「……宇宙パトロール?」明は繰り返す。どう考えても、正義の味方っぽい名前だ。「そんな所に所属しながら、犯罪を犯すなんて、どう言うつもりだ!」
「犯罪?」ジェシルは呆れた顔だ。「こんな、未開の惑星で何をやったって、何の問題もないのよ。地球を丸ごと消したって、ちっとも困らないのよ」
「ふざけんな!」
「ふざけていないわ」ジェシルの目付きが変わった。「さ、もうお話は終わり。人間の血にベルザの実と同じ成分があるかどうか、調べさせてもらうわね」
ジェシルは言うと、上着のポケットから、スマートホンのような形の装置を取り出した。かわいらしい笑顔を浮かべ、明に迫ってくる。
「この装置を頸動脈に当てると、体内の血液は全部、わたしの部屋の別の装置に転送されるのよ。さっきは、あの大柄な娘に暴れられて出来なかったけど、へっぽこ君なら問題なさそうね。……そんなにびくびくしなくても大丈夫よ。一瞬で終わるから。何も分からないまま、お別れって感じね」
明は踵を返して逃げようとした。が、不意に全身を締め付けられる感覚が襲い、地面に倒れてしまった。ジェシルは微笑みながら、もう一方のポケットからリップクリームのスティックのようなものを取り出した。それを軽く振って見せた。
「これはね、凶悪な犯人を取り押さえる時に使う、拘束波を発信させる装置なのよ。最大値にしたから、もう絶対動けないわねぇ」
「う、ううっ……」明はうなった。口をもごもごさせる。口は動かせそうだ。「……結局はそう言った科学の力に頼らなきゃ、何も出来ないんじゃないか!」
「あら、口は利けたようね!」ジェシルは驚きながらも、楽しそうだ。「でもね、地球だって、未開の地域は先進の技術を持った地域に侵されて行ったんじゃないの? それとも、みんな仲良しで進歩して来たのかしら?」
明は返事が出来なかった。確かにジェシルの言った通りだからだ。明は地球人であることを心から恥じた。
「でもね、宇宙だってそうなのよ。宇宙全体から見れば、地球は未開の地域。先進のわたしたちに従うしかないわね。さあ、諦めてね」
ジェシルは黙った。真剣な表情になった。美しい顔だけに迫力があった。
……ああ、終わりだ。やっぱり英雄や勇者なんかには、なれっこなかったんだ。オレはどうせその他大勢だったんだ。好い気になって追いかけなきゃよかった。みんなの後ろで、おろおろうろうろしているのがお似合いだったんだ…… 明は思った。
首筋に当てられた装置が、ジェシルの手のぬくもりのせいか、温かい。明は覚悟を決めて目を閉じた。
「ベルザの実の味がすると良いわね……」
ジェシルが明の耳元で優しくささやいた。
「そこまでだ! ガルウォッツォ!」鋭い女性の声が闇に響いた。「異星人殺害未遂現行犯で逮捕する!」
「ちっ!」ガルウォッツォと呼ばれたジェシルは舌打ちをする。「来やがったか!」
ガルウォッツォは明から離れ、周囲を見回した。明もそうしてみた。見える範囲には誰も居なかった。
いきなり光が放たれた。そのまぶしさに明は目を閉じた。まぶたを通して感じられるまぶしさが治まってきた。明は恐る恐る目を開けた。
そこには、白いつなぎのような服(明は戦闘用のスーツだと思った)を着た、体型がしっかりと露わになった(はち切れそうな胸元と腰回り、その間のしまったくびれが光の中で浮かび上がっている)、若い女性が立っていた。
「あっ!」
明は思わず声を上げた。そこに立っていた女性の顔を見たからだ。それは、川村ひろみでありジェシル・アンでありガルウォッツォと呼ばれた吸血騒ぎの異星人と同じだったからだ。
「ガルウォッツォ!」女性は明など眼中にないようだ。じっと相手を見つめている。「やっと見つけたわよ!」
「ふん、よく見つけたものね」
「宇宙パトロールを舐めないで。全宇宙に捜査網は布かれているのよ」
「気に入らないねぇ……」
「それと、好い加減に元の顔に戻しなさいよ! 不愉快だわ!」
「そうかい、気に入ってたんだけどねぇ」
ガルウォッツォは笑った。笑い終えると顔が変わり始めた。白い顔に、尖った耳、口の両端が切れ上がり鋭い尖った歯が覗いている。そして、薄気味悪い二つの目。青く光る大きな円の真ん中に赤い点が浮かび上がったものが並んでいた。明はこの目に見覚えがあった。文枝が襲われた時に明が見た相手の顔にあったものだ。……うわあ、まさに吸血鬼って感じだあ…… 明はガルウォッツォの顔を見ながら思い、背筋をぞくりとさせた。
「ジェシル!」ガルウォッツォは指を突き付けた。「お前にはうんざりだよ! 始末してやる!」
「馬鹿ねぇ。勝てるわけないでしょ? ま、捕まっても極刑は避けられないでしょうけどね」
「黙れえ!」
ガルウォッツォは跳躍した。
