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吸血鬼大作戦 ㉕

2019年09月04日 | 吸血鬼大作戦(全30話完結)
 ガルウォッツォの上着が裂けた。背中にコウモリの翼のようなものが左右に伸び、それを羽ばたかせながら空中に漂っている。白い上半身がさらけ出されている。最早性別は分からなかった。少なくとも女性ではなかった。
「飛ぶなんて、卑怯じゃない!」地上からジェシルが文句を言う。「その手で今まで逃げ回っていたのね!」
「そうさ。お前が熱線銃を撃とうが、かわしながら逃げてやるだけさ」しわがれた声でガルウォッツォは笑う。「じゃあ、またどこかで会おうか」
 と、その時、明は落ちている小石を拾った。拘束波が切れ、からだを動かせるようになったからだ。ガルウォッツォの上着が裂けて地面に落ちた時、発生装置が壊れたのだろう。
 明は拾った小石をガルウォッツォめがけて投げつけた。当たるとは思っていなかった。馬鹿にされ、命まで奪われかけたことに腹が立ったからだった。
 しかし、投げた小石はガルウォッツォに当たった。ガルウォッツォは明を全く気にしていなかった。完全に虚を衝かれた形だった。石はガルウォッツォの顔に当たった。うっと呻くと、空中から明をにらみ付けた。
「何しやがる! この下等生物が!」
 ガルウォッツォは叫ぶと、明に向かって急降下してきた。その恐ろしい表情に明は身をすくませて動けなくなった。やられる! そう覚悟した明は目を閉じることが精いっぱいだった。
 閉じた瞼を通して眩いオレンジ色の光が広がった。明は恐る恐る目を開けた。地面にオレンジ色に燃え上っているガルウォッツォがあった。しばらく燃えていたが、それも消えた。後には何も残らなかった。完全に消滅したのだ。
「ふぅ~っ、やれやれ……」ジェシルは手にしていた銃を腰のホルスターに戻し、右手で自分の顔をあおいだ。「やっと仕留める事が出来たわね」
 明は呆然と立ち尽くしている。目の前で展開していた出来事が夢か幻のように思えていた。
「……あ~、君……」明はジェシルの声に振り返る。ジェシルは微笑みながら近づいて来た。「協力に感謝するわ。え~と、名前は?」
「……明、早田、明と言います……」
 明は、答えた声が自分のものとは思えないほどがらがらだと思った。
「はやた、あきら…… じゃあ、明君で良いかしらね?」
 どう見ても川村ひろみ先生にしか見えない女性が、どう聞いても川村ひろみ先生にしか聞こえない声で答えた。
「それで、あなたは?」明は言った後で、変な事聞いたかもしれない、自分も撃たれるかもしれないと思った。「あ、答えたくないんなら良いんです! オレも、この出来事を忘れますから!」
「ははは!」ジェシルは笑った。「あなた、面白い子ねぇ、明君。何をそんなに怖がっているのか分からないけど。……わたしは、本物の、宇宙パトロール捜査官のジェシル・アンよ」
「……はあ、そうなんですか……」
「ガルウォッツォはね、キリティック星出身の悪いヤツで、全宇宙に指名手配されていたの。宇宙パトロールの捜査官が何人もヤツに倒されたわ。とんでもない凶悪犯だったのよ」
「そんな悪いヤツがどうしてこんなところに……」
「わたしが以前にある捜査で、ここへ、地球の日本へ来たことがあったのよ。それをどこかで調べて、その時のわたしに成りすましてたってわけ。こんな辺境の惑星なら見つからないと思ったんでしょうけど、甘かったわね」明の理解に関係なく、一方的に話ジェシルだった。「……ところで、さっき先生なんて呼んでたようだけど、ヤツは何かやったの?」
「オレたちの学校の数学の先生だったんです……」
「そう…… まあ、言葉は悪いけど、この惑星の程度なら、あんな凶悪犯でも十分にこなせるでしょうね」
 明は憮然とした。そんな程度でも明は毎回数学ではひいひい言っているのだ。そんな自分が馬鹿に思えた。
「これから戻って報告書を作らなきゃいけないのよねぇ…… あのトールメン部長、報告書なんか読みもしないくせに!」
 ジェシルは言いながら腹を立てていた。明には当然、何を怒っているのか分からない。しかし、殺気を帯びた雰囲気なのは分かった。明はとっさに、何とかしなければと思った。不良娘軍団と付き合うようになって場の空気に敏感になっているようだった。いや、それ以前にくるみと一緒にいる時から培ってきたのかもしれない。
「あの……」明は何度か口をぱくぱくさせて、絞り出すように言った。ジェシルは、ちょっとむっとしている顔を明に向けた。「あの、日本語、上手ですね……」
「え?」唐突な質問にジェシルは笑った。殺気が消えた。「こんな、辺境の未開の惑星に一言語なんて、あっという間に学べちゃうわよ」
「そうですか……」
 ガルウォッツォが言っていた、地球は未開の惑星と言うのは、ふざけて言っていたのではなく、宇宙の共通の認識のようだ。明はものすごく惨めな気持ちになっていた。
 ジェシルの隣に強烈な光が発生した。それが消えると、ジェシルと同じような服を着た男性が現われた。この光は転送装置を使用した時に現れるようだ。
「あれ?」
 明は呟いて記憶をたどった。そうだ、くるみたちの買い物に付き合わされて、ひろみ先生(実はガルウォッツォだったが)に出会った少し前に、デパートに入る先生が男の人と一緒にいるのを見かけた気がしたんだ。先生はつまらなさそうな顔をしていたけど。あれがこのジェシルで、一緒だった男の人がこの人だ。
「カルース!」ジェシルは現われた男性に声をかけた。「どうだった?」
「ガルウォッツォの住んでいたアパートで色々と装置を見つけたよ。回収済みだがね。特に、何かの精製装置は中々なもんだぜ。出来上がっていた粉をちょっと舐めてみたら、ベルザの実の味っぽかったよ」
「それって、猫や犬の血から作ったもののようよ」
「うえっ!」カルースは吐きそうになった。「何てこった!」
「カルース、少しは捜査官の自覚を持ってよね。慎重さが全く欠如しているわ」
「何かって言うと銃を撃ちまくるジェシルには言われたくないな」
「何よっ!」
 二人はにらみ合った。
「まあまあ……」
 空気を読んだ明が割って入った。


 つづく

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