「え、これ何の音?」
コーイチは不安そうな顔で周りを見た。京子は急に不機嫌な顔になった。
「いいのよ、放っておきましょ! さ、パーティ、パーティ」
しかし、歪んだ音はなおも続いた。コーイチはさらに不安そうな顔をした。血の気が引いて青ざめている。
「よかぁないよ。とても気になる。なんか命が吸い取られそうだ」
京子は今度は意地悪そうな笑顔を浮かべてコーイチを見つめた。
「んふふふふ、分かっちゃったんだ。そうよ。これは、わたしたちの世界へ全ての命を導く鐘の音よ。鳴り終った時が、命が導かれる時なのよ……」
「そ、そんなぁ……」
コーイチは両手で両耳をふさいだ。……それでも聞こえる!
「一体、幾つ鳴るんだ?」
耳をふさいだままコーイチは聞いた。京子はコーイチの手首ををつかんで左右に拡げた。鐘の音が待ってましたとばかりにコーイチの耳に流れ込んで来た。
「何回鳴るかなんて、決まってないわ。一回の時もあれば、百回の時も、いや、それ以上の時も」
コーイチは京子の手を振りほどき、逆に京子の腕をぐっとつかんだ。額から汗が流れ落ちた。心臓が高鳴っていた。
「な、何とかならないのか! ボクはまだ何も食べていないんだぞ!」
「あらあら、何をわけの分からない事を言っているのかしら。……そうか、必死になりすぎて、自分を見失っているのね」
京子は楽しそうに笑った。
「あ、当たり前じゃないか! それに、人の生き死にの場面なのに、少しのん気すぎやしないか!」
「そうね……」
京子は真顔になってコーイチを見つめた。笑顔も可愛いけど、こういう真剣な顔も良いなぁ…… うわあ、のん気なのはどっちだ!
「コーイチ君、もうそろそろ鐘の音が終わるわ……。楽しかったわ。ノートは記念にあげるわ。あなたの事はこれからの長い生涯ずっと忘れないわ。……さようなら」
京子はしんみりとした口調で言い終わると、下を向いた。長い髪が垂れて、顔を隠した。肩が、細かく震えた。
「泣いているのかい? それなら、何とかする方法を考えてくれよ」
コーイチはつかんだ京子の腕を何度も揺すった。京子は揺すられるままになっていた。
「く、くっくっくっく……」
京子の泣く声が聞こえた。涙がポタリとロビーの床に落ちた。
「くっくくくく……」
声は次第に大きくなって行った。
「くわっ、はははははは!」
最後は大爆笑になってしまった。涙を流しながら笑っていたようだ。コーイチはあっけに取られて腕を離した。京子は一歩下がって一方の手でコーイチを指差し、もう一方の手でお腹を押さえていた。
「あ~あ、可笑しい! あ~あ、苦しい! コーイチ君って最高ね!」
京子は息も切れ切れに言った。コーイチは憮然とした顔で京子をにらんだ。
「ひょっとして、今の話は全部ウソなのか!」
「そうよ。ちょっとコーイチ君をからかってみたの。やっぱり面白いわぁ」
「ひどいなぁ……」
こんなひどいからかわれ方って、許されていいものだろうか! コーイチは憤然とした。……でも、文句を言って怒らせてしまったら、魔法で何かに変えられてしまう心配もあるしなぁ。と思いながら、心の奥底では「可愛いから許す」と言う心理状態になっているコーイチだった。
「じゃ、この音は何の音なんだい?」
「これ? これは携帯電話の呼び出し音よ。しかも、イヤなヤツからの電話なの」
京子はまた不機嫌な顔になった。
つづく
コーイチは不安そうな顔で周りを見た。京子は急に不機嫌な顔になった。
「いいのよ、放っておきましょ! さ、パーティ、パーティ」
しかし、歪んだ音はなおも続いた。コーイチはさらに不安そうな顔をした。血の気が引いて青ざめている。
「よかぁないよ。とても気になる。なんか命が吸い取られそうだ」
京子は今度は意地悪そうな笑顔を浮かべてコーイチを見つめた。
「んふふふふ、分かっちゃったんだ。そうよ。これは、わたしたちの世界へ全ての命を導く鐘の音よ。鳴り終った時が、命が導かれる時なのよ……」
「そ、そんなぁ……」
コーイチは両手で両耳をふさいだ。……それでも聞こえる!
「一体、幾つ鳴るんだ?」
耳をふさいだままコーイチは聞いた。京子はコーイチの手首ををつかんで左右に拡げた。鐘の音が待ってましたとばかりにコーイチの耳に流れ込んで来た。
「何回鳴るかなんて、決まってないわ。一回の時もあれば、百回の時も、いや、それ以上の時も」
コーイチは京子の手を振りほどき、逆に京子の腕をぐっとつかんだ。額から汗が流れ落ちた。心臓が高鳴っていた。
「な、何とかならないのか! ボクはまだ何も食べていないんだぞ!」
「あらあら、何をわけの分からない事を言っているのかしら。……そうか、必死になりすぎて、自分を見失っているのね」
京子は楽しそうに笑った。
「あ、当たり前じゃないか! それに、人の生き死にの場面なのに、少しのん気すぎやしないか!」
「そうね……」
京子は真顔になってコーイチを見つめた。笑顔も可愛いけど、こういう真剣な顔も良いなぁ…… うわあ、のん気なのはどっちだ!
「コーイチ君、もうそろそろ鐘の音が終わるわ……。楽しかったわ。ノートは記念にあげるわ。あなたの事はこれからの長い生涯ずっと忘れないわ。……さようなら」
京子はしんみりとした口調で言い終わると、下を向いた。長い髪が垂れて、顔を隠した。肩が、細かく震えた。
「泣いているのかい? それなら、何とかする方法を考えてくれよ」
コーイチはつかんだ京子の腕を何度も揺すった。京子は揺すられるままになっていた。
「く、くっくっくっく……」
京子の泣く声が聞こえた。涙がポタリとロビーの床に落ちた。
「くっくくくく……」
声は次第に大きくなって行った。
「くわっ、はははははは!」
最後は大爆笑になってしまった。涙を流しながら笑っていたようだ。コーイチはあっけに取られて腕を離した。京子は一歩下がって一方の手でコーイチを指差し、もう一方の手でお腹を押さえていた。
「あ~あ、可笑しい! あ~あ、苦しい! コーイチ君って最高ね!」
京子は息も切れ切れに言った。コーイチは憮然とした顔で京子をにらんだ。
「ひょっとして、今の話は全部ウソなのか!」
「そうよ。ちょっとコーイチ君をからかってみたの。やっぱり面白いわぁ」
「ひどいなぁ……」
こんなひどいからかわれ方って、許されていいものだろうか! コーイチは憤然とした。……でも、文句を言って怒らせてしまったら、魔法で何かに変えられてしまう心配もあるしなぁ。と思いながら、心の奥底では「可愛いから許す」と言う心理状態になっているコーイチだった。
「じゃ、この音は何の音なんだい?」
「これ? これは携帯電話の呼び出し音よ。しかも、イヤなヤツからの電話なの」
京子はまた不機嫌な顔になった。
つづく
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