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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第二章 骸骨標本の怪 7

2021年11月27日 | 霊感少女 さとみ 2 第二章 骸骨標本の怪
 松原先生としのぶが並び、その後を朱音とさとみが続く。皆で井村先生の所へ向かうのだ。一階の廊下はあらかたの生徒たちが帰ったため、思いの外しんとしている。とは言え、グラウンドや体育館から運動部の練習中の掛け声や、どこで鳴っているのか軽音楽部のぴーひゃらどんどんが聞こえている。
 とりあえず第一理科室に着いた。しかし、井村先生は居らず、鍵がかかっていた。出入りの引き戸にはめ込まれた窓ガラスから室内を見るが、ちょうど骸骨標本が見えなかった。
「仕方がない、生物準備室へ行ってみよう」
 松原先生が言う。
「あ、わたしが行ってきます」しのぶが手を上げた。「井村先生って、人見知りだから、こんなに大勢で行ったら嫌がると思うんです」
「人見知りって……」松原先生が呆れる。「教師だよ? 生徒たちの前で授業をやる立場だよ? それが人見知りって……」
「授業は、話に没頭できるから平気だって言っていました」しのぶが言いながらうなずく。「わたし、それが良く分かります。没頭すると、周りが見えなくなるから、気にならないんです」
「そうか……」松原先生は言う。「まあ、オレはあの先生は苦手だから、栗田が行ってくれるんなら助かるよ」
「じゃあ、行ってきます。第一理科室の鍵を借りてきますね。上手くいけば、井村先生も来てくれると思います」
「いや、無理に呼ばなくても良いよ」松原先生は慌てたように言う。「理科室の骸骨標本を見るだけだからさ」
「……そうですか」
 しのぶはちょっと不満そうな顔をしながら、二階の準備室へと向かった。
「のぶって、頭が良すぎて、ちょっとついていけない所があるんですよねぇ……」朱音がしのぶの後ろ姿を見ながら言う。「きっと、井村先生と色々と話しちゃって、戻って来るのが遅くなると思います」
 そう言うと、朱音はさとみを見た。さとみはぽうっとした顔で立っている。
「会長……?」朱音の呼びかけに答えない。朱音は怪訝そうな顔を下が、すぐに気がつく。「これって……」
 さとみは霊体を抜け出させていたのだ。骸骨標本を見るためではない。竜二と虎之助が現れたからだ。相変わらず、虎之助は竜二の抱きついている。
「また現われたわね!」さとみは竜二に文句を言う。「こう言う人の多い所で現われるのは止めてよね!」
「だってさあ、学校だったら、確実にさとみちゃんに会えるしさあ」
「何ですってぇぇぇ!」
 竜二の言葉に虎之助が怒り出した。見た目はすんごい美人だが、実際は男だ。野太い声で竜二に言い返す。
「何よ何よ何よ! わたしって言う立派な恋人がいるのに! 浮気なんて許さないわよ!」
 虎之助は言うと、竜二の二の腕をつねり上げた。
「いててててて……!」竜二は苦痛の声を上げた。「さとみちゃんの会いたいって言うのは、そう言う意味でじゃないよう!」
「じゃあ、どう言う意味よ!」虎之助の攻撃は止まらない。さらにつねり上げて行く。「さあ、言いなさいよ!」
「そうつねられちゃあ、答えられないよう!」竜二は半泣きな顔をさとみに向ける。「さとみちゃんからも、言ってくれよう!」
「あのさあ、竜二……」さとみが呆れたように言う。「自分の恋人にもちゃんと出来ないのに、わたしに会いたいって、勝手だわ」
「そうよ! こんなちんちくりんで寸胴でぷにぷにでぺちゃパイな小娘なんかに会いたいだなんて、どうかしているわよ竜二ちゃん!」
「……ちょっと待ってよ!」さとみは虎之助に向かって口を尖らせる。「どうしてそんな事を知ってんのよう!」
「竜二ちゃんが言っていたわよ。『さとみちゃんって、オレに文句ばっかり言うけどさ、実はちんちくりんで寸胴でぷにぷにでぺちゃパイなんだ。オレは見たから知っている』って言っていたわよ」
「竜二!」さとみは怒鳴る。一度、竜二がさとみの入浴中に湧いて出た事があったのを思い出したのだ。「もうどっか行っちゃってよう! 顔も見たくない!」
「何? 図星を突かれて逆切れするの?」
「あなたには関係ないでしょ! あなた、見た目はすんごい美人かもだけど、男の人なんでしょ? そんな人にあれこれ言われたくないわ! あなたもどっかへ行っちゃってよう!」
「あらあらあら……」虎之助は竜二から離れてさとみの前に立つ。こんな近くで見ても男性とは思えない。「男のわたしに勝てない小娘にこそ、あれこれ言われたくないんだけど?」
「何よう!」
「何ようって、何よう!」
 さとみと虎之助は睨み合う。
「あのさあ、さとみちゃんも虎之助もさぁ……」竜二が割って入る。「仲良くしてくれよう……」
「あなたが変な事を言ったから、こうなったんじゃない!」さとみがぷっと頬を膨らませる。「どうすんのよう!」
「竜二ちゃん、はっきりしなさいよ!」虎之助も頬を膨らませる。「このままじゃ、わたし悪霊になっちゃうわ!」
「だからさ、オレがここに来た理由を話させてくれよう!」
 竜二は叫ぶ。さとみも虎之助も、竜二の魂の叫びに黙った。そして、竜二を見る。
「……オレさ、豆蔵さんとおみっちゃんとから聞いたんだよ」竜二は話し始める。「この学校の出来事をさ。ほら、オレも豆蔵さんやおみっちゃんと同じチームじゃないか? だからさ、オレも何か出来ないかなって思ったんだよ」
 ……同じチーム? 万年足引っ張り男が? ドジ生産機が? さとみは笑い出しそうになった。
「まあ! 偉いわあ、竜二ちゃん!」虎之助は言うと涙を流し、竜二に抱きついた。「自分を役に立てようだなんて! ごめんなさい! 変な勘違いをしちゃって! それに、こんな小娘につまらない嫉妬もしちゃって。恥ずかしいわあ……」
 さとみが言い返そうとした時、しのぶが大きめの木札のぶら下がった鍵を持って戻って来た。 


つづく


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