お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

霊感少女 さとみ 1

2011年02月21日 | 霊感少女 さとみ (全132話完結)
「でさあ、この前行ったライブだけどさあ、高志ったら、いきなりわたしの手を握ってきちゃってさあ」
「ふーん・・・」
「もう、ビックリしちゃったわけ。だってさあ、高志の横には、今付き合っている祥子がいるのよ! こんなこと有りって思う?」
「ふーん・・・」
「・・・さとみさあ!」
 うんざりしたような声を出し、立ち止まって麗子が横を見る。背の高い麗子を見上げて、さとみも立ち止まる。
「どうしたの、麗子?」さとみは不思議そうな顔をしている。「何かあった?」
「あなた、わたしの話、聞いてる?」からだをやや折り曲げ、麗子がさとみに顔を近づける。「こんな重大な事を話しているのに、あなたは『ふーん・・・』って、うわの空じゃない!」
「そんな事ないわよ、ちゃんと聞いているわよ、こっちの耳で」
 さとみはいつも麗子の左側に立っているので、自分の右耳の耳たぶを摘まんで見せた。
「そう言う事じゃなくって・・・」麗子は大きく溜め息をついた。「・・・ま、いいわ。とにかく聞いててちょうだい」
 麗子は前を向いて歩き出した。大股で歩く麗子に遅れまいとして、さとみはやや小走りになる。
「でさ、思わず高志の顔を見たの。そしたらさ、高志ったら、すっとぼけちゃってるわけ」
「ふーん・・・」
「何げなく高志の反対の手を見たら、しっかり祥子の手も握っているの!」
「ふーん・・・」
 さとみの息が上がってきているが、麗子はお構い無しに、ずんずんと前を向いて歩きながら喋り続ける。
「これって、一体どういうわけだと思う? これってさ、いわゆる、二股って奴なんじゃない? ・・・確かに、高志は良い男だとは思うし、はっきり言って、わたしの方が祥子より美人でスタイルも良いけど。でもさ、やっぱり問題よねえ? 高志があんな事しないで、直接はっきりとわたしに言ってくれたら、わたしだって考えちゃうけど、いきなり手を握ってくるなんて、わたしは安く見られたって事でしょ? 腹を立てたくもなるわよねえ? でさ、思いっきり、高志の爪先をハイヒールのかかとで踏んづけてやったのよ。高志もこんなことしている手前、声を出せず、慌ててわたしの手を放したわけ。ねえ、わたしのやって事って間違いないわよね? 正義の鉄槌って事よね?」
 返事が無い。「ふーん」が無い。麗子は立ち止まって、さとみが居るはずの左側を見る。そこには白い子犬が尻尾を振りながら、ちょこんと座っており、はあはあ息を弾ませていた。麗子と視線が合うと「ワン」と一声鳴いた。
「・・・さとみ・・・ あなた犬にまでなれるようになったわけえ?」
 麗子は呆然として子犬を見下ろし、次いでしゃがみ込んだ。持ち上げてしげしげを顔を見る。
「そう言えば、なんとなく、さとみに似ているような・・・」
 前方から「すみませーん」と叫びながら中年のおばさんが駆けて来た。子犬以上に息を弾ませながら、麗子の前で立ち止まる。両膝に手を当て、息を整えている。
「どうも、あり、がと、う・・・」整わぬ息の間からおばさんが礼を言う。「うちの、セバ、セバスチャン・・・ 油断すると、すぐ、走って、どこかへ、行くのよ・・・」
 おばさんは麗子の手から奪い取るようにして子犬を取り上げると、頬擦りを始めた。
「セバスチャン、だめでしょ。世の中、悪い人が一杯なんだから・・・」
 頬擦りされているセバスチャンが、なんとなく迷惑そうにしている、麗子にはそう見えた。
 おばさんはそのまま礼も言わず、セバスチャンに色々と話しながら去って行った。
「・・・あれが、さとみじゃないとしたら・・・」
 麗子は振り返る。さとみが立っていた。公園の入り口に立ち、じっと公園の中を見つめている。
「ねえねえねえ、どうしたって言うのよ?」
 麗子が大股で歩み寄る。さとみはそれに気がついていないようだった。じっと公園の中を見つめ続けている。
「さとみったらあ!」
 麗子がさとみの肩をゆする。さとみがはっと我に返って麗子を見上げる。
「・・・何が見えているの?」
 麗子が恐る恐る聞く。さとみは大きく頷く。
「新顔が立っているのよ。それも、もの凄い格好をして・・・」

  つづく



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