「あっ、そうだ!」
さとみは踵を返し、しのぶの所に向かう。
「どうしたんですか、会長?」しのぶが怪訝な顔をする。「これから乗り込むってところじゃないですか!」
「そうなんだけどね」さとみは真剣な面持ちで言う。「しのぶちゃんって、この手に知識って豊富じゃない? だから、何か良い手が無いかなぁって思って」
「良い手、ですか?」
「ほら、何かのお守りだとか、呪文だとか、手で印を組むとか……」
「印は組むじゃなくて、結ぶです」しのぶは冷静に訂正する。「でも、どうしてそんな事を?」
「だって、物を飛ばして来るから、危険じゃない?」
「そうですねぇ……」しのぶは腕組みをして考え込む。「たしかに当たったら痛いですもんねぇ……」
「じゃあ、わたしが一緒に行きます!」そう言って割り込んできたのはアイだ。「わたしが会長の楯になります! ですから、その間に封じ込めちまってください」
「ダメよ、アイ!」さとみは慌てて拒否し、アイを見る。「そんな事になったら、あなたがぼろぼろになっちゃうじゃない! 絶対、ダメ……」
さとみは言うと泣き出した。アイは困った顔を百合恵に向ける。百合恵はさとみに近寄り、泣いているさとみの頭をぽんぽんと優しく叩く。
「さとみちゃん。相変わらず優しいのねぇ」百合恵はさとみを抱きしめる。さとみは無意識に顔を横に向け、呼吸を確保する。「そう言う所が、みんながさとみちゃんを好きな所なのよ」
「そのようですね」片岡は優しい笑みを浮かべて言う。「誰も傷つけたくないとの思いが溢れていますね。本当、優しい娘さんだ」
さとみはすんすんと鼻を鳴らしながら顔を上げる。百合恵は優しくうなずく。片岡を見ると、反対側を指し示した。さとみは示された側を見る。そこには、豆蔵、みつ、冨美代、虎之助、それともう一人(どうしても竜二の名前が出て来ない)たちが、並んで立っていた。皆大きくうなずいている。
「みんな、さとみちゃんの味方よ」百合恵が言う。「それに、大好きなおばあちゃんもいるじゃない?」
「……はい、そうですよね……」さとみは涙を手の甲で拭き、笑顔を作る。「忘れる所でした」
「さとみさん」片岡が言う。「及ばずながら、わたしが守りますよ」
「そ、そんなぁ、片岡先生ぃ!」谷山先生がきいきい声で割って入って来た。「何やら危険な感じですわぁ! 無茶はおやめくださいぃ!」
「でも、わたしを呼んだのは、谷山さんですぞ」片岡は谷山先生を見る。「まさか、軽い気持ちでわたしを呼んだのではありますまい?」
「そ、それは……」谷山先生は言葉を濁す。「そんな大変な事とは思わずに……」
「何だよ! 見栄でも張りたかったのかよう!」アイが激怒する。「会長を、『百合恵会』を甘く見ていやがったんだな!」
「谷山先生はのぶが危なかったのを見ていなかったですよね?」朱音も怒っている。「だから、そんな気楽な事が言えるんです!」
「そうだ!」アイが谷山先生を見ながら、にやりと笑う。「谷山先生に楯になってもらえば良いじゃん! 自分が霊媒師を呼んだんだから、それくらいの責任は持って当然なんじゃねぇの?」
「そ、そんなぁ……」
谷山先生は絶句し、助けを求めるように坂本教頭を見る。坂本教頭は谷山先生の視線を避ける。次いで谷山先生は片岡を見る。
「谷山さん」片岡は谷山先生に優しく微笑む。「あなたには感謝していますよ。さとみさんと巡り合わせてくれましたからね」
「あら、そう言って頂けるとぉ……」
谷山先生はほっとしたようだ。アイはうんざりした顔で谷山先生を見ている。松原先生は苦笑している。朱音はまだ怒った顔をしている。
さとみは緩んだ百合恵の腕から離れ、まだ腕組みをしているしのぶを見る。こんな状況に気がついていないのか、しのぶは目を閉じて考え込んでいるようだった。
「あの…… しのぶちゃん……」さとみがしのぶに声をかける。「もう、大丈夫よ。みんなに守ってもらえているから……」
「あっ! そうだ!」しのぶは突然大きな声を出し、真ん丸に目を見開いて、さとみを見る。「会長! 良い手を思いつきました!」
「え? 本当?」
「はい!」しのぶは自信満々に答える。「会長は霊体を抜け出させる事が出来るんですよね?」
