花は不意に飛び上がった。・・・え? コーイチは驚いた。目を何度もぱちくりさせてみた。花があった所は小さいが地面が見えている。・・・飛び上がったのは見間違いかもしれないが、消えたのは確かだ。でも、花にそんな事が出来るわけがないよなあ。花はどこへ行った・・・
「ちょっと! どこ見てるのよ!」背後から声がする。「それと、ここがどう言う所か、すぐに忘れちゃうのね、お馬鹿さんね!」
コーイチが振り返ると、目の前に、黄色い花が長い根を二本垂らし、ふわふわと浮いていた。右の葉を前に伸ばし、コーイチの鼻先をつんつんと突つく。尖った葉先がちくちくする。顔をそむけるとそちら側に回り込んで、つんつんを繰り返す。
「いい? ここは何でもありの世界なのよ。しっかりしてよ!」
「・・・あっ、はい・・・」・・・花に叱られるなんて、何だかなあ・・・「そうだった。ここはそう言う世界だったよね」
「分かったんなら、行くわよ」
「は、はい!」
花はくるりと向きを変えると、ふわふわと動き出した。・・・テレビで観た事のある、海中を漂い動くクラゲみたいだな。あんな感じでどこへ行くのか分からないって様子だった。コーイチの口元が思わずゆるんだ。
「わっ、わっ、わっ!」ゆるんだコーイチの口元が今度は大きく開いた。目の前の花がクラゲに変わったのだ。「ク、クラゲ!」
「今私を見て、こんなのを浮かべたでしょう?」クラゲが振り返った。言いながら、ゆっくりと元の花の姿に戻る。「つまらない事を考えないでよね。・・・あなたが何を考えているのか、その気になれば分かるのよ」
「はい、すみません・・・」コーイチは言った。・・・これが人間だったら、絶対苦手な女の人になっているだろうなあ。「以後、気をつけます・・・」
花がすいっと顔の前に近寄ってきた。また、鼻先をつんつんと突つく。
「そんなしおらしい事を言いながら、頭に浮かんだのは、きつい感じの女の人のようね。お望みなのかしら?」
「いや、そんな事無いです!」コーイチは大あわてで言った。「さ、とにかく行きましょう! いや、連れて行ってください・・・」
花はふわりと浮き上がると、コーイチの右肩に乗った。二本の根を前に投げ出し、両方の葉を肩に置いて、座っているような格好になる。
「さ、行くわよ。まずは真っ直ぐ進んで、道に出る事ね」花は右の葉を正面に向けて突き出した。しかしコーイチは動かない。「・・・どうしたのよ?」
花は、立ち止まったままのコーイチの顔を、茎を曲げて覗き込む。
「いや、どうして肩になんか乗ったのかと思ってさ」
「お馬鹿さんねぇ・・・」花は呆れたような声を出す。「この方が楽だからじゃないの」
花はくすくすと笑った。コーイチは溜め息をついた。
「さ、ぐずぐずしていると、助けられなくなるかもよぉ・・・」
コーイチの脳裏に「首をちょん切っておしまい!」と言うセリフがこだました。と同時に、大地を裂いて巨大な金色に輝くゴシック体の「先輩」の二文字がぐぐぐぐっと迫り出して来た。
「よし、行こう!」
コーイチは決然とした口調で言うと走り出した。その勢いに花は振り落とされてしまった。
「ちょっと待ってよお!」
花はふわふわしながら追いかけた。
つづく
いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ
(十三日間連続二十公演、ラストスパートに入ります。無事乗り切って欲しいですね)
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「ちょっと! どこ見てるのよ!」背後から声がする。「それと、ここがどう言う所か、すぐに忘れちゃうのね、お馬鹿さんね!」
コーイチが振り返ると、目の前に、黄色い花が長い根を二本垂らし、ふわふわと浮いていた。右の葉を前に伸ばし、コーイチの鼻先をつんつんと突つく。尖った葉先がちくちくする。顔をそむけるとそちら側に回り込んで、つんつんを繰り返す。
「いい? ここは何でもありの世界なのよ。しっかりしてよ!」
「・・・あっ、はい・・・」・・・花に叱られるなんて、何だかなあ・・・「そうだった。ここはそう言う世界だったよね」
「分かったんなら、行くわよ」
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花はくるりと向きを変えると、ふわふわと動き出した。・・・テレビで観た事のある、海中を漂い動くクラゲみたいだな。あんな感じでどこへ行くのか分からないって様子だった。コーイチの口元が思わずゆるんだ。
「わっ、わっ、わっ!」ゆるんだコーイチの口元が今度は大きく開いた。目の前の花がクラゲに変わったのだ。「ク、クラゲ!」
「今私を見て、こんなのを浮かべたでしょう?」クラゲが振り返った。言いながら、ゆっくりと元の花の姿に戻る。「つまらない事を考えないでよね。・・・あなたが何を考えているのか、その気になれば分かるのよ」
「はい、すみません・・・」コーイチは言った。・・・これが人間だったら、絶対苦手な女の人になっているだろうなあ。「以後、気をつけます・・・」
花がすいっと顔の前に近寄ってきた。また、鼻先をつんつんと突つく。
「そんなしおらしい事を言いながら、頭に浮かんだのは、きつい感じの女の人のようね。お望みなのかしら?」
「いや、そんな事無いです!」コーイチは大あわてで言った。「さ、とにかく行きましょう! いや、連れて行ってください・・・」
花はふわりと浮き上がると、コーイチの右肩に乗った。二本の根を前に投げ出し、両方の葉を肩に置いて、座っているような格好になる。
「さ、行くわよ。まずは真っ直ぐ進んで、道に出る事ね」花は右の葉を正面に向けて突き出した。しかしコーイチは動かない。「・・・どうしたのよ?」
花は、立ち止まったままのコーイチの顔を、茎を曲げて覗き込む。
「いや、どうして肩になんか乗ったのかと思ってさ」
「お馬鹿さんねぇ・・・」花は呆れたような声を出す。「この方が楽だからじゃないの」
花はくすくすと笑った。コーイチは溜め息をついた。
「さ、ぐずぐずしていると、助けられなくなるかもよぉ・・・」
コーイチの脳裏に「首をちょん切っておしまい!」と言うセリフがこだました。と同時に、大地を裂いて巨大な金色に輝くゴシック体の「先輩」の二文字がぐぐぐぐっと迫り出して来た。
「よし、行こう!」
コーイチは決然とした口調で言うと走り出した。その勢いに花は振り落とされてしまった。
「ちょっと待ってよお!」
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