「えっ?」
コーイチは少し考えた。「意地悪魔女」-「意地悪」=「魔女」……
「魔女! 魔女! 魔女! 魔……」
コーイチは叫びながら後退った。なんてこった! ……でも……
「本当に魔女?」
コーイチは恐る恐る聞いた。京子はにっこりしながら頷いた。
「本当に魔女よ」
「だって、だって、魔女って、黒いマントを羽織って、ぼさぼさの長い白髪頭に黒いとんがり帽子を被って、しわしわの顔の真ん中に長い先の曲がった鼻をつけて、かけた歯並びを不気味に見せながら『ケッケッケー』と笑って、柄が曲がったようなホウキにまたがって、夜な夜な空を飛び回って、魔法の薬とか作って、呪文を唱えてとかしてるんだろう?」
京子は呆れた顔でコーイチを見た。
「あのねぇ……」
京子がコーイチの背後から声をかけた。コーイチは振り返り、京子の笑顔を確認すると、硬く目を閉じて天井に顔を向けた。ウソだ! 今さっきボクの目の前にいたのに……
「コーイチ君の言っているのは、お話の中の魔女。そんな魔女なんかいないわよ」
「で、でも魔女なんだろう? 魔法使いなんだろう? 『マホリタ・マホリト・ヤンポロポンポンポン』とか呪文を唱えて何かを出したり、何かに変えたりするんだろう?」
「ちょっと、コーイチ君……」
コーイチは目を閉じ天井に顔を向けたまま、京子の声から遠去かるように後退った。何歩か下がると壁にぶつかった。壁にしては柔らかいと思い、目を開けると、そこに京子が笑顔で立っていた。
「それはアニメの見過ぎ。呪文なんか唱える必要はないわ。頭の中で思えばいいんだもの」
「それじゃあ、呪文封じや呪文返しが出来ないって事じゃないか」
「だから、そんなのは作り話なの」
「じゃあ、深い深い森の奥、迷い道を抜け出た所に建つ、黒い家に住んでいるって言うのも……」
「作り話よ。ほんとうは、このコーイチ君の住んでいる世界と隣り合っている感じ、かな。わたしたちからはコーイチ君達の世界が見えているの。そっちからは全く見えないわ。だから、こっちからたまにちょっかいを出したりして、遊ぶ事ができるのよ」
「と言う事は、ボクは遊ばれているって事なのかい?」
「いいえ、そうじゃないわ。コーイチ君の場合は、別の用事があって姿を見せたのよ」
「ノートの件……」
「そう。実はあのノート、わたしのなの。あの日、こっちの世界で遊ぼうかなと思って姿を現した途端、コーイチ君とぶつかったの。わたしはあわてて戻ったんだけど、持ってたノートを落としちゃったのよ」
「アパートの階段か……」
「そうそう。『いやいやいやいや、まいったなあ』には、思わず吹き出しちゃった」
「そんな事はどうでも良い!」
コーイチがぷいと横を向いて言った。顔が真っ赤になっている。
「そんな事は、どうでも良い!!」
もう一度言った時、廃墟となって悪魔の棲家と化した教会の鐘が鳴り響いたような、歪んだ、思わず背筋が凍りつくような音が、どこからともなく聞こえた。
つづく
コーイチは少し考えた。「意地悪魔女」-「意地悪」=「魔女」……
「魔女! 魔女! 魔女! 魔……」
コーイチは叫びながら後退った。なんてこった! ……でも……
「本当に魔女?」
コーイチは恐る恐る聞いた。京子はにっこりしながら頷いた。
「本当に魔女よ」
「だって、だって、魔女って、黒いマントを羽織って、ぼさぼさの長い白髪頭に黒いとんがり帽子を被って、しわしわの顔の真ん中に長い先の曲がった鼻をつけて、かけた歯並びを不気味に見せながら『ケッケッケー』と笑って、柄が曲がったようなホウキにまたがって、夜な夜な空を飛び回って、魔法の薬とか作って、呪文を唱えてとかしてるんだろう?」
京子は呆れた顔でコーイチを見た。
「あのねぇ……」
京子がコーイチの背後から声をかけた。コーイチは振り返り、京子の笑顔を確認すると、硬く目を閉じて天井に顔を向けた。ウソだ! 今さっきボクの目の前にいたのに……
「コーイチ君の言っているのは、お話の中の魔女。そんな魔女なんかいないわよ」
「で、でも魔女なんだろう? 魔法使いなんだろう? 『マホリタ・マホリト・ヤンポロポンポンポン』とか呪文を唱えて何かを出したり、何かに変えたりするんだろう?」
「ちょっと、コーイチ君……」
コーイチは目を閉じ天井に顔を向けたまま、京子の声から遠去かるように後退った。何歩か下がると壁にぶつかった。壁にしては柔らかいと思い、目を開けると、そこに京子が笑顔で立っていた。
「それはアニメの見過ぎ。呪文なんか唱える必要はないわ。頭の中で思えばいいんだもの」
「それじゃあ、呪文封じや呪文返しが出来ないって事じゃないか」
「だから、そんなのは作り話なの」
「じゃあ、深い深い森の奥、迷い道を抜け出た所に建つ、黒い家に住んでいるって言うのも……」
「作り話よ。ほんとうは、このコーイチ君の住んでいる世界と隣り合っている感じ、かな。わたしたちからはコーイチ君達の世界が見えているの。そっちからは全く見えないわ。だから、こっちからたまにちょっかいを出したりして、遊ぶ事ができるのよ」
「と言う事は、ボクは遊ばれているって事なのかい?」
「いいえ、そうじゃないわ。コーイチ君の場合は、別の用事があって姿を見せたのよ」
「ノートの件……」
「そう。実はあのノート、わたしのなの。あの日、こっちの世界で遊ぼうかなと思って姿を現した途端、コーイチ君とぶつかったの。わたしはあわてて戻ったんだけど、持ってたノートを落としちゃったのよ」
「アパートの階段か……」
「そうそう。『いやいやいやいや、まいったなあ』には、思わず吹き出しちゃった」
「そんな事はどうでも良い!」
コーイチがぷいと横を向いて言った。顔が真っ赤になっている。
「そんな事は、どうでも良い!!」
もう一度言った時、廃墟となって悪魔の棲家と化した教会の鐘が鳴り響いたような、歪んだ、思わず背筋が凍りつくような音が、どこからともなく聞こえた。
つづく
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