「そうだけど……」
「会長の霊体って強いじゃないですか。だから、霊体で影と向かい合うんです」
「でも、影の姿は見えなかったわ……」
「有能な霊能力者が二人もいたら、影だって隠れきれませんよ。必ず姿を見せます。ポルターガイストの大元ですから、そいつさえ押さえちゃえば、大丈夫です」
「でも、それだと片岡さんが危険なんじゃないかしら……?」
「わたしの事なら心配ご無用」片岡が笑みながら言う。「それに、その影とやらが現われれば、さとみさんの頼もしいお仲間も助けてくれるでしょう」
片岡は言うと豆蔵たちの居る方を見る。片岡には見えているようだ。さとみも豆蔵たちを見る。豆蔵は懐から石礫を出し、みつは刀の鯉口を切り、冨美代は薙刀を上段に構え、虎之助は素早い蹴りを何度か繰り出し、もう一人(さとみは竜二の名前が出て来ない)はうんうんとうなずいている。皆、いつも以上に気合が入っているようだ。
「ドアは開け放しにしておこうかね」坂本教頭が言う。「もしもの時は素早く脱出するんだ」
「ですが、良くある事としてですが……」片岡が平然とした顔で言う。「ドアが勝手に閉まって、外からも内からも開けられないなどと言う事がね、良くあるのです」
「そ、それは……」坂本教頭は言葉に窮する。「そうならない事を願って……」
「そん時は!」アイが言う。「わたしが蹴破ってやるよ! 楽しいじゃん! 堂々と校長室のドアをぶち壊せるなんてさ!」
「あら、アイちゃん」百合恵が笑む。「一人じゃ大変よ。ここは二人でやらないと」
「姐さん……」アイはつぶやくと、百合恵にからだを直角に曲げて頭を下げる。「ありがとうございますぅぅぅ! 助かりますぅぅぅ!」
何となく段取りは決まった。
つづく
作者呟き:今日からこんなのを入れてみます。朝は五時前くらいから起き出して、散歩もせず、PCを立ち上げ、ペチペチと下書きを打ったり、他の方の作品を読んだりしております。呑気な隠居爺ぃでございます。
さとみは踵を返し、しのぶの所に向かう。
「どうしたんですか、会長?」しのぶが怪訝な顔をする。「これから乗り込むってところじゃないですか!」
「そうなんだけどね」さとみは真剣な面持ちで言う。「しのぶちゃんって、この手に知識って豊富じゃない? だから、何か良い手が無いかなぁって思って」
「良い手、ですか?」
「ほら、何かのお守りだとか、呪文だとか、手で印を組むとか……」
「印は組むじゃなくて、結ぶです」しのぶは冷静に訂正する。「でも、どうしてそんな事を?」
「だって、物を飛ばして来るから、危険じゃない?」
「そうですねぇ……」しのぶは腕組みをして考え込む。「たしかに当たったら痛いですもんねぇ……」
「じゃあ、わたしが一緒に行きます!」そう言って割り込んできたのはアイだ。「わたしが会長の楯になります! ですから、その間に封じ込めちまってください」
「ダメよ、アイ!」さとみは慌てて拒否し、アイを見る。「そんな事になったら、あなたがぼろぼろになっちゃうじゃない! 絶対、ダメ……」
さとみは言うと泣き出した。アイは困った顔を百合恵に向ける。百合恵はさとみに近寄り、泣いているさとみの頭をぽんぽんと優しく叩く。
「さとみちゃん。相変わらず優しいのねぇ」百合恵はさとみを抱きしめる。さとみは無意識に顔を横に向け、呼吸を確保する。「そう言う所が、みんながさとみちゃんを好きな所なのよ」
「そのようですね」片岡は優しい笑みを浮かべて言う。「誰も傷つけたくないとの思いが溢れていますね。本当、優しい娘さんだ」
さとみはすんすんと鼻を鳴らしながら顔を上げる。百合恵は優しくうなずく。片岡を見ると、反対側を指し示した。さとみは示された側を見る。そこには、豆蔵、みつ、冨美代、虎之助、それともう一人(どうしても竜二の名前が出て来ない)たちが、並んで立っていた。皆大きくうなずいている。
「みんな、さとみちゃんの味方よ」百合恵が言う。「それに、大好きなおばあちゃんもいるじゃない?」
「……はい、そうですよね……」さとみは涙を手の甲で拭き、笑顔を作る。「忘れる所でした」
