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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 175

2020年11月04日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
 皆の動きが止まった。
 テルキがコーイチを盾にしながら後退しようとしたが、コーイチも動くなと言われたので全身に力入れて動こうとしない。
「お前は良いんだよ!」テルキはコーイチの耳元で言う。「お前は人質なんだぞ!」
「え? は、はあ……」
 コーイチは気の抜けた返事をすると、テルキに合わせて後退を始める。
「コーイチさん、止まって!」逸子が言う。「その人が支持者だったのよ!」
「え? 支持者?」コーイチの足が止まる。振り返って支持者の顔を見ようとするが、見えなかった。「顔が見えない……」
「テルキさんって言って、タイムパトロールの隊員なのよ!」ナナが言う。「そして、タケルの先輩なの」
「……先輩! もう止めてくれよ……」タケルが泣きながら懇願する。「人質を取ったら犯罪者だぜ……」
「コーイチさん!」アツコが言う。全身からオーラを噴き上げ、それを右腕に集中させた。「あなたの骨は拾ってあげるわ! だから、ここは勘弁して!」
「ちょっと、アツコ!」逸子がアツコの前に立った。「何をするつもりなのよ!」
「見て分かるでしょ!」アツコが逸子越しに二人を見つめる。「支持者を潰すのよ! コーイチさんは名誉の死を受けてもらうわ!」
「馬鹿な事を言わないでよ!」逸子は全身からオーラを噴き上げ、アツコの前で両腕を広げ、にらみ付ける。「……どうしてもと言うのなら、わたしを倒してからにしてよね……」
「分かったわ……」アツコのオーラがさらに高まる。「あなたたちも、支持者も、みんな倒してやるわ!」
「止めろ!」
 そう叫んだのはタロウだった。タロウは今にもオーラを撃ち出そうとしているアツコを突き飛ばした。短い悲鳴を上げてアツコは床に転がった。アツコは怒りに燃えた目でタロウをにらみ付ける。
「何すんのよう!」
「そんな事をしたら、アツコ、お前が犯罪者になってしまうだろうが! 頭を冷やせよ!」
「……」
 アツコはタロウの言葉に言い返せなかった。アツコは悔しそうにテルキをにらむ。
「あのなぁ……」ケーイチが口を開く。場にそぐわない、のんびりした口調だ。顔をテルキに向けた。「お前さんの言う、理想の歴史ってのは確かに良いと思うぜ。でもさ、今のお前さんの行動は、理想の歴史を求める者の行為ではないな」
「……それは分かっているさ」テルキは言う。「でも、今、捕まるわけにはいかない」
「ははは」ケーイチは笑う。「お前さんが捕まろうが、このまま逃げようが、どうでも良いんだよ」
「……どう言う意味だ?」
「歴史には正解なんてないんだよ。流れているだけさ。正解だなんて思うのは後世の連中の評価さ。オレの時代から見れば、チトセの時代には、こうすれば良かったのになんて思う。アツコ君やタロウ君の時代から見れば、オレの時代に対して、こうすれば良かったのにと言えるような事があるだろう。ナナ君やタケル君やお前さんの時代から見れば、アツコ君やタロウ君の時代に対して同じ事が言える。そして、もっと先の時代の人たちは、お前さんのこの時代にも、もっとこうすれば良かったのにと言うんだ。分かるだろう? 歴史なんてそんなもんだ」
「また始まったな、ぐだぐだ話……」テルキがうんざりした顔をする。「で、何が言いたいんだ?」
「つまりは、理想の歴史なんてのは、お前さんだけの理想なのさ。みんなの理想じゃない」ケーイチは言う。「そんなものをパラレルワールド全てに組み込むなんて無駄で無意味だって事だよ」
「それくらいの事は分かっているさ。でもな、そうであっても、理想の歴史を作りたいのさ」テルキは言う。「タイムパトロールに入って、最初はオレも真面目にやっていたさ。でもな、そのうち、歴史の流れは変えられると思うようになった。これは危険な考えだとも思ったよ。だから歴史には手は出さないと決めた」
「立派じゃないか」ケーイチはうなずく。「じゃあ、もう諦めろ」
「だがな……」テルキはアツコとタロウを見た。「違反集団がやりたい放題を続けていた。考えも無く、ただ楽しんでいる。どんどんとパラレルワールドを生み出して、歪曲した歴史を作り出しやがる。オレたちパトロールは『これこれ、そんな事は止めなさい』と注意をするしかできない。効き目などあるわけがない。オレはすっかりやる気が失せた」
 アツコもタロウも気まずそうに下を向いた。過去の行状を思い出しているのだろう。
「そうだったのか……」やっと泣き止んだタケルがつぶやく。「……真面目だった先輩が急に変わったのはそのせいだったのか……」
「それならばオレが違反集団を思いのままに動かせば良い。どうせ違反集団なんて考えの浅い連中だ。試しに面白そうなネタを与えると、それこそ、しっぽを振るようにして飛び付いてきた。色々な集団がオレの手の平だったよ」テルキはアツコを見た。「そんな中で、最大の違反集団の『ブラックタイマー』と接触で来た時は嬉しかったねぇ。オレは『タイムパトロールの支持者』だと名乗った。その時のリーダーだったアツコはオレの提案にすぐに乗ってきた」
「わたしなりの事情があったのよ! 女のくせにリーダーだとか言うヤツらも居たし」アツコは文句を言う。「それに、あの大人数をまとめるのって大変なんだから、使える物なんでも使いたかったのよ!」
「ふん……」テルキはアツコを鼻で笑う。「……それからは、少しずつだが歴史を変える方向に進めた。そうしているうちにオレの理想の歴史と言うものが形成されて行ったのさ」
「でもね、わたしはあなたが嫌いだったわ」アツコが言う。「なんだか偉そうでね。それに、歴史を変えさせようって言う動きもイヤだった」
「偉大なリーダーであるアツコは……」テルキが言う。その言葉にアツコは眉間にしわを寄せて抗議の表情をして見せた。「他のイカレた集団のリーダーたちと違って、頭が良かった。今言っていたようにオレの魂胆も見抜いていた。だから、オレは側近なのに今一つ人気が無く、アツコにコンプレックスを持っているタロウに鞍替えをした。タロウはあっさりと乗ってきた。だが、やはり人気が無かった。だから、面倒になって『ブラックタイマー』を解散させたのさ」
「あの時、解散の口火を切ったのはあなただった」タロウがテルキに向かって言う。「面倒になったからだなんて、ひどいじゃないか!」
「オレとしては、もっと出来るヤツだと思ったんだが、期待外れだったよ」
「そうなのよね!」アツコが頬をぷっと膨らませ、タロウを見る。「子供の時から、良いとこまで行くとがっかりさせられるのよね」
「そんな事をここで言わなくても良いじゃないか!」タロウもむっとした顔でアツコを見る。「アツコだって、子供の頃から、肝心な時に居なくなるじゃないか! そしてほとぼりが冷めた頃に現われて文句ばっかり言うんだからな!」
 二人はにらみ合った。


つづく



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