綾部さとみと北瀬川麗子は、同じ公立高校に通う幼なじみだ。今年で二年生になる。
背が高く容姿もスタイルも良い麗子は、男子生徒の憧れの的だ。最近では何故か女子生徒にも人気がある。やたらデートだの遊びだのショッピングだのに誘われるが、よほどの事がない限り出かけない。
一方のさとみは小柄で少々ぽうっとしたところがある。「麗子のお荷物」などと陰口を叩かれているが、本人は全く意に介していない。いつも在らぬ方を見ていたり、一点をじっと見つめ続けたりしている。さとみに話しかけるのは麗子だけだったが、それにも上の空な返事を返すのが常だった。
この二人、何故かいつも一緒に居る場合が多い。しかし、幼なじみと言うだけでいつも一緒にいるわけではない。
さとみは幼い頃から、普通の人には見えないものが見えていた。
霊だ。
見えるだけではない。
会話が出来るのだ。一点をじっと見つめている時に、霊と会話をしているのだ。会話して霊が納得すれば、素直にあの世へと逝ってくれる。
しかし、麗子は、さとみはそれ以上の能力を秘めているのではないか、と思っている。だから、先程、さとみが子犬になったのだと思ったのだ。
一方、麗子にはそんな事は出来ない。だが、さとみには出来ない事ができる。
霊に憑依されやすいのだ。
さとみの説得に応じず、この世に思い残した事が強い霊が、思いを遂げるために麗子のからだを使うのだ。
霊が思いを遂げれば、機嫌よく麗子から離れ、あの世へとためらい無く逝く。
その間、麗子は霊の持つ人格に変わってしまう。乱暴で粗野な親父になることもあれば、うんと幼い女の子になることもある。麗子にはその間の記憶はないが、とても嫌な感じが残り、とても疲れてしまう。さとみにどんな状態だったか聞いても答えない。それに、さとみが必要としている時以外は、霊の居るところには呼ばれない。霊に関しては麗子は「さとみのお荷物」なのかもしれない。
「・・・で、どんな恰好なのよ?」
麗子は言いながら、さとみの背後に隠れる。
「大丈夫よ。憑依するような感じがしないから」
さとみは必死に身を屈めている麗子に振り返る。さとみの口元に小さな笑みが浮かぶ。
「な、何よう!」その笑みに『弱虫麗子!』を見て取った麗子がすっと身を伸ばし、さとみを見下ろし睨みつける。「ちょっとばっかし、見えるからって、いい気にならないで!」
「わたしが言った大丈夫は」さとみも負けじと、見上げながら睨む。「今は、大丈夫って事よ。わたしの手に負えなくなったら、どうなるか分からないわ。今度はどんな麗子になっちゃうんだか・・・」
「馬鹿なこと言わないでよう! もう、わたしは帰るからね!」
麗子は踵を返すと、すたすたと歩き去って行った。
「・・・やっぱり、弱虫麗子なんだから・・・」さとみはしばらく麗子の後ろ姿を見ていたが、再び公園の中へ視線を戻した。「さて・・・っと」
さとみは公園に入って行く。
つづく
web拍手を送る
背が高く容姿もスタイルも良い麗子は、男子生徒の憧れの的だ。最近では何故か女子生徒にも人気がある。やたらデートだの遊びだのショッピングだのに誘われるが、よほどの事がない限り出かけない。
一方のさとみは小柄で少々ぽうっとしたところがある。「麗子のお荷物」などと陰口を叩かれているが、本人は全く意に介していない。いつも在らぬ方を見ていたり、一点をじっと見つめ続けたりしている。さとみに話しかけるのは麗子だけだったが、それにも上の空な返事を返すのが常だった。
この二人、何故かいつも一緒に居る場合が多い。しかし、幼なじみと言うだけでいつも一緒にいるわけではない。
さとみは幼い頃から、普通の人には見えないものが見えていた。
霊だ。
見えるだけではない。
会話が出来るのだ。一点をじっと見つめている時に、霊と会話をしているのだ。会話して霊が納得すれば、素直にあの世へと逝ってくれる。
しかし、麗子は、さとみはそれ以上の能力を秘めているのではないか、と思っている。だから、先程、さとみが子犬になったのだと思ったのだ。
一方、麗子にはそんな事は出来ない。だが、さとみには出来ない事ができる。
霊に憑依されやすいのだ。
さとみの説得に応じず、この世に思い残した事が強い霊が、思いを遂げるために麗子のからだを使うのだ。
霊が思いを遂げれば、機嫌よく麗子から離れ、あの世へとためらい無く逝く。
その間、麗子は霊の持つ人格に変わってしまう。乱暴で粗野な親父になることもあれば、うんと幼い女の子になることもある。麗子にはその間の記憶はないが、とても嫌な感じが残り、とても疲れてしまう。さとみにどんな状態だったか聞いても答えない。それに、さとみが必要としている時以外は、霊の居るところには呼ばれない。霊に関しては麗子は「さとみのお荷物」なのかもしれない。
「・・・で、どんな恰好なのよ?」
麗子は言いながら、さとみの背後に隠れる。
「大丈夫よ。憑依するような感じがしないから」
さとみは必死に身を屈めている麗子に振り返る。さとみの口元に小さな笑みが浮かぶ。
「な、何よう!」その笑みに『弱虫麗子!』を見て取った麗子がすっと身を伸ばし、さとみを見下ろし睨みつける。「ちょっとばっかし、見えるからって、いい気にならないで!」
「わたしが言った大丈夫は」さとみも負けじと、見上げながら睨む。「今は、大丈夫って事よ。わたしの手に負えなくなったら、どうなるか分からないわ。今度はどんな麗子になっちゃうんだか・・・」
「馬鹿なこと言わないでよう! もう、わたしは帰るからね!」
麗子は踵を返すと、すたすたと歩き去って行った。
「・・・やっぱり、弱虫麗子なんだから・・・」さとみはしばらく麗子の後ろ姿を見ていたが、再び公園の中へ視線を戻した。「さて・・・っと」
さとみは公園に入って行く。
つづく
web拍手を送る
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます