終業時間になった。
何かといえばコーイチを見てニタニタ笑っていた林谷が立ち上がった。その時は真面目な顔になっていた。
「西川新課長(「仮課長だ!」すかさず西川が言う)、今日のパーティの準備をしたいと思いますので、これで帰ります。八時にまたお会いしましょう」
それからコーイチのそばに寄って「彼女も連れておいでよ」とウインクしながらささやいた。
コーイチが「ですから、あれは清水さんの勝手な予言話で……」と言う前に林谷は出て行った。
「さあて、西川新課長(「仮課長だ!」すかさず西川が言う)、私もそろそろ失礼しようかな。なにせ娘とその友達とを連れて行かねばならないんでね」
印旛沼も言って立ち上がった。
「なんでも雑誌の撮影がさっきまであって、それから着替えて化粧してどうしてこうしてとあるようで、かなり時間がかかるらしい。ひょっとして着くのはパーティが始まってからになるかもしれないねぇ」
それからコーイチに向かって指をパチンと鳴らして赤い一輪のバラを出し「彼女へのプレゼントだ。会えるのを楽しみにしているよ」と言ってバラを渡した。
コーイチが「ですから、あれは清水さんの勝手な予言話で……」と言う前に印旛沼は出て行った。
「私も『黒仲間』たちと待ち合わせているのでお先に失礼しますわ、西川新課長(「仮課長だ!」すかさず西川が言う)」
清水はバッグから真っ黒な表面に真っ赤な訳の分からない文字の書かれた携帯電話を取り出しながら立ち上がった。
「今日のコーイチ君の出来事を報告して意見を聞いておきたいの。それからパーティへ皆で向かいますわ、うふふふふ……」
それからコーイチの方へ「予言的中を期待しててね」と付け足した。
コーイチが「予言? 何を馬鹿な!」と言おうとする前に清水は出て行った。
営業四課にコーイチと西川だけになった。
「コーイチ、悪いけど、吉田部長と岡島の様子を見て来てくれないかな」
西川が言った。コーイチは立ち上がった。
「そう言えば、午前中に吉田部長の私物を持って行った時、二人とも書類の山に埋まって頭だけ出していました」
「そうか。そんな状態じゃ、整理ははかどってはいないだろうな。整理は明日また行うように伝えて、パーティに来るように伝えておいてくれないか」
「分かりました。でも、あの書類の山から抜け出せるかなぁ……」
「大丈夫さ。ちょっと耳を貸しな」
西川がコーイチにごにょごにょと何か伝えた。
「これを言えば、噴火したみたいに飛び出るさ」
コーイチは廊下に出て、午前中と全く変わっていない資料保管室へと向かった。
「部長……」
コーイチは書類の山に声をかけた。書類が少し動いて吉田部長の首が出て来た。少し離れた所に岡島の首も出た。
「なんだ?」
二人ともヤケになっているようだ。
「整理は明日にして、パーティへ来てください。なんでも、社長をはじめ、あちこちのお偉いさんたちもいっぱいいらっしゃるようです」
途端に変化が起きた。吉田部長と岡島はまさに噴火したかのような勢いで書類の山から本当に飛び出した。その時、大きく動いた書類がコーイチに向かって溶岩のように流れ出した。
「わっ、わっ、わ!」
書類を避けようと逃げ出したコーイチは、非常階段へ通じる扉を押し開けてしまった。踏みとどまろうとしたものの間に合わず、コーイチは二十二段ある階段を一気に転げ落ちてしまった。
踊り場にひっくり返っているコーイチに流れ出た書類が次々と降りかかって来た。
コーイチはのろのろと立ち上がった。幸いケガ一つしてはいなかった。
「いやいやいやいや、まいったなあ」
コーイチは苦笑いを浮かべながら誰に言うわけでもなく言った。
つづく
何かといえばコーイチを見てニタニタ笑っていた林谷が立ち上がった。その時は真面目な顔になっていた。
「西川新課長(「仮課長だ!」すかさず西川が言う)、今日のパーティの準備をしたいと思いますので、これで帰ります。八時にまたお会いしましょう」
それからコーイチのそばに寄って「彼女も連れておいでよ」とウインクしながらささやいた。
コーイチが「ですから、あれは清水さんの勝手な予言話で……」と言う前に林谷は出て行った。
「さあて、西川新課長(「仮課長だ!」すかさず西川が言う)、私もそろそろ失礼しようかな。なにせ娘とその友達とを連れて行かねばならないんでね」
印旛沼も言って立ち上がった。
「なんでも雑誌の撮影がさっきまであって、それから着替えて化粧してどうしてこうしてとあるようで、かなり時間がかかるらしい。ひょっとして着くのはパーティが始まってからになるかもしれないねぇ」
それからコーイチに向かって指をパチンと鳴らして赤い一輪のバラを出し「彼女へのプレゼントだ。会えるのを楽しみにしているよ」と言ってバラを渡した。
コーイチが「ですから、あれは清水さんの勝手な予言話で……」と言う前に印旛沼は出て行った。
「私も『黒仲間』たちと待ち合わせているのでお先に失礼しますわ、西川新課長(「仮課長だ!」すかさず西川が言う)」
清水はバッグから真っ黒な表面に真っ赤な訳の分からない文字の書かれた携帯電話を取り出しながら立ち上がった。
「今日のコーイチ君の出来事を報告して意見を聞いておきたいの。それからパーティへ皆で向かいますわ、うふふふふ……」
それからコーイチの方へ「予言的中を期待しててね」と付け足した。
コーイチが「予言? 何を馬鹿な!」と言おうとする前に清水は出て行った。
営業四課にコーイチと西川だけになった。
「コーイチ、悪いけど、吉田部長と岡島の様子を見て来てくれないかな」
西川が言った。コーイチは立ち上がった。
「そう言えば、午前中に吉田部長の私物を持って行った時、二人とも書類の山に埋まって頭だけ出していました」
「そうか。そんな状態じゃ、整理ははかどってはいないだろうな。整理は明日また行うように伝えて、パーティに来るように伝えておいてくれないか」
「分かりました。でも、あの書類の山から抜け出せるかなぁ……」
「大丈夫さ。ちょっと耳を貸しな」
西川がコーイチにごにょごにょと何か伝えた。
「これを言えば、噴火したみたいに飛び出るさ」
コーイチは廊下に出て、午前中と全く変わっていない資料保管室へと向かった。
「部長……」
コーイチは書類の山に声をかけた。書類が少し動いて吉田部長の首が出て来た。少し離れた所に岡島の首も出た。
「なんだ?」
二人ともヤケになっているようだ。
「整理は明日にして、パーティへ来てください。なんでも、社長をはじめ、あちこちのお偉いさんたちもいっぱいいらっしゃるようです」
途端に変化が起きた。吉田部長と岡島はまさに噴火したかのような勢いで書類の山から本当に飛び出した。その時、大きく動いた書類がコーイチに向かって溶岩のように流れ出した。
「わっ、わっ、わ!」
書類を避けようと逃げ出したコーイチは、非常階段へ通じる扉を押し開けてしまった。踏みとどまろうとしたものの間に合わず、コーイチは二十二段ある階段を一気に転げ落ちてしまった。
踊り場にひっくり返っているコーイチに流れ出た書類が次々と降りかかって来た。
コーイチはのろのろと立ち上がった。幸いケガ一つしてはいなかった。
「いやいやいやいや、まいったなあ」
コーイチは苦笑いを浮かべながら誰に言うわけでもなく言った。
つづく
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