで、じゃあね、建一君!」
百合江は踵を返すと駆け出した。建一が「待って下さ~い!」と叫びながら後を追いかけた。
遠くでカラスがまた一声鳴いた。
おしまい
作者註
何とか完結致しました(良かった、良かった)。「霊感少女 さとみ」の続編の内容も色々と考えています。悪の枢軸である楓姐さんの逆襲のシリアス物にするか、さとみちゃんが振り回される話にするか…… そんな事より、途中になっている話を何とかしろ、ですよね。がんばりますので、しばしお待ちを頂きたいです。今後もお見捨てにならずお付き合い下されませ~。
「あの…… ぼく……」建一は言い淀んでいたが、心を決めたらしく、顔を上げて百合江をまっすぐに見た。「ぼく、百合江さんが好きになりました!」
「はあ?」
さすがの百合江も、この告白には目をまん丸にし、口があんぐりと開き、煙草がぽとりと落ちた。
「こんなに綺麗で、強くって、優しくって…… もう最高です!」建一は百合江の様子にかまわず続ける。「それに、うまく言えないけど、大人の女性で、何か危険な感じが刺激的で…… ぼく、もう、めろめろです!」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと…… あのね、建一君」百合江は迫って来る建一に笑顔を向けながら、じりじりと後退する。額にあせりの汗が伝う。「落ちついて。ね? それに、こんなおばさんを好きだなんて、勘違いをしているのよ」
「年齢なんて、ぼくは全く気にしません!」
「でも、ほら、建一君には、かわいいかわいいさとみちゃんがいるじゃない」
「そうなんですけど…… ぼく、さとみちゃん以上に百合江さんが好きになっちゃったんです!」
「わあああ! 須藤君! 何てこと言うのよう!」一通り泣き終わったさとみが、建一の様子を見て飛び込んできた。「ひどいじゃない! 仲良し下校の初日なのにい!」
「……」建一はさとみに頭を下げた。「ごめんなさい! ……でも、この気持ち、どうしようもないんだ!」
「アイ! 何とかしてよう!」さとみはアイに言う。しかし、アイは麗子と何やらひそひそ話をしていて、さとみに気づかない。二人でくすくす笑ったり、恥ずかしそうに顔を赤らめたりしている。「もう! アイも麗子も何なのよう! 二人だけの世界を作っちゃって! アイも麗子ももう知らない!」
「さとみちゃん、そうカリカリしないで。建一君は、ちょっと舞い上がっているだけよ」百合江はぶんむくれているさとみに優しく言う。「明日になれば、元に戻っているわよ」
「いいえ! ぼくはこれからずっと、百合江さん一筋です!」
「でもね、わたし本当は男の人って苦手なのよ。だから、無理なのよ」
「じゃあ、ぼくが変えてあげます! それでもダメだったら、ぼくは女になります!」
「その一途さは、嬉しいような、困ったような……」
「もう! 二人とも、知らない!」さとみは二人のやり取りを見て、さらにぶんむくれて、そっぽを向いた。「あれぇ?」
さとみが向いた先に見えたのは、豆蔵とみつと竜二だった。さとみは思わず霊体を抜け出させた。
「わぁー! みんな、戻って来てくれたんだぁ!」さとみは三人に駆け寄った。「百合江さんが、みんな、どこかに行っちゃったって言ったから、悲しかったのよう!」
言い終わると、さとみはぼろぼろと涙を流した。
「……さとみちゃん、オレたちが見えるのかい……」竜二がおそるおそる声をかける。さとみは知らん顔で泣いている。「……この知らん顔の感じは、いつものさとみちゃんだよう!」
「嬢様……」
「さとみ殿……」
豆蔵とみつの声に、うんうんと泣きながらうなずくさとみだった。それを見て、竜二はおいおいと泣き出し、豆蔵は目頭を押さえ、みつはぎゅっと拳を握って下を向き肩を震わせる。
「やれやれ…… 一件落着ね。良かったわ……」
百合江は、さとみたちの様子に、ほっとしたように笑んだ。しかし、目の前には、若く熱血で一途な建一が、瞳をハートの形にして迫っていた。
「建一君。落ち着いて、ね?」
「ぼくは落ち着いています! 落ち着いた上で、百合江さんが好きなんです!」
「建一君。恋とあこがれとは違うのよ」
「そんな言い訳なんかしないで、ぼくを受け取めて下さい!」
「……あっ、そうだ! わたし、急用を思い出しちゃった。と言うわけで、じゃあね、建一君!」
百合江は踵を返すと駆け出した。建一が「待って下さ~い!」と叫びながら後を追いかけた。
遠くでカラスがまた一声鳴いた。
おしまい
作者註
何とか完結致しました(良かった、良かった)。「霊感少女 さとみ」の続編の内容も色々と考えています。悪の枢軸である楓姐さんの逆襲のシリアス物にするか、さとみちゃんが振り回される話にするか…… そんな事より、途中になっている話を何とかしろ、ですよね。がんばりますので、しばしお待ちを頂きたいです。今後もお見捨てにならずお付き合い下されませ~。
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