「おい、コーイチ、そんな所で何をやってるんだ!」
上から声がした。転げ落ちた階段を見上げると、扉のある踊り場に岡島が立っていて、コーイチを見下ろしていた。
「お前がパーティに行くように言いに来たくせに、そんな所で転げ回ってホコリまみれになっていちゃあ、お前の方がパーティに行かれないぜ」
部長と二人して書類の山から飛び出したせいじゃないか、自分が悪いとは全く思わない性分は相変わらずだな。
「ま、どっちにしてもだ、お前は居ても居なくても変わらないけどな」
岡島は自分の髪の毛をやたらと触りながら言った。
「今夜のパーティでボクがあちこちのお偉いさんたちに認められ、近いうちに世界を乱舞するほどに有名になるのさ。ボクの名を誰もが知るようになり、すべての面でリーダー的な存在になるんだ…… おい、コーイチ、聞いているのか?」
無表情で床の一点を見つめているコーイチに岡島が言った。コーイチは自分の右耳を指差しながら答えた。
「聞いてるよ、こっちの耳で」
コーイチは岡島が訳の分からない自慢話を始めると、最初のうちこそ相槌を打ってはいたものの、最近はもっぱらこんな答え方をするようになっていた。早い話が「つきあいきれない」と言う事だ。
「あらあら、話を聞いていると『オレって凄え』って言ってるみたいね」
不意にコーイチの背後から若い女の可愛らしい声がした。聞き覚えがあった。コーイチは振り返った。その可愛らしい顔には見覚えがあった。赤いふわふわしたブラウスに赤いミニスカート姿だった。腰まである黒髪がつややかだ。
「あなた、そんな偉そうにしていると、今に痛い目に遭うわよ。それに、あなた自身が思っているほど、他の人はあなたの事に関心なんて持っていないの」
「な、なんて事を言うんだ!」
岡島が怒鳴った。しかし、全く動じる気配はなかった。逆に口元にせせら笑いを浮かべた。
「あなたは臆病で嫉妬深いの。本当は気付いているんでしょ、コーイチ君に負けているって」
「なんだと! ボクは選ばれた特別な人間だ! 母も言っていた!」
「お母さんだけが言っていた、が正解でしょ? 他は誰も言ってないじゃない、あなた以外は」
「うっ、くっ……」
岡島は踊り場にガックリと両膝と両手をついてしまった。そのままの状態で固まってしまったかように動かなかった。コーイチはそんな岡島を見つめていた。
「あらあら、自分をかわいそうなヤツに仕立てるのは上手いものね。でも誰も同情なんかしないから、やめたほうが良いわよ。んふふふふ……」
「あっ! き、君は……」
引き出しの中の…… 電話の中の……
コーイチはそう言いかけて振り返ると、そこには誰もいなかった。
つづく
上から声がした。転げ落ちた階段を見上げると、扉のある踊り場に岡島が立っていて、コーイチを見下ろしていた。
「お前がパーティに行くように言いに来たくせに、そんな所で転げ回ってホコリまみれになっていちゃあ、お前の方がパーティに行かれないぜ」
部長と二人して書類の山から飛び出したせいじゃないか、自分が悪いとは全く思わない性分は相変わらずだな。
「ま、どっちにしてもだ、お前は居ても居なくても変わらないけどな」
岡島は自分の髪の毛をやたらと触りながら言った。
「今夜のパーティでボクがあちこちのお偉いさんたちに認められ、近いうちに世界を乱舞するほどに有名になるのさ。ボクの名を誰もが知るようになり、すべての面でリーダー的な存在になるんだ…… おい、コーイチ、聞いているのか?」
無表情で床の一点を見つめているコーイチに岡島が言った。コーイチは自分の右耳を指差しながら答えた。
「聞いてるよ、こっちの耳で」
コーイチは岡島が訳の分からない自慢話を始めると、最初のうちこそ相槌を打ってはいたものの、最近はもっぱらこんな答え方をするようになっていた。早い話が「つきあいきれない」と言う事だ。
「あらあら、話を聞いていると『オレって凄え』って言ってるみたいね」
不意にコーイチの背後から若い女の可愛らしい声がした。聞き覚えがあった。コーイチは振り返った。その可愛らしい顔には見覚えがあった。赤いふわふわしたブラウスに赤いミニスカート姿だった。腰まである黒髪がつややかだ。
「あなた、そんな偉そうにしていると、今に痛い目に遭うわよ。それに、あなた自身が思っているほど、他の人はあなたの事に関心なんて持っていないの」
「な、なんて事を言うんだ!」
岡島が怒鳴った。しかし、全く動じる気配はなかった。逆に口元にせせら笑いを浮かべた。
「あなたは臆病で嫉妬深いの。本当は気付いているんでしょ、コーイチ君に負けているって」
「なんだと! ボクは選ばれた特別な人間だ! 母も言っていた!」
「お母さんだけが言っていた、が正解でしょ? 他は誰も言ってないじゃない、あなた以外は」
「うっ、くっ……」
岡島は踊り場にガックリと両膝と両手をついてしまった。そのままの状態で固まってしまったかように動かなかった。コーイチはそんな岡島を見つめていた。
「あらあら、自分をかわいそうなヤツに仕立てるのは上手いものね。でも誰も同情なんかしないから、やめたほうが良いわよ。んふふふふ……」
「あっ! き、君は……」
引き出しの中の…… 電話の中の……
コーイチはそう言いかけて振り返ると、そこには誰もいなかった。
つづく
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