三人は丘の向こうを目指して歩き出した。
花子と洋子は並んで歩いている。きゃっきゃと笑ったり、なぜか飛び上がったりして楽しそうだ。その後を少し離れて、金袋を抱えたコーイチがとぼとぼと続く。
……作戦なんて言ってるけど、そんなにうまく行くのだろうか? うまく行ったとしても、お見せできない場面ばかり見せつけられるなんて! 二人して一思いにちゃっちゃと片付けてくれればいいのに…… 何か、ものすごく遠回りな、無駄な、時間ばかりかかっているような…… そうか、遊んでいるんだな! それで、いざとなったら、お城の時みたいにバイバイして消える気なんだ。それで、こっちがひいひい言って、どうにもならなくなった時に、しらっと現われて「お馬鹿さんね」を繰り返して、僕を笑いものにする気なんだ。いや、次に現われるという保証はないぞ。……それにしても、芳川さんは同調しすぎだ。最初に会った時はこんな娘だとは思えなかったなあ。こっちの方が素なのかなあ。なんだか生き生きしてるしなあ。ああ、先輩風なんて吹かさなければよかった…… しかも、「旅商人のトラネコ」だぞ。いくら正体を隠すからって、もう少し何とかなったんじゃないかな。いや、確かに僕にはサムライもカンフーもできないんだから、最高の身の安全になるんだろう。でもさ、もう少しいい男にしてほしかったなあ。これじゃ、大昔の漫画の「〇〇ゴジラ」みたいだし……
「コーイチさん!」
花子の声がした。コーイチは顔を上げる。気がつくと丘の上の方まで来ていた。花子はかたわらの森から手招きをしている。コーイチは重い足取りで向かう。
「もっと急いで!」花子は大きな声で言う。「ここから街が一望できるわよ」
「でも、この袋が重くって……」
「根性なしね!」
花子は言うと森に消えた。あわてたコーイチは走り出した。はあはあ言いながら森にたどりつくと、花子が森を少し入ったところで、にやにやしながら待っていた。
「さあ、こっちよ」
コーイチが言い返す前に、すたすたと行ってしまう。ため息をつきながら後を追った。
先の方に洋子がいて、下の方を見ている。
「どう? なかなかのものでしょ?」花子は洋子に声をかける。「わくわくしない?」
「まあ……そうです……ね……」
洋子の返事があいまいだ。コーイチは気になって洋子の隣に並んで下の方を見た。
幅が十数メートルはあるだろう通りが、どんと真ん中を走っていた。その通りに沿って、右側にサムライ絡みの建物が、左側にカンフー絡みの建物がぎっしりと、大小関係なく、無秩序に並んでいた。そして、全体的に茶色くて埃っぽい印象だった。
「なんだか、汚ならしくて、急ごしらえな感じですね」洋子が言う。「しかも、サムライとカンフーが向かい合っていて、変な感じですね……」
「ま、大王に言われて、あわてて創ったんだから、そうなっちゃうわね」花子はくすくす笑う。「でも、ここまで露骨に仲が悪いってアピールしなくても良いのにね」
「それにしても、大きな街だなあ……」コーイチがつぶやいた。「どれだけの人が住んでいるんだろう……」
「作戦通り行なうと、毎日試合をしても数か月はかかるかもね」花子は楽しそうに言って、コーイチに振り返る。「それだけの期間があれば、お見せできない場面にも慣れるんじゃないかしら?」
「そ、そんなぁ……」
「とにかく、うまく行くか行かないかは、コーイチさんの演技にかかっているのよ」花子は嘆いているコーイチの鼻先をつつく。「派手に盛大に盛り上げて、サムライとカンフーを共倒れさせてちょうだい」
「僕が……やるのかい?」
「旅商人トラネコ様の主催の試合なんだから、当然でしょ」
「心配だなあ……」
「コーイチさん、大丈夫です!」洋子が蹴りを繰り出し空を割く。「何かあったら、わたしたちが守ります!」
「いや、僕に演技できるかどうかなんだよ」コーイチはため息をつく。「役者みたいな事した事ないし……」
「子供のころ、学芸会とかでやりませんでした?」
「まあ、やったかな」
「わたしは白雪姫をやりましたけど」
「僕は、ただ歩くだけの通行人Aとか、わあわあ言いながら逃げる群衆の一人とか、ちょい役ばかりだったんだよ……」
「まあ!」花子がコーイチの手を取って楽しそうに言う。「じゃあ、これが初舞台ってわけね! しかも、こんな大舞台だなんて、コーイチさん、ついてるわねえ!」
「あのさ、僕の話、聞いてた?」
「聞いていようが、聞いてなかろうが、やってもらうわよ」
花子がコーイチをぎろっとにらんだ。コーイチはため息をついた。
