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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 50

2009年01月06日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
「これは・・・」
 コーイチは洋子の手の平を見つめた。透明なプラスチックケースに入った白い消しゴムだった。コーイチが借りようとして、ものすごい剣幕で洋子に叱られた消しゴムだった。筆跡鑑定をするといって「鞍馬の六郎」事六田俊郎に自分の名前を書かせて、後で消す時に使った消しゴムだった。
「これ以外に、思いつくものがありません・・・」
 しげしげと消しゴムを見つめるコーイチに洋子が言った。
「・・・でも、どうしてこれをブーツにまで入れてもっているんだい?」
「それは・・・」
 コーイチはそっと手を伸ばし、ケースに触れようとした。洋子はぎゅっと手を握り、隠してしまった。
「絶対捕られたくないって感じだよね?」
「・・・そうですね・・・」
「これだと思った理由を聞かせてもらえないかな?」
「理由・・・ですか・・・」
「そう、それが分かれば、ピンクのおじいさんとの関係も分かるかもしれない」
「・・・コーイチさん、探偵みたいですね」洋子がからかうように言った。「ニュートンだかコペルニクスだかってあだ名の探偵が主人公の小説がありましたよね」
「いや、僕は金田何とか耕助か京極どうしたこうしたの方が好みだね」コーイチは言ってから、はっと真顔に戻る。「いや、そうじゃなくて、その消しゴムの事を聞かせてほしいんだよ」
「どうしてもですか・・・」洋子は手にしたケースを見つめた。「どうしても・・・」
「そうだよ。何たって、芳川さんに危険が迫っているようだし・・・」
「危険ですか・・・」洋子の視線が不意に険しくなった。手にしたケースを強く握りしめた。そして、何かを決心したような表情をコーイチに向けた。「危険が迫っているのなら、コーイチさんを巻き込みたくありません!」
「でもね、もう僕も十分に巻き込まれているんだよ」コーイチは笑顔で言った。・・・芳川さん、なんだか知らないが、一人で行動を起こすつもりだ。ここは先輩として助にならなければ。「何たって、僕もあのおじいさんからは敵認定をされてしまっているしね。さ、話してごらん・・・」
 コーイチは待った。洋子はどうしようかと迷っているようだった。
「ヘイ、お待ち! お任せ盛りっ!」
 突然、甲高い声がした。コーイチと洋子は驚いて声のする方を見た。頭にターバンを巻いたインド人寿司職人が、あれこれと見たことも無い寿司らしきものをぎっしりと盛った大きな皿を差し出していた。あまりに勢いよく振り向いた二人の様子に「インド人もびっくり」などとつぶやいていた。
「・・・あ、ああ。これはどうも・・・」コーイチは言うと、皿を受け取った。「これは、おいしそうですね・・・」
「そう、これはわたしのオリジナル寿司ね」インド人職人はほめられて機嫌が良さそうだ。「さあさあ、食してみよ」
 コーイチは一つ摘んだ。洋子もそれに倣う。コーイチは用意したわさび醤油にちょんと浸け、口へと運ぶ。洋子もそれに倣う。コーイチは口に入れる。洋子もそれに倣う。二人はもぐもぐと口を動かす。しばらくすると、二人の表情が変わった。
「う、うわあぁぁぁぁ!」
 コーイチの目から涙があふれた。手足をばたばたさせる。
「あん、あんあんあんあん!」
 洋子は口を手で押さえ、頭を左右に振った。足をばたばたさせる。
 やっとの思いで食べ切った二人は、別の場所にあるドリンクバーへと走り、水を何杯も飲み続けた。
「どうね? この寿司、名付けて『スパイシィ・インダス握り』と言うよ」インド人職人は得意げに胸を張った。「そんなに全身で感動を表わしてくれて、嬉しいね!」
「辛過ぎる!」
 二人は同時に叫んだ。インド人職人は不満そうな顔で握りを一つ摘んで食べた。途端に悲鳴を上げながら走り去って行った。
「いやいやいやいや、まいったなあ・・・」
 一段楽したコーイチは頭をかきながらつぶやいた。
 洋子はその様子を見て笑い出した。
「コーイチさん・・・」洋子は笑い終わると、真顔になった。「お話します・・・」

       つづく

いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ

(つらいコンも終わりましたね。舞台無事に行くと良いですね)



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