「いよう、さとみっちゃ~ん!」
下校の時間、にまにましながら、てこてこと足速やに歩いてくるさとみに、大きく手を振ってみせる竜二だった。
しかし、さとみはにまにましたまま竜二の横を通り過ぎて行く。
「おいおい、さとみちゃん!」竜二があわてて言う。「声は聞こえなくても見えているだろう? おい、さとみちゃんってば!」
さとみは何の反応も返すことなく行ってしまった。
「……さとみちゃん……」
竜二はぽつんとその場に立ち尽くしていた。
通りすがりの霊たちが不思議そうな顔をして竜二を見ている。
しばらくして竜二は泣き出した。
母と子供の霊が横を通り過ぎる際、子供が「あのおにいちゃん泣いてるよ」と言うと、母親は大あわてで子供の手を引きながら「見るんじゃありません!」と叱って駆けるように離れて行った。
「どうしなすった、竜二さん」
おいおい泣いている竜二に、背後から声をかけたのは豆蔵だった。持ち前の勘で、この泣き方は只事じゃないと踏んだようだ。その証拠に、豆蔵の目はらんらんと輝いている。
「ああ、豆蔵さん……」竜二はぐしょぐしょになった顔で、豆蔵に振り返った。「実はさ……」
竜二は言いかけて、また泣きはじめた。豆蔵は力づけるように竜二の肩を叩く。
「いつもの明るい竜二さんがどうしなすった?」豆蔵は心配そうに言う。しかし、目は興味津々の光を宿し続けている。「話してくれりゃ、力になれるかもですぜ」
「……豆蔵さん……」なんとか泣き止んで、鼻をすんすんさせながら竜二は続けた。「実は、さとみちゃんが…… さとみちゃんがオレを無視して行っちまったんだよお……」
言い終わると、竜二はまた泣き出した。
「やれやれ、そんなこってすかい……」豆蔵はがっかりしていた。「あっしの勘も鈍ったもんだ…… もっと、すげぇことだと思ったんだが……」
「え? 何だって?」泣きじゃくりながら竜二は言う。「そんなこったの、すげぇことだのって、何のことだよう!」
「いや、こっちのこってすよ……」豆蔵は気を取り直して続けた。「でも考えてみなせぇよ。嬢様に知らん顔されるのは、いつものことじゃありやせんか」
「そうなんだけど……」
「なら、気にすることもねぇでしょう」
「でも、いつもの知らん顔じゃなかったんだよ……」
「……って言いやすと?」
「いつもなら、見えていて気づかないフリをしているんだよ」
「そうなんですかい」
「そうさ! 知らん顔され続けているオレが言うんだから、間違いないよ」
「それが違っていると……」
「そうなんだ。オレのことが、全く見えていないみたいなんだ!」
「全く見えていない、ですか……」豆蔵はため息をついた。「そりゃ、竜二さんの考え過ぎですぜ」
「いや、そうじゃない!」竜二は決然として言った。「知らん顔され続けのプロが言っているんだぜ!」
「妙な所に自信をお持ちのようで……」豆蔵は苦笑した。「ですが、きっと思い過ごしですよ」
「そこまで言うんなら、豆蔵さんも試してみなよ」竜二がややケンカ腰になった。「あの様子は、絶対に、いつものさとみちゃんじゃない!」
「わかりやした、わかりやしたよ」豆蔵は面倒臭そうに言った。「じゃあ、あっしも試してみやしょう」
「そうだよ、そうすればわかるから!」
「へいへい…… やれやれだぜ……」
二人はすっと消え、さとみの帰り道を先回りした。
つづく
下校の時間、にまにましながら、てこてこと足速やに歩いてくるさとみに、大きく手を振ってみせる竜二だった。
しかし、さとみはにまにましたまま竜二の横を通り過ぎて行く。
「おいおい、さとみちゃん!」竜二があわてて言う。「声は聞こえなくても見えているだろう? おい、さとみちゃんってば!」
さとみは何の反応も返すことなく行ってしまった。
「……さとみちゃん……」
竜二はぽつんとその場に立ち尽くしていた。
通りすがりの霊たちが不思議そうな顔をして竜二を見ている。
しばらくして竜二は泣き出した。
母と子供の霊が横を通り過ぎる際、子供が「あのおにいちゃん泣いてるよ」と言うと、母親は大あわてで子供の手を引きながら「見るんじゃありません!」と叱って駆けるように離れて行った。
「どうしなすった、竜二さん」
おいおい泣いている竜二に、背後から声をかけたのは豆蔵だった。持ち前の勘で、この泣き方は只事じゃないと踏んだようだ。その証拠に、豆蔵の目はらんらんと輝いている。
「ああ、豆蔵さん……」竜二はぐしょぐしょになった顔で、豆蔵に振り返った。「実はさ……」
竜二は言いかけて、また泣きはじめた。豆蔵は力づけるように竜二の肩を叩く。
「いつもの明るい竜二さんがどうしなすった?」豆蔵は心配そうに言う。しかし、目は興味津々の光を宿し続けている。「話してくれりゃ、力になれるかもですぜ」
「……豆蔵さん……」なんとか泣き止んで、鼻をすんすんさせながら竜二は続けた。「実は、さとみちゃんが…… さとみちゃんがオレを無視して行っちまったんだよお……」
言い終わると、竜二はまた泣き出した。
「やれやれ、そんなこってすかい……」豆蔵はがっかりしていた。「あっしの勘も鈍ったもんだ…… もっと、すげぇことだと思ったんだが……」
「え? 何だって?」泣きじゃくりながら竜二は言う。「そんなこったの、すげぇことだのって、何のことだよう!」
「いや、こっちのこってすよ……」豆蔵は気を取り直して続けた。「でも考えてみなせぇよ。嬢様に知らん顔されるのは、いつものことじゃありやせんか」
「そうなんだけど……」
「なら、気にすることもねぇでしょう」
「でも、いつもの知らん顔じゃなかったんだよ……」
「……って言いやすと?」
「いつもなら、見えていて気づかないフリをしているんだよ」
「そうなんですかい」
「そうさ! 知らん顔され続けているオレが言うんだから、間違いないよ」
「それが違っていると……」
「そうなんだ。オレのことが、全く見えていないみたいなんだ!」
「全く見えていない、ですか……」豆蔵はため息をついた。「そりゃ、竜二さんの考え過ぎですぜ」
「いや、そうじゃない!」竜二は決然として言った。「知らん顔され続けのプロが言っているんだぜ!」
「妙な所に自信をお持ちのようで……」豆蔵は苦笑した。「ですが、きっと思い過ごしですよ」
「そこまで言うんなら、豆蔵さんも試してみなよ」竜二がややケンカ腰になった。「あの様子は、絶対に、いつものさとみちゃんじゃない!」
「わかりやした、わかりやしたよ」豆蔵は面倒臭そうに言った。「じゃあ、あっしも試してみやしょう」
「そうだよ、そうすればわかるから!」
「へいへい…… やれやれだぜ……」
二人はすっと消え、さとみの帰り道を先回りした。
つづく
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