コーイチは不思議そうな顔で京子を見た。
「携帯電話って…… 君は魔女なんだろ?」
「そうよ」
「じゃあ、何も電話なんか使わなくても、パッと相手が目の前に現われたり。こっちがパッと相手の所へ行ったりすれば良いじゃないか」
京子は呆れた顔をしてコーイチを見た。それから、ぺチンと大きな音を立ててコーイチの額に手の平を当てた。
「熱は無さそうね……」
コーイチは痛さにうめき、涙目になってしまった。……まだ力加減が分かってないみたいだなぁ。
「いい? 魔力を使うより文明の利器を使う方が、ずっと楽じゃない! そんな事も分かんないの?」
「だって、魔法の方が文明の利器より数倍も便利じゃないか。パッと消えたり現われたり、何かを出したり消したり、変えたり戻したり……」
「そうか、コーイチ君は知らないんだっけ。あのね、魔力は、こっちの人たち風に言えば、個人差があって、結構体力も要る作業なの。楽に出来る人、苦労してやっと出来る人、苦労しても出来ない人。ま、色々ね。だから機械だって使うわけ。それに、便利な物を使うのは、こっちの世界の人たちも同じでしょ?」
「まぁ……ね」
たしかにボクたちも色々と個人差があるもんなぁ。それに、便利だと、出来る事でもやらずに、それを利用しちゃうものなあぁ。おおよそ、人と言うのはそういうものだよなぁ…… コーイチは一人で納得して頷いていた。
京子はそんなコーイチを無視して、どこから出したのか、黒いすべすべした大きな巻貝のようなものをそれぞれの手に持ち、底に当たる部分を片方は耳元へ、もう片方は口元へ近付けた。……これが魔女の世界の携帯電話らしいぞ。めずらし物好きな林谷さんなら大喜びするだろうな。
京子は口元に近付けた方に向かって話し出した。
「もしもし…… やっぱりあなたね。なんの用なのよ! え? ……そんな事はどうでも良いわよ。え、なに? 今忙しいのよ。デート中なの(「え、なに?」コーイチも思わず聞き返した)! ……分かった、分かったわ! ……もう!」
京子は怒りながら手を振った。黒い巻貝はどこかへ消えた。それから、怒ったままの顔でコーイチの方へ振り向いた。
「ちょっと出かけて来るわね。すぐに戻ってくるから、先にパーティで何か食べていてね」
「困った電話なのかい?」
「まあ、ちょっとだけね。でも、本当にイヤなヤツ!」
京子は最後を大きな声で言うと、ボッと消えた。消えた後にうっすらと煙が残っていた。よっぽど腹を立てているんだな、コーイチは煙を見ながら思った。しかし、それよりも、京子の言った「今忙しいのよ、デート中なの!」の言葉の方が気になっていた。「デート中」…… 「デート中」…… 相手が魔女でも、可愛い娘にそんな事を言われると、まんざらでもないコーイチだった。我知らず、にまあっと口元が緩んでしまう。
そうだ、とりあえず会場に入ろう。コーイチはドアノブに手をかけた。今度は内側からの抵抗はなかった。ドアは何の問題もなく開いた。
つづく
「携帯電話って…… 君は魔女なんだろ?」
「そうよ」
「じゃあ、何も電話なんか使わなくても、パッと相手が目の前に現われたり。こっちがパッと相手の所へ行ったりすれば良いじゃないか」
京子は呆れた顔をしてコーイチを見た。それから、ぺチンと大きな音を立ててコーイチの額に手の平を当てた。
「熱は無さそうね……」
コーイチは痛さにうめき、涙目になってしまった。……まだ力加減が分かってないみたいだなぁ。
「いい? 魔力を使うより文明の利器を使う方が、ずっと楽じゃない! そんな事も分かんないの?」
「だって、魔法の方が文明の利器より数倍も便利じゃないか。パッと消えたり現われたり、何かを出したり消したり、変えたり戻したり……」
「そうか、コーイチ君は知らないんだっけ。あのね、魔力は、こっちの人たち風に言えば、個人差があって、結構体力も要る作業なの。楽に出来る人、苦労してやっと出来る人、苦労しても出来ない人。ま、色々ね。だから機械だって使うわけ。それに、便利な物を使うのは、こっちの世界の人たちも同じでしょ?」
「まぁ……ね」
たしかにボクたちも色々と個人差があるもんなぁ。それに、便利だと、出来る事でもやらずに、それを利用しちゃうものなあぁ。おおよそ、人と言うのはそういうものだよなぁ…… コーイチは一人で納得して頷いていた。
京子はそんなコーイチを無視して、どこから出したのか、黒いすべすべした大きな巻貝のようなものをそれぞれの手に持ち、底に当たる部分を片方は耳元へ、もう片方は口元へ近付けた。……これが魔女の世界の携帯電話らしいぞ。めずらし物好きな林谷さんなら大喜びするだろうな。
京子は口元に近付けた方に向かって話し出した。
「もしもし…… やっぱりあなたね。なんの用なのよ! え? ……そんな事はどうでも良いわよ。え、なに? 今忙しいのよ。デート中なの(「え、なに?」コーイチも思わず聞き返した)! ……分かった、分かったわ! ……もう!」
京子は怒りながら手を振った。黒い巻貝はどこかへ消えた。それから、怒ったままの顔でコーイチの方へ振り向いた。
「ちょっと出かけて来るわね。すぐに戻ってくるから、先にパーティで何か食べていてね」
「困った電話なのかい?」
「まあ、ちょっとだけね。でも、本当にイヤなヤツ!」
京子は最後を大きな声で言うと、ボッと消えた。消えた後にうっすらと煙が残っていた。よっぽど腹を立てているんだな、コーイチは煙を見ながら思った。しかし、それよりも、京子の言った「今忙しいのよ、デート中なの!」の言葉の方が気になっていた。「デート中」…… 「デート中」…… 相手が魔女でも、可愛い娘にそんな事を言われると、まんざらでもないコーイチだった。我知らず、にまあっと口元が緩んでしまう。
そうだ、とりあえず会場に入ろう。コーイチはドアノブに手をかけた。今度は内側からの抵抗はなかった。ドアは何の問題もなく開いた。
つづく
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