「では、行きますか」
片岡は言うとさとみを見る。
「はい、頑張ります」
さとみは右手を顔の近くで握って片岡を見る。
「では、開けますよ……」
坂本教頭は言うと喉をごくりと鳴らし、ドアを開ける。
「これは……」開いたドアから室内を見た片岡は険しい表情になる。「これはかなり危険ですな……」
「やっぱり、そうですか」さとみは片岡を見る。「わたしみたいなのが言うのも変ですけど、無理はしないでください」
「ははは、さとみさんは優しいですね」片岡は優しく笑う。「大丈夫ですよ。わたしの事より、ご自身をしっかりと守りなさい」
「でも……」
「ここにいる者は、強力です。気を抜くような事があったら、やられますよ」片岡は真顔になる。「さあ、気を強く!」
片岡が先になって校長室へと入って行った。さとみが後に続く。それに豆蔵たちが続く。さとみは振り返る。豆蔵がどんと胸を叩いてうなずいて見せた。
「はい!」
さとみは片岡に力強く答えた。
坂本教頭はドアノブを握ったままだ。ドアは室内側に開く。坂本教頭は少し室内に入り込んでいる形で、緊張と恐怖から額を汗が流れている。谷山先生は坂本教徒の隣に立って、自ら取り出したハンカチで、坂本教徒の汗を拭っている。
朱音もしのぶは開いているドアに近づき室内を覗いている。その後ろの立つアイは心配そうな顔でさとみを見ている。何かあったら飛び込んでいくつもりでいる。ドアの向かいの壁に立つ松原先生と並んでいた百合恵はそっとアイの肩に手を置く。振り返るアイに百合恵はうなずいて見せる。
「アイちゃん、いざとなったらわたしも行くわ」
「……姐さん……」
「でも、今はまだダメよ」
「はい……」
アイは言うと、再び心配そうな顔でさとみを見た。
「うわああっ!」
突然、坂本教頭が叫ぶ。坂本教頭は閉まろうとしているドアに押されている。踏ん張っているが、じりじりと押されている。
「教頭先生ぃ!」
谷山先生も叫び、坂本教頭の背を押す。松原先生も駆け寄り、谷山先生の背を押す。その背を百合恵が、さらに百合恵の背をアイが押す。しかし、ドアの閉じる力は強かった。勢い良く閉じたドアに弾き飛ばされた。坂本教頭と谷山先生は廊下に座り込んでしまった。
「教頭、谷山先生、大丈夫ですか?」松原先生が二人に言う。「やっぱりドアを閉めにかかったんですねぇ」
「もの凄い力でドアを押されて……」坂本教頭は呆然としている。「踏ん張り切れなかったのだ……」
「分かりますわ、教頭先生……」百合恵が座り込んでいる坂本教頭の前にしゃがむ。坂本教頭の視線が百合恵の胸元を捕らえる。谷山先生がむっとした顔をする。「相手は強力なんですわ。わたしたちでは対応できませんわ」
「姐さん……」アイが泣き出しそうな顔で言う。「会長、無事なんでしょうか……」
「そうねぇ……」百合恵は立ち上がり閉じたドアに耳をつける。それから笑顔をアイに向ける。「……まだ音がしていないから、物は飛び交ってはいなさそうね」
「じゃあ、音がし出したら……」アイがドアを睨みつけ、右拳を繰り出す。風切音が鋭い。「……姐さんもお願いできますか?」
「もちろんよ」百合恵は笑むと、左脚を蹴り出した。こちらも風切音が鋭い。真っ直ぐに伸びた程良い肉付きの長い脚に坂本教頭が見惚れたように目を細める。谷山先生がむっとした顔をする。「二人なら、こんなドアは楽勝ね」
「きゃっ!」
閉じられたドアを見たさとみは短く悲鳴を上げた。豆蔵たちも身構える。
「さとみさん、落ち着いて」片岡は穏やかな声で言う。その声で、さとみは落ち着けた。「そうそう、相手の邪気に呑まれてはいけませんよ」
「はい、ありがとうございます……」さとみは目を閉じて深呼吸と両肩の上げ下げを繰り返す。しばらくして目を開ける。「……はい、落ち着きました。大丈夫です」
「それは良かった……」
と、ことりと何かが動いた音がした。さとみは音の方を見た。
大きなトロフィーが、覆い被さっていた楯や額の中から浮き上がって来た。
「始まりましたね……」
片岡は静かに言うと、右手の平を浮き上がったトロフィーに向かって拡げた。浮き上がったトロフィーの先端が片岡に向いた。
「片岡さん……」
さとみは心配そうに言う。片岡はさとみに微笑んで見せた。と、その隙をついて、トロフィーが片岡目がけて投げつけられたように飛んで来た。豆蔵は咄嗟に石礫を放ったが、トロフィーを通り抜けてしまった。
つづく
作者呟き:故平井和正先生の「アダルトウルフガイ」シリーズと言う「伝奇小説(で良いのかな?)」があります。オカルト好きだったんで、最初は狼男の話だと思って読んだら、18禁的な色っぽい要素満載のお話で、もちろん貪るように読みました。……何と、通っていた高校の図書室に有ったんですね。今思うと、進んでいた学校と言うか、な~にを考えていた学校なのかと言うか……
片岡は言うとさとみを見る。
「はい、頑張ります」
