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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第二章 骸骨標本の怪 6

2021年11月26日 | 霊感少女 さとみ 2 第二章 骸骨標本の怪
 井村先生は、生物担当の痩せていてひょろっと背の高い中年の女教師だ。幸か不幸か、さとみはまだ当たった事は無い。ただ、噂は良く耳にした。
 いつも白衣をぴしっと着込み、そのくせ、髪の毛の手入れは疎かで、毎日髪型が変わっている(一部では寝癖のままと言われている)。さらに、教科書以外の分厚い事典を数冊右腕に抱え、いわゆる瓶底眼鏡を掛けていて、それが重いからか鼻が低めだからなのか、良くずり落ちてくるため、絶えず左手人差し指で直している。
 授業は一方的にしゃべり続けるだけだ。生徒たちが他の事をしていようと、騒いでいようと、注意はしない。テストもクラスと名前がちゃんと書けていれば赤点にはしない。井村先生は分かる生徒だけ分かれば良いと言う態度だった。その分かる生徒がしのぶだった。なので、しのぶは井村先生のお気に入りだった。
「ある日、生物の準備室に行ったんです」しのぶが話す。「最近読んだ、分子生物学に関して、井村先生と話をしようと思ったんです」
「ふ~ん……」さとみは言う。しかし、何の事か分かっていない。「……それは難しそうな話のようねぇ……」
「出来過ぎなからだのメカニズムに思いを巡らせていると、これは自然発生的に出来たにしては凄すぎる、誰かが作ったんじゃないかって思えてきたんです。それを井村先生と話し合いたくなって準備室に行ったんです。突き詰めると、進化か創造かって事になって来そうなんですけど、会長はどう思いますか?」
「のぶ! 話が脱線しているわ!」朱音が横から言う。「今はそんな話じゃないでしょ! 骸骨標本でしょ!」
「それで、井村先生とその話をしていたんです」しのぶは朱音の言葉が耳に入っていないらしい。「先生はどちらかと言うと進化論の肩を持っていました。わたしはわざと創造論の肩を持ったんです。その方が議論が面白そうだったから……」
「そう……」さとみは五里霧中な話だ。そんなこと自体、考えた事も無かった。「それで、その話と骸骨標本が、どう結び付くの?」
「井村先生は『なんだかんだ言ったって、最期は骨よ。骨になっちゃうのよ』って言ったんです。そこで、はっとした顔をして……」
「やっと出て来た骸骨標本!」朱音が茶々を入れる。「のぶは話が回りくどいのよ」
「でもさ、いきなり本題に入ったら、訳が分かんないって言うじゃない」
「だから、それは話の配分を考えて話さなきゃって事よ」
「それこそ回りくどくない?」
「まあまあ……」さとみが割って入る。「それで? 最期は骨って所から骸骨標本の話になったのね?」
「そうです」しのぶはうなずく。「井村先生が『一階の第一理科室の黒板横にぶら下がっている骸骨の標本が呟くのよね。寒いよう、寒いよう、って。そして、がたがたと震えるのよ』って言い出したんです」
「ちょっと待って」さとみが言う。「井村先生がそれを見たって事?」
「そう言っていました」
「この前の北階段みたいに、夜中とかじゃなくて?」
「そうですね。授業の準備中にそれがあったって言っていました」
「って事は、日中か……」
 さとみはぺしゃぺしゃとおでこを叩き始めた。
「会長!」朱音が大きな声を出す。振り返るさとみに自分のおでこを叩いて見せる。「それ……」
「ああ、ごめん、やっぱり止められないわ」さとみは言うと、さらにおでこを叩き出した。「何なら、朱音ちゃんもやってみる? 何か良い考えが浮かぶかも」
「会長が言うんなら、やってみます」
 朱音は言うと、自分のおでこをぴしゃぴしゃ叩き出した。さとみと朱音のおでこを叩く音が響く。と、二人の手がほぼ同時に止まった。さとみと朱音は顔を見合わせる。
「会長……」
「朱音ちゃん……」
 二人はほぼ同時に互いを呼び合う。
「これはあれね」さとみが言う。「下手な考え休むに似たりね」
「そうですね」朱音はうなずく。「百聞は一見にしかずですね」
 二人はほぼ同時に立ち上がる。
「じゃあ……」
「ええ、井村先生の所に行きましょう、会長!」


つづく


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