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お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 「秘密のノート」6

2022年08月24日 | コーイチ物語 1 1) 黒皮表紙のノート 
 見てはいけないっ! 
 コーイチはさっきまで巡らせていた考えが急に現実のものとなったように思え、座ったままで後に飛び退き、背中を壁に打ちつけながら、両手で顔を覆い隠した。見てしまったら大魔王コレストウトスの下僕だ! 覗いてしまったら悪の組織ジャークの戦闘員だ! いや、もっと良くない事が起こるかもしれない…… コーイチは両目もしっかりと閉じた。
 どれくらい時間だ経ったのだろうか。気がつくと、目覚まし時計の秒針が刻むコツコツと言う音が部屋中に響いている。コーイチは右目を開けた。目の前に自分の右手中指の付け根があった。左目も開けた。指が目の前にずらりと並んでいた。
 とりあえず自分は自分のままのようだ。コーイチはほっとし、少しずつ指を開き始めた。指の間から表紙が開いたままのノートが見えた。黒い見返しの隣には薄いクリーム色が並んでいる。クリーム色の上には何も書かれてはいなかった。
 ……よかった、何も書かれてはいない、まっさらなノートだ。コーイチは安心して両手を下ろし、ノートのところまでにじり寄った。
 ノートを真上から見下ろす。罫線は入っていなかった。遠目には滑らかそうな紙質に見えたが、近くで見ると少しごわごわしている。
 あまり実用的じゃないな。やはり何か仕掛けでもあるのかな。まさか火であぶると呪文や設計図のようなヘンなものが浮かび上がってくるなんて事はないだろうな。やはり見るんじゃなかった。もうおしまいだ、あれもこれもやっておけば良かった。「後悔役に立たず」とは言ったもんだ……
 コーイチの顔が青ざめ始めた。ふと見返しに目をやった。
 見返しは表紙と同じ黒い皮で出来ている。しかし、その真ん中あたりに、細くて小さな金色の文字が、妙な書体で綴られていたのに気がついたからだ。

〝みだりに人の名を記す事なかれ〟

 なんだ、こりゃ? 
 コーイチは、再び腕を組んで考え込んでしまった。

       つづく


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