さとみは右手を顔の近くで握って片岡を見る。
「では、開けますよ……」
坂本教頭は言うと喉をごくりと鳴らし、ドアを開ける。
「これは……」開いたドアから室内を見た片岡は険しい表情になる。「これはかなり危険ですな……」
「やっぱり、そうですか」さとみは片岡を見る。「わたしみたいなのが言うのも変ですけど、無理はしないでください」
「ははは、さとみさんは優しいですね」片岡は優しく笑う。「大丈夫ですよ。わたしの事より、ご自身をしっかりと守りなさい」
「でも……」
「ここにいる者は、強力です。気を抜くような事があったら、やられますよ」片岡は真顔になる。「さあ、気を強く!」
片岡が先になって校長室へと入って行った。さとみが後に続く。それに豆蔵たちが続く。さとみは振り返る。豆蔵がどんと胸を叩いてうなずいて見せた。
「はい!」
さとみは片岡に力強く答えた。
坂本教頭はドアノブを握ったままだ。ドアは室内側に開く。坂本教頭は少し室内に入り込んでいる形で、緊張と恐怖から額を汗が流れている。谷山先生は坂本教徒の隣に立って、自ら取り出したハンカチで、坂本教徒の汗を拭っている。
朱音もしのぶは開いているドアに近づき室内を覗いている。その後ろの立つアイは心配そうな顔でさとみを見ている。何かあったら飛び込んでいくつもりでいる。ドアの向かいの壁に立つ松原先生と並んでいた百合恵はそっとアイの肩に手を置く。振り返るアイに百合恵はうなずいて見せる。
「アイちゃん、いざとなったらわたしも行くわ」
「……姐さん……」
「でも、今はまだダメよ」
「はい……」
アイは言うと、再び心配そうな顔でさとみを見た。
「うわああっ!」
突然、坂本教頭が叫ぶ。坂本教頭は閉まろうとしているドアに押されている。踏ん張っているが、じりじりと押されている。
「教頭先生ぃ!」
谷山先生も叫び、坂本教頭の背を押す。松原先生も駆け寄り、谷山先生の背を押す。その背を百合恵が、さらに百合恵の背をアイが押す。しかし、ドアの閉じる力は強かった。勢い良く閉じたドアに弾き飛ばされた。坂本教頭と谷山先生は廊下に座り込んでしまった。
「教頭、谷山先生、大丈夫ですか?」松原先生が二人に言う。「やっぱりドアを閉めにかかったんですねぇ」
「もの凄い力でドアを押されて……」坂本教頭は呆然としている。「踏ん張り切れなかったのだ……」
「分かりますわ、教頭先生……」百合恵が座り込んでいる坂本教頭の前にしゃがむ。坂本教頭の視線が百合恵の胸元を捕らえる。谷山先生がむっとした顔をする。「相手は強力なんですわ。わたしたちでは対応できませんわ」
「姐さん……」アイが泣き出しそうな顔で言う。「会長、無事なんでしょうか……」
「そうねぇ……」百合恵は立ち上がり閉じたドアに耳をつける。それから笑顔をアイに向ける。「……まだ音がしていないから、物は飛び交ってはいなさそうね」
「じゃあ、音がし出したら……」アイがドアを睨みつけ、右拳を繰り出す。風切音が鋭い。「……姐さんもお願いできますか?」
「もちろんよ」百合恵は笑むと、左脚を蹴り出した。こちらも風切音が鋭い。真っ直ぐに伸びた程良い肉付きの長い脚に坂本教頭が見惚れたように目を細める。谷山先生がむっとした顔をする。「二人なら、こんなドアは楽勝ね」
「きゃっ!」
閉じられたドアを見たさとみは短く悲鳴を上げた。豆蔵たちも身構える。
「さとみさん、落ち着いて」片岡は穏やかな声で言う。その声で、さとみは落ち着けた。「そうそう、相手の邪気に呑まれてはいけませんよ」
「はい、ありがとうございます……」さとみは目を閉じて深呼吸と両肩の上げ下げを繰り返す。しばらくして目を開ける。「……はい、落ち着きました。大丈夫です」
「それは良かった……」
と、ことりと何かが動いた音がした。さとみは音の方を見た。
大きなトロフィーが、覆い被さっていた楯や額の中から浮き上がって来た。
「始まりましたね……」
片岡は静かに言うと、右手の平を浮き上がったトロフィーに向かって拡げた。浮き上がったトロフィーの先端が片岡に向いた。
「片岡さん……」
さとみは心配そうに言う。片岡はさとみに微笑んで見せた。と、その隙をついて、トロフィーが片岡目がけて投げつけられたように飛んで来た。豆蔵は咄嗟に石礫を放ったが、トロフィーを通り抜けてしまった。
つづく
作者呟き:故平井和正先生の「アダルトウルフガイ」シリーズと言う「伝奇小説(で良いのかな?)」があります。オカルト好きだったんで、最初は狼男の話だと思って読んだら、18禁的な色っぽい要素満載のお話で、もちろん貪るように読みました。……何と、通っていた高校の図書室に有ったんですね。今思うと、進んでいた学校と言うか、な~にを考えていた学校なのかと言うか……
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