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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第五章 駈け回る体育館の怪 29

2022年04月06日 | 霊感少女 さとみ 2 第五章 駈け回る体育館の怪
 さとみたちは北校舎に向かう。
 最近長い時間霊体を抜け出させているせいか、霊体でいる時の方がさとみは状態が良い気がしている。つまり、生身でいる時は疲れやすくなった。これではいけないとさとみ自身も思うのだが、こう色々と出来事が続くと、気にしてはいられない。まして、今回は子供たちが絡んでいる。ますます放ってはおけない。
 北校舎の一階に来た。既に妖しい気配が漂っている。
「こりゃあ、あっしが探りに来た時よりも、いやな感じが増してやすぜ……」豆蔵は言うと、右の手の甲で顎の下を拭く仕草をする。緊張しているのだろう。「早いとこ、上へ参ぇりやしょう」
「待って、豆ちゃん」虎之助が言う。「みんなで一斉に行くとすぐに見つかっちゃうわ。そうなったら、子供たちが危ないかもしれない。だから、わたしが様子を見て来るわ」
「いえ、探りならあっしの方が……」
「ふふふ……」虎之助は笑む。「実は、竜二ちゃんが心配なのよ。さとみちゃんが言ったように、考えるより先に動いちゃう人だから…… じゃあ、ちょっと行って、すぐに戻って来るわね」
 虎之助は言うと姿を消した。
「大丈夫かしら……」
 さとみは不安そうな顔を皆に向ける。
「虎之助殿は中々の使い手です。案ずることはありますまい」みつが言う。「それに、虎之助殿は男ですから、大丈夫でしょう」
「左様ですわ」冨美代はうなずく。「返って、相手がうら若い乙女と見誤って油断すると思いますわ」
「そう……」さとみは階段を見上げる。「大丈夫なら良いんだけど……」
「とにかく、少し待ってみやしょう」豆蔵が言うと、にやりと笑う。「ひょっとしたら、虎之助さん、みんなを連れて戻るかもしれやせんぜ」
「それでは、わたくしたちの出番がありませんわ。ねえ、みつ様?」
 冨美代が不満そうな顔をみつに向けた。みつはどう答えたものかと困惑の表情だ。
 と、虎之助が現われた。虎之助だけではない、竜二も一緒だ。さらに、竜二はみきを連れていた。
「へへへ……」竜二は得意そうな笑顔をしている。「みきちゃんを助けたぜ」
 そう言うと、みきとつないでいた手を振る。みきはされるがままになっている。
「みきちゃん、良かったわ」さとみは笑みを浮かべる。「大丈夫?」
「わたしはだいじょうぶよ」みきは相変わらず大人びた答え方をする。「ぜんぜんこわくなかったわ」
「他のみんなは?」さとみが訊く。「どうやって、みきちゃんだけ助かったの? ……まさかとは思うけど、竜二が助けてくれたとか?」
「いっぺんにいろいろきくのね」みきはため息をつく。「それに、きょうはポコおねえちゃんじゃないのね。ポコおねえちゃんのほうがにあっているわ」
「それは良いから……」さとみは無理矢理は笑みを浮かべながら言う。……やっぱりこの子、苦手だわ。さとみは思った。「さあ、答えてちょうだい」
「おいおい、さとみちゃん、そんな怒ったような言い方はダメだよ」竜二が言う。「ほら、泣き出しそうじゃないかよう」
 竜二に言われて、みきを見ると、目に涙を溜めていた。さとみの視線に気がつくと、みきは下を向いた。
「みきちゃん、ごめんなさい」さとみはしゃがみ込んで、みきと同じ視線になる。「怒っているんじゃなくって、春美先生やお友達を助けたくって、つい……」
「わかっているわ」みきは顔を上げた。目を何度も瞬かせて涙を散らしている。「……わたしはむりやりはしってにげたの。りゅうじおじちゃんがみえたから」
「そうなんだよ」竜二が言う。「様子を見に四階に行ったら、見張りと黒い影がいてさ……」
「影もいたの?」
「そうなんだよ」
「こりゃあ、嬢様を待っているって感じでやすえねぇ……」
「豆蔵、怖い事言わないでよう」
「ですが、わたしも危ないと思いますよ」
「みつさんも……」
「わたくしも思いますわ」
「冨美代さんまで……」
「……それでさ」竜二が話を続ける。「いきなりみきちゃんがオレの方へ走って来てさ。だから、オレ、とっさにみきちゃんを連れて消えたんだ」
「わたし、竜二ちゃんとみきちゃんを二階の廊下で見つけたのよ」虎之助が言う。「でもね、みきちゃんって偉いのよ。泣かなかったんだから。返って、竜二ちゃんの方が『どうしよう、どうしよう』って半泣きだったわ」
「おい、それは言わない約束だろう」竜二が冗談めかして言う。「でもまあ、なんとか一人でも助けられて良かったよ」
「見張りの連中は追いかけて来なかったの?」
 さとみは、結局は何にもしていないくせに男得意げな竜二に、うんざりしながら訊く。
「……そう言えば、追いかけて来ないなあ……」
 今さらのように言う竜二に、さとみはため息をつく。
「まあ、逃げ出したのが女の子なんで、見張りも影野郎も気にしちゃいねぇんでしょう」豆蔵が言う。「目当ては嬢様でやすからね。残りのみんなを助けるためにやって来ると踏んでいるんでやすよ」
「では、雁首を揃えている今が好機!」みつが言い、鯉口を切る。「影は倒せずとも、見張りは倒せましょう。さすれば、囚われの者たちは奪還可能かと」
「左様ですわ」冨美代は手にした薙刀の石突で床をとんと打つ。「早速参りましょう!」
「でも、みきちゃんを連れてはいけないわ……」さとみがみきを見て言う。「じゃあ、竜二とここに居てもらおうかな」
「竜二ちゃんはあのボクちゃんたちに慕われているわ」虎之助が言う。「わたしたちだけじゃ、言う通りにしてくれないわよ。竜二ちゃんは必要だわ」
 さとみは、まさきときりとのやんちゃコンビを思い浮かべ、うんざりする。
「たしかに、それは言えるわねぇ……」
「それじゃ、こうしやしょう」豆蔵が割って入る。「あの影野郎は嬢様を狙っている。そんな所へわざわざ嬢様が行くのは危ねぇ。でやすから、嬢様はここでその子と一緒に待っていておくんなさい」
「でも、それじゃ……」
「ははは。万が一、あっしらがやられても、嬢様がいれば何とかなりまさあ」
 豆蔵は冗談めかして言うが、そこには決死の覚悟が見て取れた。みつも冨美代も虎之助も大きくうなずく(竜二もうなずいているがさとみの関心外だった)。
「……分かったわ…… でも、無理しないで、危ないと思ったすぐに戻って来て」
 皆はうなずき、すっと消えた。
 さとみとみきが残った。


つづく


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