お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 「秘密のノート」 85

2022年09月18日 | コーイチ物語 1 10) パーティ会場にて 京子と逸子  
 滑川に見る見る変化が起こった。
 首から上はなんともないが、胸が左右とも大きくふくらみ、腰回りが丸みをおび、スラックスの上からでも分かるほど太腿がむっちりとしてきた。
「あらいやだわ、あらいやだわ」
 滑川は言いながら変化してくるからだのあちこちを恥ずかしそうに触っていた。
「ナメちゃん、どうしたの?」
 もそもそしている滑川の背後から逸子が声をかけた。
「ダメだってば!」
 コーイチが必死の顔で京子の両肩をつかんだ。もしこんなことが見つかったら。ああ、新聞や雑誌の見出しが……
 京子は間近あるコーイチの顔を見て、いたずらのばれた子供のようにぺろりと舌を出した。
「あらいやだわ、あらいやだわ」
 また滑川が言い出した。コーイチはあわてて滑川を見た。滑川は元のゴツイ男のからだに戻っていた。呆然とした顔で立ち尽くす滑川を見て、とりあえずコーイチは安堵の溜息をついた。それから京子を見た。京子は知らん顔で別の所を見ていた。
「ナメちゃん、どうしたのよ!」
 逸子が滑川の腕をつかんで振り返らせた。滑川は表情を硬くしたまま、ぽつりと言った。
「わたし…… 身も心も…… 女になったのよ」
 逸子はいぶかしげな顔で、滑川の巨体をじろじろと見上げ見下ろした。
「どこも変わってないじゃない、気のせいよ」
「でも、でも……」滑川ははっと気付いたように京子の方へ振り返った。「そうよ、この娘が私の前に立って、そしたらからだが変わっていったみたいになって……」
「あなた、何をしたのよ!」
 逸子は、おろおろしている滑川を押しのけて一歩前に出て、コーイチ越しに京子に殺気を帯びた声で言った。コーイチは逸子の方へ顔を向けた。逸子がこわい顔をして京子を睨んでいる。
「別に、何もしてないわよ。あなたが言ったように、気のせいじゃないの?」
 京子も殺気を帯びた声でコーイチ越しに返事を返す。コーイチが京子を見ると、京子もこわい顔をして逸子を睨んでいた。
「まあ、そう、睨み合わないで…… 仲良く、仲良く…… ねっ」
 コーイチは二人を交互に見ながら、引きつった笑顔で割って入った。
「そうね、コーイチさんがそう言うんなら、そうするわ」
 逸子はコーイチに、思わずコーイチが照れてしまいそうなほどの笑顔を向けた。
「あーら、あらあらあら、ずいぶんとカワイ子ぶってるわね。わたしだって、コーイチ君が言うんなら、やめるわよ」
 確かに、滑川さんへの魔法はやめてくれたけど…… 出来れば最初からしないで欲しいなぁ…… コーイチは溜息をついた。
 滑川がずいっと前へ出て来た。コーイチ以上に大きな溜息をついて言った。
「そうね、たぶん、わたしの願望が強すぎて、からだが変わった気になっちゃったのね」
 滑川は落ち着きを取り戻したようだ。しかし、どことなく残念そうに見えた。コーイチは妙に気の毒に思えた。
「ところで、逸子ちゃん、この娘だあれ?」
 滑川が京子を指差した。京子はコーイチの右腕にしがみついて、逸子にあてつけがましく言った。
「わたし、コーイチ君の、幼なじみの、京子、よ!」
「そうなの、コーイチ君の幼なじみの京子ちゃんなの」
「そうよ、コーイチ君の、幼なじみの、京子、よ!」
 勝ち誇ったような京子の態度を見た逸子は、コーイチに駆け寄り、左腕にしがみついた。
「わたしもよ!」
 京子は逸子を睨む。
「何言ってんのよ!」
 逸子は京子を睨み返す。
「あなたは単なるコーイチさんの幼なじみでしょ」そしてコーイチに先ほどの笑顔を向ける。「わたしはこれからおなじみになるの。あなたよりもずーっとね!」
 これがいわゆる「両天秤にバナナ」ってやつなんだろうなぁ…… コーイチは満更でもない気分だった。しかし、コーイチ越しに睨み合う二人は気づかないうちに徐々にコーイチの腕に力を加えて行った。痛さにコーイチは顔をゆがめた。魔女と免許皆伝だもんなぁ…… ちょっと気分が沈んだコーイチだった。
「まあ、これは素敵はショットじゃない!」
 滑川はぶら下げているカメラの一台を構えると、すばやく四、五枚撮った。
「そうだわ、またピンと来ちゃったわ。ねぇ、コーイチ君の幼なじみの京子ちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど……」
 コーイチはなんとなくイヤな予感がした。

       つづく


コメントを投稿