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霊感少女 さとみ 番外編 12

2019年05月20日 | 霊感少女 さとみ 番外編(全32話完結)
「う~ん、さとみちゃんを元に戻すってことは、今の恋をやめさせるってことね……」
 百合江は公園のベンチに座ったまま考え込んでいる。そのうちに目を閉じて考えに集中しはじめた。無意識に脚を組む。深いスリットから、白いすらりとした形の良い脚が太腿から露わになった。
「浩! 何見てんのよ!」
 突然、若い女の怒声と、ばちん! と何かを強く叩く音がした。
 百合江は目を開けた。
 左のほほを押さえて涙目になっている若い男と、怒りを全身に表わしながら歩き去る若い女の後ろ姿とがあった。
 どうやら、百合江の前を通り過ぎるこの若いカップルの男の方が、百合江の脚に思わず目を留めたらしい。女はそれが気に食わなかったようだ。
「久美ちゃ~ん!」
 浩は泣きながら久美の後を追うが、久美は振り返りもせず、ずんずんと行ってしまった。浩はその場にがっくりと膝をついた。
「そうだ! これだわ!」
 百合江の目が輝く。
 浩はとぼとぼと戻って来た。百合江は脚を組んだまま、足首から先をぶらぶらさせ、笑顔になっている。
「浩くん! ありがとね!」
 百合江は浩に手を振った。
 浩は泣きながら走り去って行った。しかし、その前に百合江の脚をしっかりと脳裏に焼き付けるのを、浩は忘れてはいなかった。
 これらの様子を四人の霊体は見ていた。
「……百合江殿……」みつが、むき出しになっている百合江の脚を見る。「いささか…… はしたないかと……」
「はん! うぶな小娘が口出しするんじゃないよ!」楓が馬鹿にしたようにみつに言う。「からだはね、女の武器なのさ! ……おっと、剣士様じゃ、いくら女でも、男勝りのごつごつ脚だろうから、武器にゃならないか! あはははは!」
 楓は大声で笑った。みつが刀を抜いて上段に構える。
「おみっちゃん、落ち着きなよ」竜二が割って入る。「百合江さん、何か考えついたみたいだしさ」
「竜二さん!」みつが上段の構えのまま、竜二をにらみつけた。「先だってから『おみっちゃん』は、やめて下さいと言っているじゃないですか!」
「まあまあ、みつ様……」豆蔵がみつの前に立つ。そして、百合江をちらちら見ながら言う。豆蔵は自分の勇ましさを百合江にアピールしているようだ。「ここは竜二さんの言う通り、百合江さんの話を聞きやしょう」
「そうだ、そうだ!」楓が言って、あかんべえをしてみせた。「お前さんも、剣じゃなくて、頭をお使いよ~だ!」
「……」むっとしたままで、みつは刀を納めた。それから、くるりと皆に背を向けて、声を殺して叫んだ。「修業! 修業! 修業!」
「……もう済んだかしら?」百合江が声をかけた。皆がうなずいた。「じゃ、わたしの計画を話すわね……」
 皆が固唾を飲む。百合江は組んでいた脚を戻し、えへんと咳払いをした。
「今の浩くんを見てもわかると思うけど、男の子って別の女の子も気になるものなのよ。だから、さとみちゃんの彼氏の建一君も同じだと思うのよね」
「なるほどね」
 楓がしたり顔でうなずく。
「わたしには、おっしゃる意味が、わかりかねます……」
 みつは腕組みして頭をひねる。
「女を捨てた剣士様にゃ、一生涯わかりゃしないよ!」
 楓はみつに言い放つと笑い出した。みつの手が刀の束にかかる。
「二人ともやめなさいな」百合江が二人をたしなめる。「でも、楓ちゃんの方が話は早そうね」
「楓ちゃんだって!」楓がぶんむくれた。「わたしゃ、四天王の楓姐さんだよ! ちゃん付けはないじゃないか!」
「ごめんごめん、楓姐さん」百合江が笑う。「良く見りゃ、若くてかわいいからさ、ついついね」
「ふん!」楓は鼻を鳴らしたが、まんざらでもない顔をしている。「ま、今回は許してやるよ」
「……で、何をするんですか?」みつは真剣な顔だった。「わたしにも出来るのでしょうか?」
「まあ、剣士様にゃ無理なんじゃないかい?」楓がからかうように言う。「だって、いくら若いとは言え、男を相手にするんだよ」
「そうね」百合江も大きくうなずく。相手は男だわね」
「男!」みつが真っ赤になる。「……そ、それって、まさか…… 殿方の……お尻を…… あの、その……」
「そうだよ。教えてやっただろう?」楓が笑う。「ぺちぺちするんだよ」

つづく


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