つづく
「犯罪?」ジェシルは呆れた顔だ。「こんな、未開の惑星で何をやったって、何の問題もないのよ。地球を丸ごと消したって、ちっとも困らないのよ」
「ふざけんな!」
「ふざけていないわ」ジェシルの目付きが変わった。「さ、もうお話は終わり。人間の血にベルザの実と同じ成分があるかどうか、調べさせてもらうわね」
ジェシルは言うと、上着のポケットから、スマートホンのような形の装置を取り出した。かわいらしい笑顔を浮かべ、明に迫ってくる。
「この装置を頸動脈に当てると、体内の血液は全部、わたしの部屋の別の装置に転送されるのよ。さっきは、あの大柄な娘に暴れられて出来なかったけど、へっぽこ君なら問題なさそうね。……そんなにびくびくしなくても大丈夫よ。一瞬で終わるから。何も分からないまま、お別れって感じね」
明は踵を返して逃げようとした。が、不意に全身を締め付けられる感覚が襲い、地面に倒れてしまった。ジェシルは微笑みながら、もう一方のポケットからリップクリームのスティックのようなものを取り出した。それを軽く振って見せた。
「これはね、凶悪な犯人を取り押さえる時に使う、拘束波を発信させる装置なのよ。最大値にしたから、もう絶対動けないわねぇ」
「う、ううっ……」明はうなった。口をもごもごさせる。口は動かせそうだ。「……結局はそう言った科学の力に頼らなきゃ、何も出来ないんじゃないか!」
「あら、口は利けたようね!」ジェシルは驚きながらも、楽しそうだ。「でもね、地球だって、未開の地域は先進の技術を持った地域に侵されて行ったんじゃないの? それとも、みんな仲良しで進歩して来たのかしら?」
明は返事が出来なかった。確かにジェシルの言った通りだからだ。明は地球人であることを心から恥じた。
「でもね、宇宙だってそうなのよ。宇宙全体から見れば、地球は未開の地域。先進のわたしたちに従うしかないわね。さあ、諦めてね」
ジェシルは黙った。真剣な表情になった。美しい顔だけに迫力があった。
……ああ、終わりだ。やっぱり英雄や勇者なんかには、なれっこなかったんだ。オレはどうせその他大勢だったんだ。好い気になって追いかけなきゃよかった。みんなの後ろで、おろおろうろうろしているのがお似合いだったんだ…… 明は思った。
首筋に当てられた装置が、ジェシルの手のぬくもりのせいか、温かい。明は覚悟を決めて目を閉じた。
「ベルザの実の味がすると良いわね……」
ジェシルが明の耳元で優しくささやいた。
「そこまでだ! ガルウォッツォ!」鋭い女性の声が闇に響いた。「異星人殺害未遂現行犯で逮捕する!」
「ちっ!」ガルウォッツォと呼ばれたジェシルは舌打ちをする。「来やがったか!」
ガルウォッツォは明から離れ、周囲を見回した。明もそうしてみた。見える範囲には誰も居なかった。
いきなり光が放たれた。そのまぶしさに明は目を閉じた。まぶたを通して感じられるまぶしさが治まってきた。明は恐る恐る目を開けた。
そこには、白いつなぎのような服(明は戦闘用のスーツだと思った)を着た、体型がしっかりと露わになった(はち切れそうな胸元と腰回り、その間のしまったくびれが光の中で浮かび上がっている)、若い女性が立っていた。
「あっ!」
明は思わず声を上げた。そこに立っていた女性の顔を見たからだ。それは、川村ひろみでありジェシル・アンでありガルウォッツォと呼ばれた吸血騒ぎの異星人と同じだったからだ。
「ガルウォッツォ!」女性は明など眼中にないようだ。じっと相手を見つめている。「やっと見つけたわよ!」
「ふん、よく見つけたものね」
「宇宙パトロールを舐めないで。全宇宙に捜査網は布かれているのよ」
「気に入らないねぇ……」
「それと、好い加減に元の顔に戻しなさいよ! 不愉快だわ!」
「そうかい、気に入ってたんだけどねぇ」
ガルウォッツォは笑った。笑い終えると顔が変わり始めた。白い顔に、尖った耳、口の両端が切れ上がり鋭い尖った歯が覗いている。そして、薄気味悪い二つの目。青く光る大きな円の真ん中に赤い点が浮かび上がったものが並んでいた。明はこの目に見覚えがあった。文枝が襲われた時に明が見た相手の顔にあったものだ。……うわあ、まさに吸血鬼って感じだあ…… 明はガルウォッツォの顔を見ながら思い、背筋をぞくりとさせた。
「ジェシル!」ガルウォッツォは指を突き付けた。「お前にはうんざりだよ! 始末してやる!」
「馬鹿ねぇ。勝てるわけないでしょ? ま、捕まっても極刑は避けられないでしょうけどね」
「黙れえ!」
ガルウォッツォは跳躍した。
つづく
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