花子と洋子は並んで歩いている。きゃっきゃと笑ったり、なぜか飛び上がったりして楽しそうだ。その後を少し離れて、金袋を抱えたコーイチがとぼとぼと続く。
……作戦なんて言ってるけど、そんなにうまく行くのだろうか? うまく行ったとしても、お見せできない場面ばかり見せつけられるなんて! 二人して一思いにちゃっちゃと片付けてくれればいいのに…… 何か、ものすごく遠回りな、無駄な、時間ばかりかかっているような…… そうか、遊んでいるんだな! それで、いざとなったら、お城の時みたいにバイバイして消える気なんだ。それで、こっちがひいひい言って、どうにもならなくなった時に、しらっと現われて「お馬鹿さんね」を繰り返して、僕を笑いものにする気なんだ。いや、次に現われるという保証はないぞ。……それにしても、芳川さんは同調しすぎだ。最初に会った時はこんな娘だとは思えなかったなあ。こっちの方が素なのかなあ。なんだか生き生きしてるしなあ。ああ、先輩風なんて吹かさなければよかった…… しかも、「旅商人のトラネコ」だぞ。いくら正体を隠すからって、もう少し何とかなったんじゃないかな。いや、確かに僕にはサムライもカンフーもできないんだから、最高の身の安全になるんだろう。でもさ、もう少しいい男にしてほしかったなあ。これじゃ、大昔の漫画の「〇〇ゴジラ」みたいだし……
「コーイチさん!」
花子の声がした。コーイチは顔を上げる。気がつくと丘の上の方まで来ていた。花子はかたわらの森から手招きをしている。コーイチは重い足取りで向かう。
「もっと急いで!」花子は大きな声で言う。「ここから街が一望できるわよ」
「でも、この袋が重くって……」
「根性なしね!」
花子は言うと森に消えた。あわてたコーイチは走り出した。はあはあ言いながら森にたどりつくと、花子が森を少し入ったところで、にやにやしながら待っていた。
「さあ、こっちよ」
コーイチが言い返す前に、すたすたと行ってしまう。ため息をつきながら後を追った。
先の方に洋子がいて、下の方を見ている。
「どう? なかなかのものでしょ?」花子は洋子に声をかける。「わくわくしない?」
「まあ……そうです……ね……」
洋子の返事があいまいだ。コーイチは気になって洋子の隣に並んで下の方を見た。
幅が十数メートルはあるだろう通りが、どんと真ん中を走っていた。その通りに沿って、右側にサムライ絡みの建物が、左側にカンフー絡みの建物がぎっしりと、大小関係なく、無秩序に並んでいた。そして、全体的に茶色くて埃っぽい印象だった。
「なんだか、汚ならしくて、急ごしらえな感じですね」洋子が言う。「しかも、サムライとカンフーが向かい合っていて、変な感じですね……」
「ま、大王に言われて、あわてて創ったんだから、そうなっちゃうわね」花子はくすくす笑う。「でも、ここまで露骨に仲が悪いってアピールしなくても良いのにね」
「それにしても、大きな街だなあ……」コーイチがつぶやいた。「どれだけの人が住んでいるんだろう……」
「作戦通り行なうと、毎日試合をしても数か月はかかるかもね」花子は楽しそうに言って、コーイチに振り返る。「それだけの期間があれば、お見せできない場面にも慣れるんじゃないかしら?」
「そ、そんなぁ……」
「とにかく、うまく行くか行かないかは、コーイチさんの演技にかかっているのよ」花子は嘆いているコーイチの鼻先をつつく。「派手に盛大に盛り上げて、サムライとカンフーを共倒れさせてちょうだい」
「僕が……やるのかい?」
「旅商人トラネコ様の主催の試合なんだから、当然でしょ」
「心配だなあ……」
「コーイチさん、大丈夫です!」洋子が蹴りを繰り出し空を割く。「何かあったら、わたしたちが守ります!」
「いや、僕に演技できるかどうかなんだよ」コーイチはため息をつく。「役者みたいな事した事ないし……」
「子供のころ、学芸会とかでやりませんでした?」
「まあ、やったかな」
「わたしは白雪姫をやりましたけど」
「僕は、ただ歩くだけの通行人Aとか、わあわあ言いながら逃げる群衆の一人とか、ちょい役ばかりだったんだよ……」
「まあ!」花子がコーイチの手を取って楽しそうに言う。「じゃあ、これが初舞台ってわけね! しかも、こんな大舞台だなんて、コーイチさん、ついてるわねえ!」
「あのさ、僕の話、聞いてた?」
「聞いていようが、聞いてなかろうが、やってもらうわよ」
花子がコーイチをぎろっとにらんだ。コーイチはため息をついた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます