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霊感少女 さとみ 番外編 8

2019年05月16日 | 霊感少女 さとみ 番外編(全32話完結)
「みつさん! ちょい待ち!」
 百合江がみつに声をかけた。その声の鋭さに、みつの足が止まる。
「百合江殿! 何故止めるのです!」
「だって、みつさんは、さとみちゃんに楓が取り憑いたって言ってたでしょう?」
「そうですね」
「でも、あそこに楓がいるでしょう?」
「そうですね」
「と言うことは、楓はさとみちゃんに取り憑いていないってことでしょう?」
「そうですね……あっ!」みつは真っ赤になって、あわてて刀を納めた。「……楓を見て冷静さを失ってしまいました……」
「冗談じゃないよ!」口をとがらせながら楓が歩いて来る。「わたしだって、冷静さを失っているのさ!」
「それ以上近寄るな!」みつが楓に言う。冷静になっても、みつは『歩く色気』のような楓が本質的に好きではない。「それに何故、豆蔵さんといっしょなのだ?」
「ふん、ずいぶんと嫌われたもんだねぇ……」楓は苦笑しながら足を止める。「豆蔵親分がさ、向こうの橋の上につっ立ってたから、からかってやろうと近づいたんだよ。そしたらさ、何をやっても驚きも怒りもしない。しかも、うわごとみたいに『嬢様、嬢様』って繰り返しているしね。四天王の楓姐さんでも、あの時はぞっとしたよ……」
 楓はその後、豆蔵に話を聞いた。豆蔵はぽつりぽつりと涙ながらに語りだした。
「……で、話をまとめりゃあさ、あのさとみって小娘、親分やら、そこの三下野郎(楓に指差された竜二は、「せめて二下野郎って呼びやがれ!」と、わけのわからない文句を言った)やらが、見えなくなっちまったって言うじゃないか」
「いや、それだけではない……」みつが悔しそうに言う。「わたしも見えていないのだ」
「……みつ様も……」呆けたように豆蔵が割って入る。「……これで皆が皆、見えていねぇってわけで……」
「そうなると楓、お前もさとみ殿には見えないだろうな」みつが笑う。「はじめは、お前がさとみ殿に取り憑いたかと思ったが、こうなっては、お前が四天王だ何だと言ったところで、何も出来ないことになるな」
「冗談じゃないよ!」楓は爆発した。「わたしゃ、あの小娘のせいで四天王を追われたんだよ! 一生取り憑いて、一生困らせて苦しませて泣かしてやろうって決めてんだよ! それが何だって? 見えないだって? 手出しが出来ないだって? こんな不公平な話があって良いわけないじゃないか!」
「いや、それはさとみ殿には良いことだ」みつは冷静に言う。「お前のような性悪な魔手が届かぬのなら、それは幸いと申すものだ」
「ふん! わたしの性悪な魔の手が届くかどうかはともかくさ……」楓がにやりと笑う。「あんたらの姿が、あの小娘に見えないって言う方が、大変なんじゃないのかい?」
 わっと泣き声がした。豆蔵と竜二だった。
「何だい、大の男が二人して……」
 楓が呆れた顔で大泣きする男たちを見ていた。
 みつも、どう対処して良いのかわからず、泣く二人にため息をついた。
「そうか、それだ!」
 百合江がぽんと手を叩いた。楓とみつが百合江に振り返る。
「わかったわよ」百合江は大きくうなずく。「さとみちゃんが、どうしてそうなったのかがね」

つづく


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