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霊感少女 さとみ 87

2013年03月14日 | 霊感少女 さとみ (全132話完結)
 各教室から、先生や生徒たちが、ぞろぞろと出てくる。さとみと麗子はそれに紛れるようにして教室へ向かう。
「あっ!」
 さとみは小さく叫ぶと、思わず立ち止まった。教室の出入り口の前に、アイが立っていたからだった。
「なに立ち止まってんのよ?」麗子が文句を言いながらさとみを見下ろす。そして、さとみの視線を追う。「あっ!」
 アイはさとみたちに気が付くと駆け寄ってきた。
「姐さん!」さとみの前で立ち止まると、大きく頭を下げた。「先ほどは失礼しましたあ!」
 周りの動きが止まり、しんとなった。
「ちょ、ちょっと、やめてください!」さとみが慌てて言う。「そんな、わたし、困ります!」
 さとみと麗子、そしてアイを遠巻きにして、周りにひそひそとした話し声が広がっていく。
「おい、うるせえぞ!」いらいらした口調でアイが周りに向かって怒鳴る。「さっさと失せろ!」
 蜘蛛の子を散らすように、周りから生徒たちがいなくなった。
「これで良しっと……」アイは満足そうにうなずく。「で、これからはさとみ姐さんの舎弟として、末永くお仕えいたします!」
 アイはそう言うと、また頭を下げた。
 さとみは困った顔で麗子を見る。麗子はさとみにウインクして見せた。それから、ずいっと一歩前に出て、頭を下げたままのアイを見下ろした。
 気配を感じたアイは頭を上げた。自分より背の高い麗子を見上げる。
「あなたねえ、勝手に舎弟なんて名乗らないでよ!」麗子は言いながら、さとみの腕をつかんだ。「さとみの一番の仲良しは、わたしなのよ。分かる? つまり、あなたはわたしの舎弟でもあるってわけよ」
「……」アイはじっと麗子を睨み付けた。「……さとみ姐さんが、そうしろと言うんなら、そうします……」
「当然、そうしろって言うわよ! ね、さとみ!」麗子は笑顔をさとみに向けた。しかし、その顔が曇った。「……さとみ…… ?」
 さとみの視線はアイからも麗子からも逸れていた。アイの後ろの方を見つめていた。
 みつと豆蔵、竜二、それにももが立っていた。さとみは霊体を抜け出させた。
「まあ、みつさん! さっきはありがとう! 豆蔵も、ご苦労様!」にこにこしながら言い、次いで顔をももに向けた。竜二には目もくれない。「ももちゃん! 今夜、作戦決行なんだけど、大丈夫よね?」
 朝の騒動の後、さとみはみつに今夜の作戦について話をし、ももに伝えるように頼んでおいたのだ。
 作戦と言うのは、こうだ。麗子にももを憑かせ、犯人を追いつめて、自白させようと言うのだ。過去に似たようなことをして、うまく行ったことが何度かある。
「……ええ」ももは力ない笑顔を浮かべた。「大丈夫だとは思うんだけど、土壇場でどうなるかってのは、自信がないの……」
「そう……」さとみは不安そうな顔のももを見ながら、眼を閉じて、おでこをぴしゃぴしゃとたたき始めた。しばらくして、その手が止まる。眼は閉じたままだ。「みつさんや豆蔵がいてくれれば問題ないと思うんだけどなあ……」
「あのう、さとみちゃん……」遠慮がちな声に、さとみは面倒くさそうに眼を開ける。竜二がへらへらとした笑顔を浮かべている。「俺もいるんだけど」
「それで?」さとみがむすっとした顔で言う。「お前に何が期待できるのよ!」
「竜二さんは、ずっとわたしについていてくれたわ」ももがすかさず言う。だが、しばらく口ごもる。「……ついていてくれただけだけど……」
「でしょ? 役に立たないのよねえ」
「まあまあ、さとみ殿」みつが割って入る。その横で、豆蔵が竜二を慰めていた。「竜二さんのお蔭で、ももさんも平静でいるわけですから、その…… まったくの役立たずと言うわけではないでしょう」
「まあ、そう言われれば、そうかも……」さとみは、みつの一言でさらに落ち込んでいる竜二を、楽しそうな表情で見ながら言った。「いないよりは少しはマシって感じね」
「嬢様」豆蔵が困った顔をして見せた。「お戯れはそれくらいにしていただきましょう。竜二さん、泣き出しちまいましたぜ」
「あら!」おいおい泣きだした竜二を見て、さとみはぺろりと舌を出した。「……それで、みんな、どうしてここへ?」
「へい、実は、今晩の事なんですが……」豆蔵が代表で答えた。「やはり、ももさん一人じゃ、いろんな意味で心配なもんでして……」
「と言うと…… ?」
「楓の時もそうでしたが、憑いた生身には全く手出しができませんでした」
「さよう」みつが言う。「もし、下手人が、憑いた麗子殿に危害を加えようと襲ったとしても、私たちは何もできないでしょう」
「万が一、ももさんの抑えている気持が炸裂して、我を忘れるようなことになっても、手の打ちようがありません……」
「……って事は。もう一人、みつさんか豆蔵が憑けるからだが必要って事か……」
 さとみはぽつりと言うと、ぴしゃぴしゃおでこを叩きながら振り返った。麗子に何か言っているアイに目を留めた。
「そうだ!」
 さとみは手を止めて叫んだ。


つづく





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