数人の男子生徒がわいわいしながら歩いている。その中で特に目を引く少年がいた。見るからに清々しく、笑顔もさわやかで、優しそうな雰囲気にあふれている。
「……あの子?」百合江が、その少年を指差す。「あの、さわやかな子?」
「そうです。あれが須藤建一です」アイが心配そうに百合江を見る。「……どうでしょう? さとみ姐さんにふさわしいでしょうか?」
「そうねぇ……」百合江は煙草をくわえた。「良い感じの子じゃない? アイちゃんの目は確かのようね」
「そう言って頂くと、嬉しいです!」
アイは安心したように笑顔になった。
「でも、あんな良い子が、どうしてさとみちゃんを?」
「さとみ姐さん、以前は、ちょっとぼうっとしてて、かなり取っつきにくい感じだったんだそうです。いつも、あらぬ方を向いていたとか……」
「そうなんだ……」……まあ、霊体を毎度毎度抜け出させていたら、ぼうっとしているように見えるわね、百合江は思い、にやりとする。「それで?」
「はい、それが最近じゃ明るくなって、結構人とも話すようになって……」
「アイちゃんのおかげじゃない?」
「いえ、そんな、わたしなんか!」百合江に水を向けられたアイは照れくさそうに否定した。「……それで、じわじわと男子生徒にも人気が出始めたんです」
「さとみちゃん、元々かわいい娘だからね」
「でも、変なヤツにからまれないように、わたしが守っているんです」
「麗子ちゃんは?」
「麗子は『やっと解放された!』とか言って、別行動が多くなっています」
「それは残念ねぇ」
「いえ、でも本当は、わたしとさとみ姐さんとの時間を多く作ってくれているんです」
「そうなの。優しいのね、麗子ちゃん。アイちゃん、何かお礼をしなくちゃね……」百合江はアイをじっと見つめて含み笑いをする。「もうお礼はしたようね。かなり親密になっているみたいね……」
「ね、姐さん!」
「まあ、良いんじゃない」百合江は真っ赤になって下を向いているアイから、四人の霊体へ顔を向けた。「さあて、どうしようかな……」
これから雑誌のグラビア撮影があると言うアイと別れて、百合江は近くの公園に行き、ベンチの一つに座った。
四人の霊体が力無く百合江の前に立っている。
四人の様子を見ながら、百合江は煙草に火をつけた。
「あの男の子、良さそうな子じゃない?」百合江は煙草をふっと吹いた。「わたし、さとみちゃんを応援しようかな」
四人の霊体は、え? と言った表情で百合江を見る。
「いいじゃない。さとみちゃんの代わりなら、わたしがなってあげるから」百合江はにこっと笑う。「さとみちゃん、青春してるじゃない? 『初恋少女 さとみ』『恋愛少女 さとみ』って感じだし」
「……百合江さん、そう言うけどよう……」竜二が弱々しく言う。「オレ、やっぱり、さとみちゃんが良いよ。あの、わざとらしい知らん顔がたまんないんだ……」
「あっしも、嬢様がこのままじゃ……」豆蔵は伏せていた顔を上げた。「嬢様がこのままじゃ、あまりにも中途半端な気分で……」
「わたしも同様です」みつは刀の束に手をかけて言う。「さとみ殿はわたしに、何でも斬り伏せれば良いと言うものではないと、教えてくれました。こんな別れはイヤです!」
「あの小娘を痛めつけられないなんて!」楓は鼻息を荒くして言う。「しかも、一人だけ幸せになろうなんて、許せないよ!」
百合江は四人の意見を聞き終わると、煙草を地面に落とし、白いパンプスのヒールで踏み消した。
「じゃあ、みんなの意見は、さとみちゃんを元に戻したいってことで、良いのね?」
四人の霊体は力強くうなずいた。
つづく
「……あの子?」百合江が、その少年を指差す。「あの、さわやかな子?」
「そうです。あれが須藤建一です」アイが心配そうに百合江を見る。「……どうでしょう? さとみ姐さんにふさわしいでしょうか?」
「そうねぇ……」百合江は煙草をくわえた。「良い感じの子じゃない? アイちゃんの目は確かのようね」
「そう言って頂くと、嬉しいです!」
アイは安心したように笑顔になった。
「でも、あんな良い子が、どうしてさとみちゃんを?」
「さとみ姐さん、以前は、ちょっとぼうっとしてて、かなり取っつきにくい感じだったんだそうです。いつも、あらぬ方を向いていたとか……」
「そうなんだ……」……まあ、霊体を毎度毎度抜け出させていたら、ぼうっとしているように見えるわね、百合江は思い、にやりとする。「それで?」
「はい、それが最近じゃ明るくなって、結構人とも話すようになって……」
「アイちゃんのおかげじゃない?」
「いえ、そんな、わたしなんか!」百合江に水を向けられたアイは照れくさそうに否定した。「……それで、じわじわと男子生徒にも人気が出始めたんです」
「さとみちゃん、元々かわいい娘だからね」
「でも、変なヤツにからまれないように、わたしが守っているんです」
「麗子ちゃんは?」
「麗子は『やっと解放された!』とか言って、別行動が多くなっています」
「それは残念ねぇ」
「いえ、でも本当は、わたしとさとみ姐さんとの時間を多く作ってくれているんです」
「そうなの。優しいのね、麗子ちゃん。アイちゃん、何かお礼をしなくちゃね……」百合江はアイをじっと見つめて含み笑いをする。「もうお礼はしたようね。かなり親密になっているみたいね……」
「ね、姐さん!」
「まあ、良いんじゃない」百合江は真っ赤になって下を向いているアイから、四人の霊体へ顔を向けた。「さあて、どうしようかな……」
これから雑誌のグラビア撮影があると言うアイと別れて、百合江は近くの公園に行き、ベンチの一つに座った。
四人の霊体が力無く百合江の前に立っている。
四人の様子を見ながら、百合江は煙草に火をつけた。
「あの男の子、良さそうな子じゃない?」百合江は煙草をふっと吹いた。「わたし、さとみちゃんを応援しようかな」
四人の霊体は、え? と言った表情で百合江を見る。
「いいじゃない。さとみちゃんの代わりなら、わたしがなってあげるから」百合江はにこっと笑う。「さとみちゃん、青春してるじゃない? 『初恋少女 さとみ』『恋愛少女 さとみ』って感じだし」
「……百合江さん、そう言うけどよう……」竜二が弱々しく言う。「オレ、やっぱり、さとみちゃんが良いよ。あの、わざとらしい知らん顔がたまんないんだ……」
「あっしも、嬢様がこのままじゃ……」豆蔵は伏せていた顔を上げた。「嬢様がこのままじゃ、あまりにも中途半端な気分で……」
「わたしも同様です」みつは刀の束に手をかけて言う。「さとみ殿はわたしに、何でも斬り伏せれば良いと言うものではないと、教えてくれました。こんな別れはイヤです!」
「あの小娘を痛めつけられないなんて!」楓は鼻息を荒くして言う。「しかも、一人だけ幸せになろうなんて、許せないよ!」
百合江は四人の意見を聞き終わると、煙草を地面に落とし、白いパンプスのヒールで踏み消した。
「じゃあ、みんなの意見は、さとみちゃんを元に戻したいってことで、良いのね?」
四人の霊体は力強くうなずいた。
つづく
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