お話

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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 41

2008年11月28日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
 逸子が言い返そうと口を開いた。
「ほうら、やっぱり! あの、ちょっとした乱暴な言い方や仕草は、恋に戸惑う初心な乙女心の表れだったのね!」
 逸子と葉子の後ろから、そう言う声がした。その取り澄ましたような得意げな声に、口を開いたままの逸子と決然とした表情のままの洋子は振り返った。その勢いでコーイチの腕がギギギゴギギグギと鳴った。
 後ろに立っていたのは清水だった。目だけ笑っていない笑顔で洋子を見つめている。
「清水さん・・・!」逸子が驚いた声を出す。「さっき、会場の奥へ進んで行ったのに・・・」
「そんな事はどうでもいいわ・・・」清水はマントの前を跳ね上げた。「それよりもコーイチ君の腕を放しておあげなさい。そのままじゃ、コーイチ君の腕が逆向きになっちゃうかもよぉ。ま、わたしには面白い事だけど、うふふふふ・・・」
 清水に言われ、逸子と洋子はコーイチを見た。腕にしがみついていたつもりが、腕を握り締めてコーイチのからだを引きずり回していた事に気づいた。二人はあわてて、同時に手を放した。急に支えを失ったコーイチは、うつ伏せの形のまま床に落ちた。
「ううううう・・・」コーイチは小さくうめいている。
「あっ、コーイチさん!」
 助け起こそうとしゃがみ込んだ洋子の肩を逸子は押した。バランスを失った洋子は床にしりもちをついた。勝ち誇ったような表情の逸子を、洋子は悔しそうに見上げる。
「わ・た・し・の」逸子は腰に手を当て、洋子を見下ろし、一語一語を強調した。「コーイチさんに触らないで!」
「わたしのって・・・」洋子は逸子をにらみつけたまま立ち上がった。スカートの埃を手の甲で払い落とす仕草をした。「ちょっとお付き合いの時間が長いって言うだけでしょう?」
「何が言いたいの?」
「時間の長さを言うんなら、コーイチさんとわたしは仕事上のパートナーです。一日中一緒なんです。逸子さんの時間なんか、あっと言う間に追い越してしまいます!」
 今度は洋子が勝ち誇り、逸子が悔しそうな顔をした。
「清水さん!」逸子は清水に向き直る。「わたしを会社に入れて下さい! コーイチさんと同じ職場にして下さい!」
「あらあら、まあまあ・・・」清水は楽しそうに、目を輝かせている。「コーイチ君、聞こえているかしら? あなた、モテモテよ」
「あのう・・・」コーイチはうつ伏せのままで声を出した。「なんだか、とっても恥ずかしくて、顔が上げられないんですが・・・」
「まあ、純情ねぇ」清水はくすくすと笑った。それから、逸子と洋子に顔を向けた。「ねぇ、あなたたちもそう思うでしょう?」
「ええ、まあ・・・」逸子が頬を染めて答えた。「そこが、コーイチさんの良い所なんですけど・・・」
「わたしも、そう、思います」洋子もためらいがちに言った。「こんな気持ちになったのは初めてなんです。しかも、初対面の人なのに・・・ なんだか、とっても純粋で、とっても安心感があって・・・」
「そうなのよねぇ・・・」逸子はしみじみとした口調で言った。「それに、なんだか守ってあげたくなる様な・・・」
「でも、ダメ出ししたくなる様な・・・」
 逸子は洋子を見た。洋子も逸子を見た。
 二人は同時に笑顔になった。
「芳川さん、あなたとは気が合いそうね。気に入ったわ。・・・さっきの闘いはゴメンね」
 逸子は右手を伸ばし、洋子の左の二の腕に手をかけた。格闘術を行なう者同士の和解と信頼を示す意味がある仕草だった。
「洋子と呼んで下さい。わたしの方こそ、すみませんでした」洋子も逸子の左の二の腕に手をかけた。「これからもよろしくお願いします、逸子さん」
「こちらこそ、よろしくね、洋子ちゃん」逸子は笑顔で言った。それから不意に真顔になって続けた。「・・・でも、コーイチさんは、わたしのものよ」
「さあ、それはどうでしょうか」洋子は笑顔で答え、すぐ真顔になって加えた。「これからが、本当の勝負ですね」

       つづく

いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ

(来年の公演は二、三月! チケット取れるといいですね! 取れたら教えて下さいね!)



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