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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 176

2020年11月05日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「じゃあ何? わたしが悪いって言うわけ?」
「悪いも何も、コーイチさんがタイムマシンに全く関係が無いって分かったのに、何にも教えてくれなかったじゃないか!」
 アツコとタロウの二人はまだ言い争っている。
「それが何よ? あなたに関係があるの?」
「お前はコーイチさんをリーダーにしたんだぞ。責任大ありじゃないか!」
「だから、わたしが側近になってサポートしたんじゃない! その時は何も問題なかったわ!」
「何だよ、あの時は、何かって言うと『コーイチさん、コーイチさん』ってさ」
「何? やきもちぃ?」アツコは小馬鹿にしたように笑う。「あなたとは幼なじみだけど、全く心がときめかなかったわよ! 頭が良いからって気取り屋でさ、良い印象なんか無かったわよ!」
「お前たち、口を閉じろ!」
 テルキがアツコとタロウに向かって怒鳴った。二人はむっとした顔をテルキに向けた。
「だって、タロウ、あなたが訳の分からない事を言うからよ!」
「だから、それはアツコがボクを相手にしなかったからだろう!」
 このタロウの言葉に、アツコはタロウに向き直った。
「甘えた事を言わないでよ!」アツコは怒鳴る。「あなたなんか最初から眼中にないわ!」
「君はボクをなんだと思っているんだ!」タロウも怒鳴り返す。「何でも自分の思い通りにならなきゃ治まらない、自己中女のくせに!」
 言い争いをしている二人が、不意にテルキに振り返った。いきなり見つめられたテルキは驚いた顔をする。
「今だ! チトセちゃん!」
 そう叫んだのはタロウだった。
 アツコとタロウが言い争っていたのは、テルキの注意を二人に向けさせるためだった。その間に、チトセはそろそろとテルキの背後に回っていたのだ。そして、チトセはテルキの背後に程良い距離を置いてしゃがみ込んで、いつでも飛び掛かれる態勢を整えていた。チトセの動きを目の端に入れていた二人の一芝居だったのだ。
 タロウの言葉にチトセは反応した。チトセはテルキの背中に飛び掛かった。チトセは両腕をテルキの首に巻き付けた。不意の襲撃にテルキはコーイチをつかんでいた腕を離し、自分の首に持って行く。チトセの腕はしっかりと首を押さえていた。チトセの腕を離すことが難しいと知ったテルキは、チトセをぶら下げたまま後ろへ倒れた。チトセが下敷きになった。
「うわっ!」
 チトセは一声上げると黙ってしまった。テルキの首に回していた両腕が、だらりと力無く広がった。チトセは倒れた衝撃で気を失ったようだった。
「チトセちゃん!」
 逸子が悲鳴を上げる。
 テルキは素早く立ち上がり、状況が分からずにぼうっと突っ立っていたコーイチの背後を再び取って人質にする。
「また卑怯な事をする!」
 アツコは言うとオーラを噴き上げた。
「ふん、何とでも言えよ」
 テルキは鼻で笑うと、自分のタイムマシンを操作した。少し離れた所に光が生じた。
「テルキさん! お願いします! もう、諦めて……」
 ナナが言う。テルキは無言で、盾にしたコーイチをナナに向ける。
「先輩……」タケルは泣き声だ。「もう止めてくれよ…… ボクの知っている先輩に戻ってくれよ……」
「……タケル……」テルキが言う。「こうなったら、もうおしまいだな。お前がオレにどんな姿を見ていたのかは知らないが、オレはこんなヤツなんだよ」
 テルキは言いながら光の方へと歩く。
「おっと、余計な事はするなよ……」テルキはにらみ付けてくるアツコに言う。「あんたの一発はコーイチに危害を及ぼすぜ。……まあ、オレはかまわないけどな。どうする?」
「……くっ!」アツコはオーラを鎮めた。「とことん卑怯なヤツね!」
「オレに一芝居打ったあんたに言われたくないな」テルキは笑む。「まあ、二人の言い争いは、妙にリアルだったようだがな」
「ははは!」アツコが笑う。「リアルだったですってぇ? こんな言い争い、わたしたちはいつもやっているわ。もうお決まりな感じなのよ」
「そう言う事」タロウもうなずく。「本音を言える相手ってのが、幼なじみなのさ」
「……あら、じゃあ、わたしにかまってほしいってのは本音だったの?」
「え? ……あ、いや……」
 驚いているアツコを見てタロウは戸惑っている。
「まあ、どうでも良いさ」二人の様子を見ながらテルキが言う。「……オレはこのまま別の世界に行くよ。誰にも分からない、知らない世界にね。それで幕引きにしたいと思う」
「あの……」テルキに捕らえられているコーイチが言う。「そんな事しないで、ここに居て償いをした方が良いと思うんですけど……」
「もう色々と面倒になったんだよ。ごちゃごちゃ言わないでほしいな」
「……はあ、すみません……」
「心配するなよ。オレがタイムマシンに乗り込む寸前で開放するよ」
「はあ、ありがとうございます……」
 テルキはコーイチと共に光に向かう。周りは手を出さず様子をうかがっている。チトセのうめき声がする。
 引きずられるように歩いていたコーイチだったが、足元に転がっていた六角ボルトを踏んづけてしまった。
「うわっ! 痛っ!」
 コーイチは思わず叫び、踏んだ右足を振り上げた。その拍子に体勢を崩し、後ろに大きく反り返った。テルキもそれに巻き込まれ後ろに反り返った。二人はそのまま後方へ倒れた。そこにはタイムマシンで生じた光があった。二人は光の中に転がって行った。
「何だ! 何があったんだ!」
 テルキが叫ぶ。
「わあっ、ごめんなさいっ!」
 コーイチが叫ぶ。
 光が消えた。


つづく

 


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