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霊感少女 さとみ 番外編 9

2019年05月17日 | 霊感少女 さとみ 番外編(全32話完結)
「百合江殿、それは誠ですか?」
 みつが百合江に詰め寄る。
「本当にわかったんだろうね!」
 楓も負けじと百合江に詰め寄る。
「まあまあ、そうあせらないで」百合江は両手を上げて二人を制した。「さとみちゃんってさ、この泣いている二人を見てもわかるけど、意外と男性に人気があるのよね」
「まあ、さとみ殿は情の厚い方ですから、男女問わず人気はあるでしょうね」
「ふん! そのおかげで、この繁華街の主様がダメになっちまったんだ!」
「だがな、楓。そのおかげで、ここはとても住みやすくなった。人にも、霊にも、だ」
「わたしゃ居心地が悪くて仕方ないけどね」
「それは、お前が性悪だからだろう?」
「性悪、性悪って安売りするんじゃないよ! お前さんだって、女だてらに剣士だなんて、何を考えていやがるんだい! わたしに言わせりゃ、女を捨てた女、男女じゃないか!」
「なんだとお!」
「おっ、刀に手をかけたね? え? 斬るつもりかい? 悪口言われて、かっとするなんて、わたしと大差ないじゃないか!」
「まあまあ、お待ちなさいな、二人とも」百合江が間に入る。「今は、そんな争いをしている場合じゃないでしょ?」
 みつと楓はにらみ合った。そして、二人同時に「ふん!」と鼻を鳴らして、そっぽを向き合った。
「あらあら、あなたたち、妙な所で気が合うのね」百合江は含み笑いをする。同時に文句を言いかける二人を、百合江は手で制した。「……ま、早い話が、さとみちゃん、恋をしちゃっているのね」
「え……?」みつが目をまん丸に見開いた。「恋……ですか……」
「なんだって!」楓も負けないくらいに眼をまん丸にする。「あんな小娘が! あんなガキんちょが!」
「そうよ」百合江は、まん丸目玉の二人を交互に見る。「女は、恋心を抱いたら、霊感が弱くなって行くからねぇ」
「ですが、竜二さんの話ですと、前日までは普通だったと……」
「だったら、おかしくなったその日に、何かあったようね。さとみちゃんにとっちゃ、初体験なんじゃないかな……」
「初体験などと……」みつは顔を真っ赤にする。「一体、何があったのでしょうか……」
「おやおや、うぶな剣士様だねぇ……」楓が鼻で笑う。「しかし、あの小娘、なかなかやるじゃないか。ちょっと見直したよ」
「でもそれじゃ、あなたはさとみちゃんに手出しできないわよ」百合江はにっこり笑って楓に言う。「ま、わたしは別に構わないけどね。だって、さとみちゃんには、わたしは見えるから」
「それは、イヤだ!」
「わたしも…… イヤです……」
「わかった、わかったわよ」百合江は二人の真剣な眼差しに苦笑する。「とにかく、何があったのか、調べてみなくちゃいけないわ。……取り返しのつかないことが、あったのか無かったのか……」
「……取り返しのつかないこと、とは……」みつがさっきよりも顔を赤くする。「それって…… 何でしょうか……」
「ま~ったく! うぶなのかカマトトなのかは知らないけどさ! 取り返しのつかないことってのはね……」楓が面倒臭そうに言うと、みつの耳元で、ごにょごにょと説明した。「……ってことなんだよ」
「そ、そんなこと……」
 その場にしゃがみ込んで、頭を抱えてうなっているみつを、にやにやと楽しそうに見ている楓だった。
「あなた、何を言ったの?」百合江が苦しそうなみつを見ながら、楓に言った。「まさか、生々しい話をしたんじゃないでしょうね?」
「生々しいねぇ……」楓はみつを見ながら笑う。「取り返しのつかないことってのは、女が男の尻をぺちぺち叩くことだって言ってやったのさ!」
「あれまあ……」
「ふん! うぶなヤツには、こんなもんで十分だよ!」
 楓は高笑いをする。みつは「ぺちぺち、ぺちぺち……」と繰り返していた。

つづく


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