昼休みが終わり、午後の授業が始まる。
眠い目を擦りながらいるさとみだったが、ふと教室の外に豆蔵がいるのを見つけた。豆蔵は軽く頭を下げた。さとみは霊体を抜け出させた。
「豆蔵、何か分かったのね?」
「へい」豆蔵はうなずく。「あんな影野郎ごときで怖じ気づいちゃいられやせんぜ」
「わあっ、頼もしい事言ってくれるわね」さとみはにこにこする。「春美さんたちを助けてあげたいけど、どうしたら良いのかって悩んでいたから、嬉しいわ」
「やっぱり嬢様は逞しいでやすねぇ……」
豆蔵は昨夜の百合恵との会話を思い出してしみじみと言う。
「それで?」さとみは豆蔵の感慨に頓着する事無く訊く。「春美さんたち、どこにいるの?」
「あちこちの伝手を巡って、見つけやした」豆蔵は険しい表情になる。「春美さんたちは、この学校の中におりやす」
「え、そうなの?」さとみはほっとする。「わたし、とんでもない所に連れて行かれたのかって、思ってたから、安心したわ。……じゃあ、早速迎えに行きましょう、って、学校のどこなの?」
「へい…… それが、あの、北校舎って所でして。あの辺りを漂っている野郎に訊きやした」
「また?」
「あっしも見てめぇりやした……」豆蔵が続きを言おうか躊躇している。さとみはうなずいたので続ける。「一番上の廊下にみんなでかたまって居やした。ただ、何とも柄の悪そうな霊体どもが見張りをしているんです」
「見張り?」
「そうなんで……」
「じゃあ、みんなで殴り込みを掛けましょう!」
「そうしてぇんですが、どうも、あそこは影野郎の棲家みてぇで、見張りのヤツら、妙に力が上がっていやがるんで……」
「怖じ気づかないんじゃなかったの?」
「そうは言いやしたが……」
「苦戦しそうなの?」
「へい……」
「そう……」
さとみはおでこをぺちぺちし始める。
「豆蔵さん」そう声がして、みつが現われた。「何を弱気な事を言っているのですか」
「左様ですわ、豆蔵様」薙刀を持った冨美代が現われた。「相手がどれ程の者であろうと、所詮は下郎。正義の負けるはずがございません」
「そうよ豆ちゃん!」虎之助が現われた。「わたしたち大和撫子軍団の前には敵などいないわよ!」
……いや、虎之助は違うんじゃないかしら。さとみは思ったが、頼もしい軍団登場に笑みが浮かぶ。
「そうは言いやすが、あの様子から見て、影野郎が何かしていますぜ。その辺の碌でなしどもとは段違いでさあ」
豆蔵が言っているのは、最近学校内で見かけるようになった霊体たちの事だ。影の悪影響で、碌でなしたちが集まってきている。
「分かっています」みつが言う。「しかし、弱きを助け強きを挫く、さらには相手は悪。それに、居所まで分かっていて、何もしないと言うのは、武士道に恥じる事です」
「素敵ですわ、みつ様!」冨美代は目を輝かせる。「それでこそ武士! ああ、嵩彦様にも訊いていただきたい言葉でございますわ!」
「あら、嵩彦さんと喧嘩してたんじゃなかったの?」
虎之助が冨美代にからかう様に訊く。冨美代はぽっと頬を染めた。
「やはり、思い巡るのは嵩彦様のお顔や仕草でございますの…… この件が片付きましたら、わたくし、嵩彦様を追うつもりでございますわ」
「うむ、それが宜しいでしょう」みつがうなずく。「夫婦は共に居てこそ夫婦ですから」
「そうね」虎之助は笑む。「じゃあ、とっとと片付けちゃいましょう!」
さとみは自称大和撫子軍団を見て、頼もしくなった。しかし、豆蔵の渋い表情に不安も拭えない。
「豆蔵……」
「へい、まあ、これだけ強いお気持ちを皆さんが持っているんなら、行けるんじゃねぇでしょうかねぇ」
豆蔵は不安そうなさとみにうなずいて見せた。
「じゃあ、行きましょう」さとみは言ってから、ふと思った。「あれ? もう一人いたような……?」
「嬢様、お戯れを言っちゃいけやせん。竜二さんでやしょう?」
「ああ、そうだったわ」本気で忘れていたさとみだった。「……どうしてここに居ないの?」
「先に北校舎に行って様子を見ておりやすよ」
「大丈夫なの?」
「子供たちの事が係っているってんで、自分から買って出やした」
「無茶しないかしら……」
「心配なさっておいでで?」
「心配よぉ」さとみは言うと、ぷっと頬を膨らませる。「竜二って、短絡的じゃない? いきなり飛び出して行って相手に捕まっちゃうってこと、十分にあり得るから」
「確かに……」豆蔵はうなずく。皆も同様だった。「でしたら、尚の事、すぐに参ぇりやしょう」
つづく
