楓の目の前を木の枝がよぎった。不意の出来事に驚いた楓は体勢を崩し、土煙を上げて尻もちをついた。
「誰だい!」楓は尻をさすりながら立ち上がり、枝を投げてよこした相手をにらむ。が、相手がわかると、にやりと笑んだ。「やっぱりお前さんかい。剣士様よう」
「そうだ、わたしだ」みつが進み出る。「さとみ殿に手出しはさせぬ! もう止めるのだ!」
「な~にを小癪な!」楓がみつに向き直る。「やはり、お前とは決着をつけなきゃなんないようだね……」
「致し方あるまいな……」
「やめてよう!」さとみが走って来て、二人の間に立った。「麗子もアイも、どうしちゃったのよう! いつもはあんなに仲が良いじゃないのよう!」
「おどき、小娘!」楓が怒鳴る。「お前とは、この後だ!」
「さとみ殿、お下がりください」みつは冷静に言う。「遅かれ早かれ、この者とは対決せねばならなかったのです」
「そ、そんなぁ…… 二人が本当は仲が悪かったなんて……」
さとみは、がっくりとその場に座り込んでしまった。
みつがささっと横走りで移動する。さとみを巻き込むまいとの配慮からだ。楓はみつの動きに合わせ、同じように横走りをする。
みつの足が止まる。公園の中央広場の少し端の方だった。楓も止まり、対峙する。
「剣士様よう。ここにゃ頼りになる棒っ切れは落ちちゃいないよ」
「ふん。お前こそ、隠れる場所も逃げる場所もあるまい」
楓は左腕を肘から曲げ、作った拳の手の甲側をみつに向ける。右腕は肘を引き、脇腹に拳を添える。腰を落とし、左脚をすっと前に出し、右脚に体重を乗せる。楓は必殺の一撃を食らわすつもりでいる。
みつは軽く左右の脚を開いて正面立ちをする。両腕を楓に向かってぴんと伸ばし、両の手の平を楓に向ける。みつは相手の一撃を受け流した上で、致命の一撃を与えるつもりでいる。
二人はそれぞれの体勢のまま、微動もしなかった。互いに動くきっかけを狙っていた。
風がそよとも吹かず、薄曇りになった空に陽が隠れている。
対峙する二人は互いに目を逸らすことなくにらみ合う。全身に汗が噴き出している。次に二人が動く時、雌雄が決する。
遠くでカラスが一声鳴いた。
それがきっかけとなった。
楓がみつに向かって跳躍した。強く引いていた右の拳を繰り出す。と、同時にみつも跳躍した。みつの構えは楓を誘う罠だった。みつは跳躍しながら両肘を引き、勢いをつけて双拳を楓に敲き込む。
と、そこに紺色の跳躍が割って入った。
百合江だった。
つづく
「誰だい!」楓は尻をさすりながら立ち上がり、枝を投げてよこした相手をにらむ。が、相手がわかると、にやりと笑んだ。「やっぱりお前さんかい。剣士様よう」
「そうだ、わたしだ」みつが進み出る。「さとみ殿に手出しはさせぬ! もう止めるのだ!」
「な~にを小癪な!」楓がみつに向き直る。「やはり、お前とは決着をつけなきゃなんないようだね……」
「致し方あるまいな……」
「やめてよう!」さとみが走って来て、二人の間に立った。「麗子もアイも、どうしちゃったのよう! いつもはあんなに仲が良いじゃないのよう!」
「おどき、小娘!」楓が怒鳴る。「お前とは、この後だ!」
「さとみ殿、お下がりください」みつは冷静に言う。「遅かれ早かれ、この者とは対決せねばならなかったのです」
「そ、そんなぁ…… 二人が本当は仲が悪かったなんて……」
さとみは、がっくりとその場に座り込んでしまった。
みつがささっと横走りで移動する。さとみを巻き込むまいとの配慮からだ。楓はみつの動きに合わせ、同じように横走りをする。
みつの足が止まる。公園の中央広場の少し端の方だった。楓も止まり、対峙する。
「剣士様よう。ここにゃ頼りになる棒っ切れは落ちちゃいないよ」
「ふん。お前こそ、隠れる場所も逃げる場所もあるまい」
楓は左腕を肘から曲げ、作った拳の手の甲側をみつに向ける。右腕は肘を引き、脇腹に拳を添える。腰を落とし、左脚をすっと前に出し、右脚に体重を乗せる。楓は必殺の一撃を食らわすつもりでいる。
みつは軽く左右の脚を開いて正面立ちをする。両腕を楓に向かってぴんと伸ばし、両の手の平を楓に向ける。みつは相手の一撃を受け流した上で、致命の一撃を与えるつもりでいる。
二人はそれぞれの体勢のまま、微動もしなかった。互いに動くきっかけを狙っていた。
風がそよとも吹かず、薄曇りになった空に陽が隠れている。
対峙する二人は互いに目を逸らすことなくにらみ合う。全身に汗が噴き出している。次に二人が動く時、雌雄が決する。
遠くでカラスが一声鳴いた。
それがきっかけとなった。
楓がみつに向かって跳躍した。強く引いていた右の拳を繰り出す。と、同時にみつも跳躍した。みつの構えは楓を誘う罠だった。みつは跳躍しながら両肘を引き、勢いをつけて双拳を楓に敲き込む。
と、そこに紺色の跳躍が割って入った。
百合江だった。
つづく
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