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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 127

2020年09月10日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
 光が生じた。エデンの園だった。
 タイムパトロールのタケルと元タイムパトロールのナナは光のそばへ近づいた。
「戻って来たようだね」次第に大きくなって行く光を見ながらタケルが言う。もっとゆっくりと遊んでくるかと思っていたのに……」
「もう、大工さんたちが家を建てさせろって大変だったから、ちょうど良いわ」ナナは膨れっ面だ。「出てきたらアツコに文句言ってやらなきゃ」
 光の中から、アツコ、続いてタロウ、逸子、そして最後にコーイチが出て来た。
「お姉様! 良かった! どこも何とも無さそうで!」アツコに文句を言うのも忘れて、ナナは逸子に駆け寄り、その手を握った。それから、逸子の後ろに立っているコーイチに顔を向けた。「コーイチさんもお元気そうで」
「はあ、お陰様で……」コーイチは言って頭を下げた。「ええと…… ナナさんでしたっけ? お久し振りです」
「やあ、あなたが噂のコーイチさんですか」タケルも寄ってきて、コーイチに挨拶をする。「……女性にもてるそのご尊顔を拝謁できて、光栄の至りですよ」
「タケル!」ナナがタケルを叱る。「どうしてあなたは、そう言うつまらない言い方しかできないのよ!」
「いやあ、ごめんごめん…… ついつい、うらやましくなっちやってさぁ……」
「あの、ナナさん……」コーイチは不思議そうな顔をしながらナナに聞く。「こちらは? 会った事がなさそうな気がするんだけど…… どうだったかなぁ?」
「ああ、これ?」ナナは迷惑顔全開にして、右の人差し指でタケルを指して見せた。「これはタケル。タイムパトロールのおしゃべりと無駄口担当よ」
「そうなんだ……」コーイチは感心したような表情でタケルを見る。「タイムパトロールに、そんな部門と担当があったんだ……」
「いやいやいや! そんなの無いですよ!」タケルはあわてて否定する。「ナナ、変な事言うなよ。コーイチさん、信じちゃうじゃないか!」
「別に、本当の事じゃないの?」
「……あ、あの……」割って入って来たのはタロウだった。「こうやって、コーイチさんを取り返せたんで、ボクの役目は終わりって事で……」
「え? ……ああ、そうだったわね」今初めてタロウの存在に気が付いたように、ナナが言う。「お姉様とアツコをもめさせないために一緒に行ってもらったけど、上手く行ったようで、何よりだわ」
「行った先でね……」コーイチが言う。「ボクは山賊にさらわれたんだよ」
「え? そんな事があったの?」ナナが驚く。逸子はうなずいている。「大変だったわね……」
「いや、逸子さんとアツコさんの活躍で難なく切り抜けたけどね」コーイチは言う。ナナもタケルも、さも有らんとばかりにうなずく。「でも、タロウさんも、その時に頑張ってくれたよ」
「まあ、頑張ったって事にしておくわ……」逸子は言うとアツコに顔を向けた。「ねぇ、アツコ?」
 返事が返ってこなかった。皆がアツコを見た。何か考え事をしてるようだ。
「アツコ……?」
 逸子が心配そうな顔でアツコを見る。我が強く、何事も率先する気概に満ちた姿はそこにはなかった。
「ねえ、何かあったの?」ナナが小声でタロウに聞く。「なんだか、すっかり別人みたいだけど……」
「さあ……」タロウも小声で返す。「急にあんな感じになっちゃって……」
「なんだか、傷心って感じだなぁ……」タケルが小声で割って入った。「やっぱり、本家には勝てなかったってところか……」
「何の話?」ナナがタケルを見て首をかしげる。「言っている事が分からないんだけど?」
「良いさ、分からなくっても……」タケルが言い、小さく笑う。「女は涙の数だけ美しくなるのさ……」
「……馬っ鹿じゃないの? 無いを言い出すかと思ったら!」ナナは呆れたように言う。それからはっきりとした声で続けた。「……まあ、良いわ。こうしてコーイチさんも取り返せたし、『ブラックタイマー』も無くなっちゃったし、アツコとタロウさんとはこれでお別れね。色々とあったけど、結果オーライって事で。これからはルールに則ってタイムマシンを正しく使う事ね。じゃあ、わたしたちは戻る事にするわ」
「待って!」
 アツコがナナに向かって言った。その表情は今までになく真剣だ。
「何かしら?」
「聞きたいことがあるの」アツコは言うと、ナナとタケルとを交互に見た。「コーイチさんに関しても、タロウに関しても、もちろん、わたしに関しても、共通した人物がいるじゃない? そして、結果として『ブラックタイマー』は解散した……」
「それって……」ナナの表情も険しくなる。「『タイムパトロールの支持者』の事ね……」
「そう、そいつ」アツコがうなずく。「あなたたちってタイムパトロールでしょ? どうなの? そいつの正体って分かっているんでしょ? 分かっているんなら、一発、思いっきりぶん殴ってやりたい!」
「まあまあ、落ち着いて」タケルがアツコをなだめる。「……実は、まだ分かっていないんだよ」
「どうしてよ? タイムパトロールで調べていないの?」
「いや、その、何と言うか……」タケルの歯切れが悪い。「臨時の長官代理ってのが来たんでね、報告したんだよ。『タイムパトロールの支持者』ってのがいる。正体を調べなきゃいけないってね。そうしたら……」
「そうしたら? どうなったのよ!」
「違反集団『ブラックタイマー』を潰す役割を果たしたのだから、不問に付すって事になったんだよ」
「それって、どう言う事?」
「無罪放免って事さ」


つづく
 


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