お話

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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 75

2009年10月11日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
「仕方ないわねえ・・・」花はふわふわとコーイチの顔の前を漂いながら、両方の葉を腕組みするように組んで見せた。「ま、そこまで頼むんだった、教えてあげるわ」
 ・・・急に高飛車になったなあ。ここまでやられると、のんびりしたコーイチでも、ちょっと腹が立つ。
「あらあら、何なのよ、その顔は?」花が不満そうな声を出す。「教えて上げようと思ったけど、そんな態度をするんじゃ、教えてあげない!」
 コーイチは溜め息をついた。・・・時間がもったいない。ここは我慢して、機嫌をとらなきゃ・・・
「ごめんごめん。是非教えてほしい。何でも言う事聞くからさあ。機嫌直してよ」
「何でも、言う事を、聞く・・・」花はつぶやいた。しばらく考えた花はコーイチへ向き直った。「じゃあ、感謝の態度を示してほしいわ」
「どうすればいいんだい? あいにく着の身着のままでここへ着たから、お礼できる様な物は持っていないんだけど・・・」
「お馬鹿さんねぇ・・・」花は呆れたように言った。「ここの世界にいる以上、わたしがほしいものなんて何にもないわ」
「じゃあ、どうしろって言うんだい?」
「そうねぇ・・・」花は茎をよじり、コーイチを意地悪そうに見上げた。「無事めでたしめでたしになったら、あなただけ、この世界に残ってちょうだい。わたし、あなたが気に入ったの」
「はあ? 残れってぇ?」今度はコーイチが呆れたように言った。「僕に、ここに、残れって言うのかい? 君と一緒に? ここに、ず~っと?」
「しつこいわね!」花はぷいと横を向いた。しばらくして、花は意地悪そうな声と共にコーイチへと向き直った。「・・・その口振りじゃ、イヤだって言ってるのも同じね。残念だわあ! わたしの知っているかじり方だと、本当、この峠なんかそれこそ一跨ぎ、峠と峠の間の道だってほんの数歩で行けるんだけどなあ・・・」
 沈黙があった。風がひゅうと小さな音を立てて吹き去った。また沈黙。
「分かった、分かりました。言う通りにするよ。全てがめでたしめでたしになったら、僕はここに残るよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「心の底から本当に?」
「心の底から本当さ」
 ・・・ああ、僕はここで、この花に一生恩着せがましくあれこれねちねち言われ、ずっと「お馬鹿さんねぇ」と言われ、尻に敷かれるんだろうなあ。脳裏に、うつ伏せになったコーイチの背中に花がちょこんと正座し、ずずずっと湯呑みでお茶を飲んでいる姿が浮かんでいた。コーイチがばたついて背中を揺らすと、どこから持ち出したのか、竹の棒でぴしゃりと後頭部を叩かれた。・・・ああ。これが僕の残された人生なんだ。
 コーイチは花を見つめた。花は全身をぷるぷると震わせていた。
「嬉しいっ!」花はくるくると踊り回った。回りながらコーイチの頬を葉先で突つく。「これであなたはわたしの物ね!」
 コーイチは溜め息をついた。・・・ま、いいか。僕が犠牲になることで世界が平和になるんなら。
「さ、話はついたね、かじり方を教えてもらおうかな」
 無理矢理に笑顔を作り、無理矢理に元気な声を出し、コーイチは言った。


       つづく




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