お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

霊感少女 さとみ 4

2011年03月03日 | 霊感少女 さとみ (全132話完結)
「どこじゃ? どこに居るのじゃ?」権吉は上半身を伸ばし、首をキョロキョロさせる。「もの凄い格好のは、どこじゃあ!」
「ははは、残念でした。この木の反対側だよう」さとみは権吉の寄りかかっている木をぺんぺんと叩いた。「自縛霊じゃあ、ここから全く動けないものねえ。いくら頑張っても見えっこないわねえ」
「そ、そいつはどんな格好をしておるんじゃ?」権吉は必死の表情をさとみに向ける。「若い娘か? 何を着ておるんじゃ?」
「ええとねえ・・・」さとみはわざと焦らす。「若いわよ。それに、昨日までいなかった、新顔だわ」
「若い新顔か!」権吉の喉が続けて鳴る。「そういや、昨夜、警察が来てなにやらやっておったようじゃのう」
「それね!」さとみは大きく頷いた。「何かの事件の被害者かも・・・」
「おい、その者は浮遊霊だな?」慌てた口調で権吉が言う。「なら、わしの前に連れて来てくれ。・・・い、いえ、連れて来て下さいませんか」
「いやよ!」さとみは言ってあっかんべえをして見せる。「おじいちゃん、何も知らないみたいで、今回は役に立ちそうもないから!」
 さとみの霊体がすっと消えた。しゃがみ込んでいたさとみが立ち上がる。怨めしそうに権吉が見上げている。
 さとみはぷいっと顔をそむけ、すたすたと歩き出した。
 公園の隅まで歩いて立ち止まる。さとみは下着姿の女をしげしげと見た。
 スタイルの良さは麗子など足元にも及ばない。さらさらの黒髪が背中の中ほどまであり、白い滑らかな肌をより目立たせている。ブラジャーもパンティも、よく見るとやや小さめだし、細かいフリルなんかもついている。麗子が知ったかぶりに言った事のある「勝負下着」なのもかもしれない。
 いわゆる、大人の女性だ。
 さとみは気後れしてしまった。だからと言って知らん顔は出来ない。あの世へ逝けるんなら、その方が霊体のためだ。それに、何かの事件に巻き込まれたのかもしれない。いつまでも放っておくと、怨霊になってしまう。
 意を決し、さとみは霊体を抜け出させた。
 「あのう・・・」
 遠慮がちに声をかける。やはり、気後れを感じてしまう。
 声をかけられた女は、今初めて気がついたと言うように、さとみの方に振り返る。なんとなく、目の焦点が合っていない。
「・・・」女は目を細め、さとみを見つめる。酔った父親が遠くのものを見るときに目付きに似ている、さとみは思った。「・・・」
 女は口をもごもごと動かし始めた。しかし、声は出ない。本当に酔っ払っているのではないか、霊体にまでなって酔っ払っているなんて初めての遭遇だ、さとみは不安になって一歩後ろへ下がる。
「・・・ここは・・・どこなの?」女はやっとの事でそう言った。酔った声ではないが、普通とも思えない。「・・・あなた、誰なの? そして、わたしは・・・わたしは・・・誰なの?」
 女は自分の恰好に気づいたようだ。驚いた表情で、自分の両腕を差し上げ、しげしげと見つめ、次いでその腕を下ろし、自分の腹を、太腿を、恐る恐る撫でた。
「・・・わたし、どうして、こんな格好をしているの? ああ、どうなっているのよう!」
 女はその場に座り込んで頭を抱え、えぐえぐと泣きはじめた。
 記憶喪失の霊体! さとみは唖然となった。

 つづく



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