メイン通りから一本脇へ逸れた、薄暗い裏通りに入ってしばらくし、不意に百合恵は立ち止まり、振り返った。すぐ後ろにさとみがいた。さっきよりは息は上がってなさそうだった。百合恵は満足そうな顔で、タバコを取り出しくわえた。
「また、タバコ休憩ですか?」不満そうな顔でさとみが言った。「タバコはからだに悪いんじゃないんですか? わたしのこと心配してくれるのに、自分のからだは心配しないんですか?」
「人間らしくなったと思ったら、口うるさいことを言うお嬢ちゃんだったのねぇ……」百合恵はくわえたタバコを突き立ててさとみの口を指した。「……でも、心配してくれるのはうれしいわ。でもね、タバコ休憩じゃないのよ」
「じゃあ、なんなんですか?」
「私の言うことを聞いてくれたり、あれこれと情報を持ってきてくれる浮遊霊がいるんだけどね」百合恵は声を潜めてつづけた。「ここに、ももちゃんがいるのよ」
「えっ?」
さとみは思わず辺りを見回した。
メイン通りの店々よりも、この裏通りの方のが、どんよりとした感じだ。見える霊体達も、なんだか感じが違う。悪意が増しているようだった。
「そう、かなり危険な場所ね……」さとみの心を察したように百合恵は言った。「こうして立っているだけで、ゾクゾクっとしちゃうわね」
「そうですね。とってもイヤな感じがします……」
店を一軒一軒じっくりと見ながら、さとみは言った。店先に蹲る霊体達が、さとみと視線が合うと無表情なまま睨み返してくる。さとみは思わず視線を避けてしまう。
「さとみちゃん……」百合恵がさとみの前に立ち、顔を覗き込む。「あんまり見ないほうがいいわ。奴らはとっても危険な霊体どもよ」
「はあ……」まっすぐに見つめる百合恵の視線に戸惑いながら、さとみは言った。「豆蔵が、ももちゃんがお店に勤めていたって言っていたから、この辺にお店があるんじゃないかって思ったんだけど……」
「シャノワール……だったわね。ここじゃないわ」
「じゃあ……」
百合恵はさとみの肩に手を置いた。
「さとみちゃん……」百合恵は真剣な顔でさとみを見つめる。「ここからは行くんなら、一人で行ってもらわなくちゃいけないわ……」
「どう言うことですか?」
「ももちゃん、あそこにいるのよ……」
「あそこ?」
百合恵は右手の人差し指を立て、立っている側と反対の方を指した。さとみはその指先を追う。
つづく
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「また、タバコ休憩ですか?」不満そうな顔でさとみが言った。「タバコはからだに悪いんじゃないんですか? わたしのこと心配してくれるのに、自分のからだは心配しないんですか?」
「人間らしくなったと思ったら、口うるさいことを言うお嬢ちゃんだったのねぇ……」百合恵はくわえたタバコを突き立ててさとみの口を指した。「……でも、心配してくれるのはうれしいわ。でもね、タバコ休憩じゃないのよ」
「じゃあ、なんなんですか?」
「私の言うことを聞いてくれたり、あれこれと情報を持ってきてくれる浮遊霊がいるんだけどね」百合恵は声を潜めてつづけた。「ここに、ももちゃんがいるのよ」
「えっ?」
さとみは思わず辺りを見回した。
メイン通りの店々よりも、この裏通りの方のが、どんよりとした感じだ。見える霊体達も、なんだか感じが違う。悪意が増しているようだった。
「そう、かなり危険な場所ね……」さとみの心を察したように百合恵は言った。「こうして立っているだけで、ゾクゾクっとしちゃうわね」
「そうですね。とってもイヤな感じがします……」
店を一軒一軒じっくりと見ながら、さとみは言った。店先に蹲る霊体達が、さとみと視線が合うと無表情なまま睨み返してくる。さとみは思わず視線を避けてしまう。
「さとみちゃん……」百合恵がさとみの前に立ち、顔を覗き込む。「あんまり見ないほうがいいわ。奴らはとっても危険な霊体どもよ」
「はあ……」まっすぐに見つめる百合恵の視線に戸惑いながら、さとみは言った。「豆蔵が、ももちゃんがお店に勤めていたって言っていたから、この辺にお店があるんじゃないかって思ったんだけど……」
「シャノワール……だったわね。ここじゃないわ」
「じゃあ……」
百合恵はさとみの肩に手を置いた。
「さとみちゃん……」百合恵は真剣な顔でさとみを見つめる。「ここからは行くんなら、一人で行ってもらわなくちゃいけないわ……」
「どう言うことですか?」
「ももちゃん、あそこにいるのよ……」
「あそこ?」
百合恵は右手の人差し指を立て、立っている側と反対の方を指した。さとみはその指先を追う。
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