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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第七章 屋上のさゆりの怪 10

2022年06月02日 | 霊感少女 さとみ 2 第七章 屋上のさゆりの怪 
 さとみは百合恵と共に保健室に戻って来た。
「おや、ちょっとは元気になったようね」保健室の姫野先生が笑む。「あ、みんなはそれぞれの教室に戻ったわ。一人を除いてね」
 姫野先生は言うと、ベッドを指差した。アイが寝ていた。すうすうと穏やかな寝息だ。
「あの娘、あなたを待つって言って教室に戻ろうとしなかったのよねぇ。でも、なかなか戻ってこなかったから、力尽きて寝ちゃったみたい」
「それもあるでしょうけど……」百合恵が寝ているアイを見て、姫野先生に言う。「屋上での攻撃が結構きつかったんじゃないでしょうか?」
「目立った外傷は無かったんですけどねぇ……」姫野先生は百合恵に言う。「それじゃあ、精神的に深手を負ったんでしょうかねぇ……」
「そうかも知れませんわ……」
 それは違うだろうと、さとみは思った。霊体が攻撃をしたのだから、アイのからだよりも霊体が深手を負った事になる。霊体の回復には少し時間が掛かる。穏やかな寝息なのは、回復が順調な証しだ。
「アイちゃんって、色々とタフなのかもしれないわね」百合恵がさとみに言う。「回復も順調なようだし」
「そうですね……」さとみは答える。……やっぱり百合恵さんも霊体への攻撃だって分かっているんだわ。さとみはそう思った。「……そう言えば、あの男子生徒は?」
「ああ、三年の友川信吾君ね」姫野先生はくすっと笑う。「しばらくぼうっとしてたけど、何とか立ち直ったわ。そして、教室へ戻って行った。その時に『オレ、もうさぼりません!』って、わけの分かんない宣言をしていたわねぇ」
「よっぽどな目に遭ったようね」百合恵はさとみに言い、眉間に皺を寄せる。「これは厳しいわねぇ……」
「そうですね」さとみは答える。すっと顔を上げて百合恵を見る。「……でも、これでアイの仇も討たなきゃって気持ちになりました」
「まあ!」百合恵は驚き、そして笑みを浮かべる。「それでこそ、さとみちゃんだわ! 頼もしい事!」
「わたしには、百合恵さんがいるし、おばあちゃんたちがいるし」
「ほほほ、わたしはどうかは分からないけど、おばあちゃんたちは頼りになるわね」
「え? 何の話です?」姫野先生は、二人の会話に何かを感じ取ったようで、浮かない表情だ。「まさか、わたしの苦手な類の話、とか……?」
「あら、これは失礼をいたしました」百合恵が貴族のように優雅に一礼する。それが嫌味に見えない。「……さとみちゃん、廊下でお話の続きをしましょうか」
「はい…… でも……」さとみは躊躇している。「もう、午後の授業が始まっていますけど……」
「ほほほ、学校なんて三分の一は休んでも問題ないわ」百合恵は楽しそうだ。「それに、ちゃんと学校にいるわけだし。何かあったら、わたしが校長先生と教頭先生にお話ししてあげるわ」
「ははは……」
 さとみは百合恵に圧倒されて、引き攣った笑いを浮かべるしかなかった。だが、一緒に居てくれて、とても心強かった。百合恵の狙いもそこにあった。
 百合恵はさとみの肩を抱き、保健室から出た。授業中はしんとしている。
 保険室の出入り口の向かいの壁に窓があった。百合恵は鍵を外し、窓を開けた。昼下がりの温かい風が流れ込んできた。百合恵は開いた窓に顔を向け、目を閉じて流れてくる風を顔で受けた。しばらくそのままにしている。さとみはそんな百合恵を見て、本当に綺麗な人だなぁと改めて感心していた。わたしはちんちくりんで寸胴でぷにぷにでぺちゃパイなのに……
「さて……」百合恵はさとみに振り返った。「……ふふふ。さとみちゃん、外見を気にする事無いわよ。さとみちゃんはそのままで十分可愛いわ」
 百合恵は相手の心を読むことが出来る。さとみは顔を真っ赤にして、ぷっと頬を膨らませた。
「百合恵さん! 恥ずかしいじゃないですかぁ!」
「ほほほ。さとみちゃん、やっといつもの調子が戻ったようね」
「え? どうして……?」
「そのぷっくりほっぺが出たからよ」
「もうっ! 知らない!」
「あらあら、『知らない!』まで出るなんて、すっかり回復ね」
 百合恵は楽しそうに笑う。それを見て、さとみの心もすっかりほぐれた。豆蔵たちを助けなきゃ、アイの仇を取らなきゃ、そう気負っていたさとみだった。それを百合恵がうまくほぐしたのだった。
「ねえ、百合恵さん……」さとみが百合恵を見る。「さゆりって、屋上から下りては来ないんでしょうか?」
「そうねぇ……」百合恵は考え込む。「……確かに、あちこちうろついてさとみちゃんを探す方が効率的よねぇ……」
「わたしはあまり嬉しくないですけど……」
「まあ、それはそうよね」百合恵はさとみの返事にくすっと笑う。それから真顔に戻る。「屋上から下りないんじゃなくて、下りられないのかもしれないわよ」
「……じゃあ、地縛霊の類なんでしょうか……」
「かも知れないわねぇ」
「だったら、屋上に行かなければいいんですね」
「そうだろうけど……」
「それじゃ、豆蔵たちを取り返せない……」
「そう言う事よねぇ」百合恵がため息をつく。「でも、今すぐ言っちゃダメよ。さゆりって強力で凶悪だわ。何の準備も無く立ち向かったら、アイちゃん以上の目に遭うわよ」
「……そうですか」
 さとみはおでこをぺちぺちと叩き始めた。


つづく

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