「さとみさん」片岡が言う。「及ばずながら、わたしが守りますよ」
「そ、そんなぁ、片岡先生ぃ!」谷山先生がきいきい声で割って入って来た。「何やら危険な感じですわぁ! 無茶はおやめくださいぃ!」
「でも、わたしを呼んだのは、谷山さんですぞ」片岡は谷山先生を見る。「まさか、軽い気持ちでわたしを呼んだのではありますまい?」
「そ、それは……」谷山先生は言葉を濁す。「そんな大変な事とは思わずに……」
「何だよ! 見栄でも張りたかったのかよう!」アイが激怒する。「会長を、『百合恵会』を甘く見ていやがったんだな!」
「谷山先生はのぶが危なかったのを見ていなかったですよね?」朱音も怒っている。「だから、そんな気楽な事が言えるんです!」
「そうだ!」アイが谷山先生を見ながら、にやりと笑う。「谷山先生に楯になってもらえば良いじゃん! 自分が霊媒師を呼んだんだから、それくらいの責任は持って当然なんじゃねぇの?」
「そ、そんなぁ……」
谷山先生は絶句し、助けを求めるように坂本教頭を見る。坂本教頭は谷山先生の視線を避ける。次いで谷山先生は片岡を見る。
「谷山さん」片岡は谷山先生に優しく微笑む。「あなたには感謝していますよ。さとみさんと巡り合わせてくれましたからね」
「あら、そう言って頂けるとぉ……」
谷山先生はほっとしたようだ。アイはうんざりした顔で谷山先生を見ている。松原先生は苦笑している。朱音はまだ怒った顔をしている。
さとみは緩んだ百合恵の腕から離れ、まだ腕組みをしているしのぶを見る。こんな状況に気がついていないのか、しのぶは目を閉じて考え込んでいるようだった。
「あの…… しのぶちゃん……」さとみがしのぶに声をかける。「もう、大丈夫よ。みんなに守ってもらえているから……」
「あっ! そうだ!」しのぶは突然大きな声を出し、真ん丸に目を見開いて、さとみを見る。「会長! 良い手を思いつきました!」
「え? 本当?」
「はい!」しのぶは自信満々に答える。「会長は霊体を抜け出させる事が出来るんですよね?」
「そうだけど……」
「会長の霊体って強いじゃないですか。だから、霊体で影と向かい合うんです」
「でも、影の姿は見えなかったわ……」
「有能な霊能力者が二人もいたら、影だって隠れきれませんよ。必ず姿を見せます。ポルターガイストの大元ですから、そいつさえ押さえちゃえば、大丈夫です」
「でも、それだと片岡さんが危険なんじゃないかしら……?」
「わたしの事なら心配ご無用」片岡が笑みながら言う。「それに、その影とやらが現われれば、さとみさんの頼もしいお仲間も助けてくれるでしょう」
片岡は言うと豆蔵たちの居る方を見る。片岡には見えているようだ。さとみも豆蔵たちを見る。豆蔵は懐から石礫を出し、みつは刀の鯉口を切り、冨美代は薙刀を上段に構え、虎之助は素早い蹴りを何度か繰り出し、もう一人(さとみは竜二の名前が出て来ない)はうんうんとうなずいている。皆、いつも以上に気合が入っているようだ。
「ドアは開け放しにしておこうかね」坂本教頭が言う。「もしもの時は素早く脱出するんだ」
「ですが、良くある事としてですが……」片岡が平然とした顔で言う。「ドアが勝手に閉まって、外からも内からも開けられないなどと言う事がね、良くあるのです」
「そ、それは……」坂本教頭は言葉に窮する。「そうならない事を願って……」
「そん時は!」アイが言う。「わたしが蹴破ってやるよ! 楽しいじゃん! 堂々と校長室のドアをぶち壊せるなんてさ!」
「あら、アイちゃん」百合恵が笑む。「一人じゃ大変よ。ここは二人でやらないと」
「姐さん……」アイはつぶやくと、百合恵にからだを直角に曲げて頭を下げる。「ありがとうございますぅぅぅ! 助かりますぅぅぅ!」
何となく段取りは決まった。
つづく
作者呟き:今日からこんなのを入れてみます。朝は五時前くらいから起き出して、散歩もせず、PCを立ち上げ、ペチペチと下書きを打ったり、他の方の作品を読んだりしております。呑気な隠居爺ぃでございます。
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