「さとみちゃん!」
百合恵の声がした。さとみが振り返ってみると、シャノアールのマスターが、もそすごく怖い顔で、ももを睨み付けていた。
さとみは大慌てで霊体を生身に戻す。何度か深呼吸をして、恐る恐るさとみはマスターの背後に近づく。
「……あのぅ……」
声が小さいのか、怒り心頭で聞こえていないのか、マスターはさとみを無視している。
「あのぅ……」
少し大きめの声を出してみる。マスターは振り向かない。
「あの、店長さん!」
覚悟を決めたさとみは大きな声で言うと、精一杯腕を高く上げ、マスターの大きな背中をトントンとノックするように叩いた。
さすがにマスターは振り返った。しかし、そこに誰もいない。さとみが小さ過ぎて、目に入らなかったようだ。マスターは舌打ちをすると体勢を戻し、再びももを睨み付けた。
さとみは懲りずに腕を上げ、マスターの背中を叩く。マスターが面倒臭そうに振り返る。
「あのう、店長さん……」
下から聞こえる声にマスターが見下ろすと、不安そうな表情で見上げるさとみの顔があった。物凄いこわい顔でマスターはさとみを睨みつけた。圧倒されたさとみは、腰が抜けたようになって、その場に座り込んでしまった。そこまで見届けると、マスターはももに顔を戻した。
「おい、お前」マスターの低く殺気立った声がももに向かう。「百合恵姐さんに言った言葉、覚えてるだろうな?」
「……」
ももは唇を強く結んで、マスターをじっと見つめ返している。
「返事をしろ!」怒鳴り声になる。周りの空気がびりびりと震えたようだ。幾つかの霊体が悲鳴を上げてその場から消え去った。「それとも、覚悟を決めてるって事なのか?」
ももは下を向いた。
肩が震え、苦しそうな声が漏れ始める。そんな状態がしばらく続いた。いけない、ももちゃん、変になっちゃったあ! さとみは思った。抜けた腰を何とか建て直し、よろよろと立ち上がった。
「あああっ! もうダメ!」
ももは叫ぶと、笑い出した。驚いたさとみは、また座り込んでしまった。
つづく
百合恵の声がした。さとみが振り返ってみると、シャノアールのマスターが、もそすごく怖い顔で、ももを睨み付けていた。
さとみは大慌てで霊体を生身に戻す。何度か深呼吸をして、恐る恐るさとみはマスターの背後に近づく。
「……あのぅ……」
声が小さいのか、怒り心頭で聞こえていないのか、マスターはさとみを無視している。
「あのぅ……」
少し大きめの声を出してみる。マスターは振り向かない。
「あの、店長さん!」
覚悟を決めたさとみは大きな声で言うと、精一杯腕を高く上げ、マスターの大きな背中をトントンとノックするように叩いた。
さすがにマスターは振り返った。しかし、そこに誰もいない。さとみが小さ過ぎて、目に入らなかったようだ。マスターは舌打ちをすると体勢を戻し、再びももを睨み付けた。
さとみは懲りずに腕を上げ、マスターの背中を叩く。マスターが面倒臭そうに振り返る。
「あのう、店長さん……」
下から聞こえる声にマスターが見下ろすと、不安そうな表情で見上げるさとみの顔があった。物凄いこわい顔でマスターはさとみを睨みつけた。圧倒されたさとみは、腰が抜けたようになって、その場に座り込んでしまった。そこまで見届けると、マスターはももに顔を戻した。
「おい、お前」マスターの低く殺気立った声がももに向かう。「百合恵姐さんに言った言葉、覚えてるだろうな?」
「……」
ももは唇を強く結んで、マスターをじっと見つめ返している。
「返事をしろ!」怒鳴り声になる。周りの空気がびりびりと震えたようだ。幾つかの霊体が悲鳴を上げてその場から消え去った。「それとも、覚悟を決めてるって事なのか?」
ももは下を向いた。
肩が震え、苦しそうな声が漏れ始める。そんな状態がしばらく続いた。いけない、ももちゃん、変になっちゃったあ! さとみは思った。抜けた腰を何とか建て直し、よろよろと立ち上がった。
「あああっ! もうダメ!」
ももは叫ぶと、笑い出した。驚いたさとみは、また座り込んでしまった。
つづく
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