眠い目を擦りながらいるさとみだったが、ふと教室の外に豆蔵がいるのを見つけた。豆蔵は軽く頭を下げた。さとみは霊体を抜け出させた。
「豆蔵、何か分かったのね?」
「へい」豆蔵はうなずく。「あんな影野郎ごときで怖じ気づいちゃいられやせんぜ」
「わあっ、頼もしい事言ってくれるわね」さとみはにこにこする。「春美さんたちを助けてあげたいけど、どうしたら良いのかって悩んでいたから、嬉しいわ」
「やっぱり嬢様は逞しいでやすねぇ……」
豆蔵は昨夜の百合恵との会話を思い出してしみじみと言う。
「それで?」さとみは豆蔵の感慨に頓着する事無く訊く。「春美さんたち、どこにいるの?」
「あちこちの伝手を巡って、見つけやした」豆蔵は険しい表情になる。「春美さんたちは、この学校の中におりやす」
「え、そうなの?」さとみはほっとする。「わたし、とんでもない所に連れて行かれたのかって、思ってたから、安心したわ。……じゃあ、早速迎えに行きましょう、って、学校のどこなの?」
「へい…… それが、あの、北校舎って所でして。あの辺りを漂っている野郎に訊きやした」
「また?」
「あっしも見てめぇりやした……」豆蔵が続きを言おうか躊躇している。さとみはうなずいたので続ける。「一番上の廊下にみんなでかたまって居やした。ただ、何とも柄の悪そうな霊体どもが見張りをしているんです」
「見張り?」
「そうなんで……」
「じゃあ、みんなで殴り込みを掛けましょう!」
「そうしてぇんですが、どうも、あそこは影野郎の棲家みてぇで、見張りのヤツら、妙に力が上がっていやがるんで……」
「怖じ気づかないんじゃなかったの?」
「そうは言いやしたが……」
「苦戦しそうなの?」
「へい……」
「そう……」
さとみはおでこをぺちぺちし始める。
「豆蔵さん」そう声がして、みつが現われた。「何を弱気な事を言っているのですか」
「左様ですわ、豆蔵様」薙刀を持った冨美代が現われた。「相手がどれ程の者であろうと、所詮は下郎。正義の負けるはずがございません」
「そうよ豆ちゃん!」虎之助が現われた。「わたしたち大和撫子軍団の前には敵などいないわよ!」
……いや、虎之助は違うんじゃないかしら。さとみは思ったが、頼もしい軍団登場に笑みが浮かぶ。
「そうは言いやすが、あの様子から見て、影野郎が何かしていますぜ。その辺の碌でなしどもとは段違いでさあ」
豆蔵が言っているのは、最近学校内で見かけるようになった霊体たちの事だ。影の悪影響で、碌でなしたちが集まってきている。
「分かっています」みつが言う。「しかし、弱きを助け強きを挫く、さらには相手は悪。それに、居所まで分かっていて、何もしないと言うのは、武士道に恥じる事です」
「素敵ですわ、みつ様!」冨美代は目を輝かせる。「それでこそ武士! ああ、嵩彦様にも訊いていただきたい言葉でございますわ!」
「あら、嵩彦さんと喧嘩してたんじゃなかったの?」
虎之助が冨美代にからかう様に訊く。冨美代はぽっと頬を染めた。
「やはり、思い巡るのは嵩彦様のお顔や仕草でございますの…… この件が片付きましたら、わたくし、嵩彦様を追うつもりでございますわ」
「うむ、それが宜しいでしょう」みつがうなずく。「夫婦は共に居てこそ夫婦ですから」
「そうね」虎之助は笑む。「じゃあ、とっとと片付けちゃいましょう!」
さとみは自称大和撫子軍団を見て、頼もしくなった。しかし、豆蔵の渋い表情に不安も拭えない。
「豆蔵……」
「へい、まあ、これだけ強いお気持ちを皆さんが持っているんなら、行けるんじゃねぇでしょうかねぇ」
豆蔵は不安そうなさとみにうなずいて見せた。
「じゃあ、行きましょう」さとみは言ってから、ふと思った。「あれ? もう一人いたような……?」
「嬢様、お戯れを言っちゃいけやせん。竜二さんでやしょう?」
「ああ、そうだったわ」本気で忘れていたさとみだった。「……どうしてここに居ないの?」
「先に北校舎に行って様子を見ておりやすよ」
「大丈夫なの?」
「子供たちの事が係っているってんで、自分から買って出やした」
「無茶しないかしら……」
「心配なさっておいでで?」
「心配よぉ」さとみは言うと、ぷっと頬を膨らませる。「竜二って、短絡的じゃない? いきなり飛び出して行って相手に捕まっちゃうってこと、十分にあり得るから」
「確かに……」豆蔵はうなずく。皆も同様だった。「でしたら、尚の事、すぐに参ぇりやしょう」
つづく
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます